モノクロリフレクション02



え、リハ場の空気暗くない?
なに、なんかあった?
体育座りして顔を伏せてる奏の頭をぽんぽんって叩くと、ゆっくり顔を上げた。

「影山くん…」
「どうした奏?暗くね?」
「マネージャーさんからの連絡見ました?ジュニア祭りの」
「あー、見た」
「…はぁー」
「あ、まさかそれで落ち込んでんの?」

開催が知らされた時には誰が出るのか曖昧だったジャニーズジュニア祭りだったけど、今朝出演者と大まかなセットリストが公開された。
セトリに入ってる曲やメインの演出は当然のことながらグループを組んでる人達で、俺ら歌舞伎組に与えられたのはジュニアマンションだった。
ジュニアマンションはたしかに欠かせない演出ではあるけど、俺らと一緒に出る人の中には研修生もいる。
つまり、今の俺らに与えられる仕事はそのレベルってことで。
この事実に落ち込んでるのか、奏の声は低いし近くに座ってる椿くんの表情も暗かった。
そりゃそうか。
俺だって入所してからもう何年もジュニアやってる。
歴も長い方だ。
なのに、出るのはジュニアマンション。
でもそんなこと言ってても仕方がない。

「ここで腐ったらだめだって奏!東京ドーム出られることがそもそもチャンスなんだから!こっから俺ら頑張っていかないと!」
「かげは相変わらず熱いね」
「落ち込んでてもなんにもなんないから!」
「まあ確かに」
「さっきよこぴーも似たようなこと言ってた」
「え、横原が?」
「『死ぬほど悔しいし死ぬほど出たくないから死ぬほど売れてやろうぜ』って」
「あいつ何回死ぬんだ」
「でも横原が言ってること分かるよ。ここで止まったらだめだ」
「…うん」

悔しくて悔しくてどうにかなりそうだけど、それを言っても始まらないから。
ここからもっと這い上がっていくしかないんだ。

「影山!」
「晴?なに?」
「私のiPadどこやったの?」
「あー、俺の荷物んとこ置きっぱなし!」
「仕事で使うから持ってくね!」
「おう!ごめんな!」

リハ場に少しだけ顔を出した晴はそれだけ言って慌ただしく廊下を走っていった。
忙しないのはいつもだと思うけど、最近は特にバタバタしてる。
その様子に椿くんも奏も首を傾げたけど、晴と入れ替わりでリハ場に入ってきた基も首を傾げた。

「げえくん、梅田さっきまでここにいた?」
「一瞬いたけどもういなくなった」
「どうしたんだろうめめ、めっちゃ忙しそうだったね」
「衣装だろ?」
「え、なに?うめめまた衣装の仕事すんの?」
「ジュニア祭りの衣装班にも片足突っ込んでるらしいよ。自分の出番以外はずっと衣装班の仕事」
「ひえー、すごいな。うめめの仕事量ハンパないじゃん」
「ジュニアの数が多いから衣装班の人数足りないんだって。それに、いろんなグループの衣装見られるのは自分にもプラスになるからやることにしたって言ってた」
「…ふーん」

あ、不機嫌。
ただのため息に見せて基の声にはちょっとだけイライラが混ざってた。
仕事がめちゃくちゃ忙しい晴とジュニアマンションで燻ってる俺ら。
この時、ほんの少しだけ、溝ができてしまった気がしてた。






「…あれ?トイレ行く時間すらない?」

自分で組んだ予定表を見てペンを持つ手が止まってしまった。
8月8日に東京ドームで行われるジャニーズジュニア祭りの予定表に自分のタイムスケジュールを埋めてみたけど、かなりみっちり。
自分がステージに立つ時間はそう多くないけど、裏で動く時間が多すぎる。
当日はともかく、準備段階から衣装に関わらせてもらえるのはかなり貴重だ。
特に、グループを組んでる人たちの衣装まで任せてもらえるとは思ってなくて。
思考はパンパン、走り回った脚も既にパンパン。
体力的に限界だったけど、『無理』とは言いたくなくて常に全力だった。
ジュニア祭りの準備だけじゃなくてKAT-TUNのツアーの準備もある。
俊介に手伝ってもらって借りた本も積んだままにはしておけない。
やることいっぱい、でも、やらなければ次がない。

「チェックだけして帰ろう」

事務所の衣装部屋に詰め込まれた数多の衣装の中からジュニアが着る衣装を選ぶ。
今朝滝沢くんに私の希望を伝えたから、明日には正式決定できるだろう。
ハンガーラックにはグループを組んでる人達の衣装がかけられてて、そのキラキラした色がシンプルに羨ましいと思った。
いいな、欲しいな、作りたいな。
私だって着たい、私だって作りたい、私だって、皆と揃いの衣装を着たい。
滝沢歌舞伎ZEROで培ってきた自信は簡単に叩き割られた。
あれだけ大変な舞台をこなしても私たちの立ち位置はジュニアマンションで、キラキラした衣装は貰えなかった。
まだ足りない。
まだまだ勝てない。
勝つどころか、スタートラインにも立ってないんじゃないかって、そう、思ってしまうんだ。

衣装部屋で一番丁寧に仕舞われているのはSnowManさんとSixTONESさんの衣装だ。
丁寧にアイロンがかけられてて、衣装部屋の電気でさえ反射して光輝く。
どれが誰の衣装かなんて一目瞭然だ。
涼太くんの衣装を見間違えるはずがない。

「……」

滝沢歌舞伎の日々を思い出にはしないって決めた。
あの日、涼太くんが言ってくれた『晴の仕事が好きだよ』は私の中にずっと残ってる。
これはその延長線上にあるお仕事だ。
任された仕事、梅田晴ならできるっていただけた仕事。
全力でやりきる。
絶対、次に繋げてみせる。


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