モノクロリフレクション01



あー、エアコン消さなきゃよかった。
夏の暑さは容赦なくて、少しの時間離れただけで車の中は灼熱のように熱くなる。
ましてやここは炎天下の駐車場で、見上げたらカンカン照りの太陽が眩しくて目を開けてられない。
トランクに積んだ本が紫外線で焼けてしまわないかな?って心配になったけど、梅田も同じことを考えてたのか大きなハンカチを何枚も出して上に被せていた。

「うん、これで全部かな」
「忘れもんない?」
「3回確認したから大丈夫」

梅田の手元を覗き込むと、スマホの画面に映ったチェックリストには全部チェックが入ってた。
お目当ての本は全部借りられたみたいだ。
トランクを閉めて運転席に座ると、助手席に座ろうとした梅田がペコって頭を下げてきた。

「運転、ありがとうございます」
「いーえ」

妙に礼儀正しくてふはって噴き出してしまったけど、梅田も面白くなってしまったのか笑ってた。
立ってるだけで汗が滲んでくる夏、滝沢歌舞伎ZEROが終わって数週間。
俺ら歌舞伎組はKAT-TUNさんのツアーのバックにつかせていただけることが決まって、リハに追われる日々が始まった。
そんな中、梅田は大学の課題にも追われている。
4年生だから卒論くらいかと思いきや意外と講義も課題もいっぱいみたいで、相変わらずリュックがパンパン。
ツアーは地方遠征もあるからあんまり課題を持っていけない。
本格的なリハに入る前に全部片づけてようって決めた結果、オフの日に俺に声がかかった。

「この図書館初めてきたけど結構いいね」
「でしょ?広いし綺麗だし、なにより蔵書数が多い!大学で必要な参考資料は大体ここで揃うよ。まあでも、こんなに借りたの初めて」
「なかなか1人じゃここまで借りないか」
「借りても運べないもん。俊介が運転できる人でほんとに助かった!ありがとう!」
「いーえ、でも梅田も運転免許持ってるよね?」
「持ってるけど、車ないから」
「ま、これも俺の車じゃないけど」
「基家の皆様、ありがとうございます。感謝です。それに、レンタカー借りたとしても都内を運転する勇気ないよ。俊介すごい、運転上手いね」

両手を合わせて『ありがたやー』って言ってる梅田の前髪がぬるいエアコンの風で揺れてる。
風強すぎたかなって思ってエアコンの風量を調節したら、ありがとうってまたお礼が聞こえた。
礼儀正しさと、ちょっと汗が滲んだ肌と、夏の薄着になんとなく背筋が伸びてしまう。
運転中だから正面から目を離せないけど、自分の左側が燃えてるみたいに熱い。
狭い車内じゃどうしたって梅田が少し動いただけでその音が聞こえてきてしまう。

「…音楽かけてもいい?」
「どうぞー」
「あー、お姉ちゃんの好きな曲ばっかりだ。ジャニーズ入ってないかも」
「そういえば、俊介のご家族は甘いもの好き?」
「好きだよ」
「良かった。あとで帰りにお礼のお菓子渡すね」
「そんな気にしなくていいのに」
「お礼くらいさせてよ。車も俊介のオフもお借りしちゃってるから」

車に入ってるプレイリストは家族が入れたもので、女性アーティストの恋愛ソングが多い。
自分が普段聞かないようなものも入ってて、きっとお姉ちゃんがセットしたんだろう。
チラッと横目で助手席を見ると梅田が楽しそうに口ずさんでいて、ああ、こういう恋愛ソングも聞くのかな、いつ聞くのかな、宮舘くんと会う時かな、なんて余計なことを勘ぐってしまう。
オフを借りてる、なんて言わなくていいのに。
こっちはオフに会えることがめちゃくちゃ嬉しいのに。
梅田のオフを貰えたことがめちゃくちゃ嬉しいのに。
申し訳なさなんて感じてほしくない。
ふと、俺の優先順位は何番目なんだろうって考える。
車が運転できる奴なんてジュニアの中にも仲良い先輩の中にもたくさんいる。
なんなら梅田の大学の友達の中にもいると思う。
そんな中で俺は何番目に声がかかった?
一番最初なのか、二番目以降なのか、それこそ誰かに断られたからしかたなく俺に声がかかったのか。
分からないし分かったところで落ち込むだけかもしれないけど、気になるのは事実で。
カーナビは梅田のマンションへの道を真っ直ぐに示してる。
図書館で集合した時に梅田はパパっと登録してたけど、俺に住所を教えることになんの躊躇いもないのか?
まあ、そもそも前にお財布届けた時に行ったことあるから覚えてるけど。
それにしたってガードが緩いのは、信頼できる友達だからか、それ以外か。
俺がいくら考えたところで、梅田はなんにも気づいてない様子で窓の外を見てた。

「俊介、そこ停めれる?」
「たぶん大丈夫」
「じゃあそこお願いします。…小銭あったかな?駐車代払わないと」

マンションの近くに設置されてた路上駐車のスペースに停めるようハンドルを切る。
バックする時はモニター見るっていっても後ろを振り向く時もあるわけで。
助手席に腕を回して後ろを向くとお財布の中身を確認してる梅田と一気に距離が近くなった。
甘い香りがふわっとして、一瞬息を止める。
あれ、おかしい。
これってよくある“女の子がドキッとする運転中の仕草”なのに、絶対梅田より俺の方がドキドキしてる。
ドキドキして、心臓飛び出しそうで、なにかきっかけがあれば触れられる距離で。
きっかけを探したいのにアクセルを踏めば車は動いてしまうから。
白線の中で停まったのを確認して運転席に身体を戻した。

「はい、とうちゃ、」
「っ俊介!」
「へ!?」

俺が探してたきっかけなんて全部飛び越えて、なんの躊躇いもなく梅田が俺の腕を掴んだ。
びっくりした、ペダルから足離しててよかった。
ちょっとだけ汗ばんだ手で腕を掴んで、そのままぐいって身を乗り出したからさっきより近く距離が縮まった。
目の前に掲げられたのはスマホの画面。
太陽の光が眩しいからバックライトが最高レベルでも見えにくい。
目を細めて読み進めるとの同じスピードで興奮した声で梅田が話し始めた。

「8月8日!東京ドームでジャニーズジュニア祭りだって!コンサート!ジュニアだけでコンサートやるんだよ!」
「え、ちょっと待って、俺らも出れるの?」
「このメール来てるってことはそうだよたぶん!俊介にも来てるでしょ!?」
「待って確認する!」
「してして!うわーすごい!東京ドーム!ジュニアだけで東京ドームだよ!?」

たしかに俺にも連絡がきていた。
ジュニアだけで東京ドームでライブする。
こんなチャンスなかなかない。
ジュニアが東京ドームいっぱいのお客さんに自分をアピールできる機会なんて一生に一度あるかないかだ。
すごい、あのステージに立てるなんて。
夢みたいだ。
でも、夢じゃない。

「…ん?」

業務連絡が続くメールをどんどんスクロールしていくと、出演者の一覧が出ていた。
SnowManさんやSixTONESさんはもちろん他のジュニアグループの名前とともにメンバーの個人名が並ぶ。
その一番最後に一括りにされた“ジャニーズジュニア”の表記。
これ、俺ら入ってる?



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