役が抜けない話



目が眩むくらいのフラッシュが浴びせられて視界がチカチカする。
カメラマンさんから飛んでくる指示に合わせてポーズを変えながら雑誌の撮影を進めていると、腕にするって温もりが巻き付いてきた。

「っ梅田、…近いよ」
「へ?あ、ごめん」
「あー!そのまま!2人とも近い方が可愛いんで!」
「はい!」
「うん!いい感じ!めっちゃ可愛いよ晴ちゃん!」
「ありがとうございます!」
「基くんももっと可愛く笑える?」
「あ、はい」

ニコッと笑った顔と絡んだままの腕に少しだけ面食らう。
梅田は仕事であってもそこまでボディタッチが多いわけではないし、可愛いって言われて素直ににこにこ笑えるような人でもない。
いつも、相手に合わせて距離を変えている。
新や奏の前ではお姉ちゃんぶるし、ばっきーの前では妹、がちゃんと影山くんの前では仕事仲間、そして、俺と横原は同い年だから1番自然体だ。
つまり、こんな人懐っこくはない。
元来、梅田は人と距離を保つ人だから。
撮影中だから、表情を崩さないようにしながら話しかける。

「舞台、順調?」
「うーん、まあまあかな。大失敗はしてないって感じ。てかみんな全然見に来てくれないじゃん」
「行きたいとは思ってるけど、こっちはこっちで虎者あるからさ」
「…私はどんなに忙しくても虎者行くからね!」
「来てほしいけど、無理しない程度にね」
「行くから私のも来て」
「わかった、スケジュール調整してなんとか行くよ。あ、SHOCKも行ってあげて」
「もちろん!」

梅田は夏からずっと外部の舞台に1人で出ている。
主演でもヒロインでもないけどメインの1人で、本人とはかけ離れたかなり人懐っこくて可愛らしい役を演じてて、それをこなすのに必死で普段でも役が抜けきっていないみたいだ。
さっきは急にがちゃんと肩組んで周りをびっくりさせてた。
いつもと違う表情をするからかカメラマンさんはノリノリで指示を出してきて、今度は梅田の髪に触れるように言われた。
これ、大丈夫?
撮ったとしても事務所からNG出ると思うけど。
いつもならやんわり拒否する接触も、梅田は嫌な顔ひとつせずに応じた。

「梅田、全然役抜けてないね」
「あはは、だよね。舞台終わるまでは見逃して!これ、抜こうとすると舞台がだめになっちゃいそうで」
「切り替え苦手?」
「うん。そもそも演技が苦手。ジャニーズ誰もいない舞台ってこんなに緊張するんだーって初めて知った」

ふぅーって息を吐いて肩から力を抜いた梅田は、俺の腕に触れてた手をすりすり動かして何度も触れた。
まるで奏みたいな人懐っこさになんとなく納得する。
きっと、役作りのために奏を観察してトレースしたな。
梅田がずっと興味があったのはステージ上のパフォーマンスとそのレベルを上げる衣装。
演技がしたかったかって聞かれたら答えはきっとNOだ。
それでもこの仕事を持ってきた滝沢くんの考えは、俺には全て分からないけど、きっと梅田を成長させるためだ。
どう演じたらいいかわからない役を与えられて、周りに助けてくれる仲間がいなくて、全部自分で考えなきゃいけなくて、周りを観察してお手本を見つけて、真似して、やっと掴んだ役のイメージを抜かないように公演期間中を過ごさなきゃいけない。
難しくて、辛くて、でも楽しい。
楽しいって思ってほしい。
その滝沢くんの思いに梅田は必死に応えようとしてると思う。
サマパラ以降、梅田の好奇心はすごい。
演技もそうだけどいろんなことに興味持って勉強しながらも、衣装関連の仕事にも取り組んでる。

「はい、終了です!ありがとうございます」
「ありがとうございます!」
「ありがとうございました」
「うめめ!」
「なに?」
「電話鳴ってる!ずっと!」
「え!?すぐ行きます!たぶん滝沢くんだ」

衣装もそのままに撮影スペースから出た梅田はばっきーから受け取ったスマホをすぐに耳に当てた。
器用に肩と頬で挟んで、手はリュックの中に突っ込んでなにかを探してる。
でも見つからなかったのか、滝沢くんと話しながらパタパタスタジオ内を走り回って。

「影山、それ返して」
「え?あ、うん」
「もしもし、今開きます、はい、ちょっと待ってくださいね」

スタジオの隅で影山くんが持ってたiPadを手に取ると忙しなくスタジオを出て行った。
完全に仕事の電話だな。
梅田の衣装アイデアが詰まったiPad持って、雑誌の撮影中だって分かってるこの時間に滝沢くんからの電話。
なにかあったのか?
梅田だけに連絡が来るってことは衣装関係?
うーんって首傾げてたら、ばっきーがほしい答えをくれた。

「うめめ、Mステの衣装任されてるらしいよ」
「え?俺らが出るやつ?」
「そう」
「はー、すごいな。地上波にのる俺らの衣装を担当するアイドルって、やば。滝沢くんの梅田への評価めっちゃ高いじゃん」
「そうなんだけど、あんまりうまくいってないみたい」
「そうなの?」
「うん。ただでさえ毎日舞台出てへとへとじゃん?今日みたいな事務所の仕事もあるし、衣装考える時間ないから結構パツパツなんだって」
「梅田がそれ言ってた?」
「いや、マネージャーさんが言ってた」
「じゃあ大丈夫だよ。梅田が”無理”って言ってないなら無理じゃないってこと」
「もってぃの信頼すごいな」
「俺らが信頼しないと誰が梅田のこと信頼するの?ってなっちゃうじゃん?」
「あはは、たしかに」

ばっきーに向けた言葉だったけど、自分で言って安心したかったのかもしれない。
廊下の壁に寄りかかって電話してる梅田は、忙しいけど辛くはなさそうで。
ただ、ほんの少しだけ、いつもより甘えたような声色が気になった。
役が抜けていなくて、普段の鋭い目じゃないのが、何かを起こしそうで。




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