髪型の話



相変わらず、うめめの衣装は最強だなって実感する。
衣装合わせの最後に出てきたマゼンタのロングコート風衣装は、裾がAラインに広がってシルエットがめちゃくちゃ綺麗。
高身長グループにはうってつけで、特に俺が着るとその良さが際立つように見えた。
正面の鏡を見て自分をチェックしてると、ウエストを調整してたうめめが背中から顔を覗かせた。

「うーん、ウエストこんなもんかな。奏、苦しくない?」
「大丈夫。踊ってもきつくないよ」
「じゃあここまで絞るね。安ピン刺すから動かないで」
「はーい」

今回のサマパラ用に新しく用意されたマゼンタの衣装はインパクト抜群だし、全員並んだ時に裾が横一線に見えて統一感がある。
サイズはゆったりだから中にも衣装着られるし、使い勝手も良さそう。
なんて、素人の俺が考えることはうめめも考え尽くして作ったんだろう。
安ピンを差し終わったうめめは俺を正面から見て、満足そうに笑った。

「奏いいね!身長高いから映えるよ!」
「ありがとう」
「うめめも着る?」
「着る着る」

うめめの衣装を持ってきた椿くんと入れ替わるようにハンガーラックに向かった。
先に衣装合わせ終わってたよこぴーが差し出してくれたハンガーに脱いだ衣装をかけてると、よこぴーの口が弧を描く。

「どう?」
「え、なんか違わない?」
「そうかな、可愛いと思うよ?」
「いや、なんか違うなー」
「なんかもったりしてない?」
「そう!もったり!首元嫌な感じ」
「いつもと髪型違うから、バランス難しいね」

よこぴーの視線の先はうめめの髪か。
もはやトレードマークになりつつあるうめめのショートカットは、最近になって肩を超えた。
ドラマの役作りで髪を伸ばしてる最中で、撮影が始まるまでにロングヘアって呼ばれるくらいには伸ばす必要がある。
うめめ本人は『長いの久々!』って喜んでたけど、今まで作ってきた衣装はショートカットのうめめに合わせてバランスを考えられてるわけで。

「やばい似合わないかも……」
「俺ヘアゴム持ってるからポニーテールにしたら?」
「一旦そうするけど、髪縛ることを前提に作ってないから着替えができないな。被りの衣装が多いから。あ、大河ゴムありがとう」

手櫛でぱぱっと髪をまとめて大河くんから受け取ったゴムでポニーテールを作るうめめ、の一連の動作をよこぴーがじっと見つめるから、俺の方がニヤニヤしてしまう。
タイミングがいいのか悪いのか、もってぃとリーダーと新はリハ室を出ていてよこぴーに気づくのは俺しかいない。

「……よこぴー、見過ぎ」
「見てねえよ」
「見てるよ」

見え見えの嘘を吐いてよこぴーは視線を逸らした。
気持ちはわかるよ。
好きな人がいつもと違う髪型してたら気になるよね。
俺がよこぴーの気持ちに気づいてるから余計にそう見えるのか、よこぴーは本当によくうめめのことを見てる。
話しかけるでも助けるでもなく、ただ優しく、うめめを見てる。
その視線に、俺の方が恥ずかしくなっちゃうよ。






「梅田」

サマパラ前日の通しリハが終わった後。
全員の衣装を1着ずつ最終チェックする背中に声を掛ければ、結んだ跡が残る髪を揺らしながら梅田が振り返った。
衣装合わせの時から試行錯誤してた髪型は、被りの衣装でも崩れないように結ぶことで決着したらしい。
今年のサマパラはがちゃんにアドバイスをもらったようで、その髪は綺麗なブラウンに染まっていた。

「俊介?どうしたの?」
「遅いから様子見にきた。なんか手伝う?」
「ううん、大丈夫。もうすぐ終わるから先帰ってていいよ?」
「じゃあ自分の衣装確認しながら待ってようかな」
「え、なんか気になるところあった?私見逃してたかな……」
「そういうわけじゃないけど、念の為の確認」
「えー、不安。変なところあったら教えてね」

言葉のない、『一緒にいたい』。
たぶん伝わってないけど、俺がここにいることには納得したみたいで、梅田の視線は拓也の衣装ラックに戻った。
言葉通り自分の衣装ラックの前に立ったけど、既に梅田の手によって最高の状態に整えられた衣装にすることはなくてなんとなく装飾をいじる。
あ、指先が乾燥してささくれてる。
今年の夏はサマパラを含めたグループ仕事をしつつ秋ドラマの撮影が入っている。
毎日が精一杯で、いつもよりすこしだけキリキリするような感覚がずっと体を包んでいて、自分の体のメンテナンスまで行き届いていないのかもしれない。

「疲れてる?」
「え?」
「ため息出てたよ」

横を見れば梅田が俺の顔を覗き込んでいた。
耳から落ちてきた髪をまたかける仕草が目に留まって思わず口が緩む。
うん、きっと疲れてる。
だからここに来たのかも。

「俺、結構疲れてるかも」
「だよね。明日からサマパラだし、ゆっくり休んだ方がいいよ。先に帰ってて?私は大丈夫だから」
「梅田が終わるまで待ってるよ。急がないからゆっくりでいい」
「でも明日本番だし」
「俺が本番で体調崩すと思う?」
「思わないけど心配。俊介、ドラマもやってて忙しいし」
「……梅田、耳貸して?」
「ん?」

あ、きっとこれわかってないやつだ。
わかってないから、同じことを何回言っても伝わらない。
伝わらないから、言い方を変えよう。

「……疲れてるから、少しでも長く一緒にいたいんだけど」
「っ、」
「わかった?」
「う、うん、わかった、そういうことか……」
「終わるまで待ってるね」

耳打ちでそう言葉にしたら、びっくりした顔して、嬉しそうに笑って、小さく頷いた。
やっと伝わった。


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