モノクロリフレクション04



おかしいなって思ったのはKAT-TUNの横浜公演の時から。
確信に変わったのは大阪公演のために遠征した時。
移動中、うめめが持ってたスーツケースを荷物棚に上げるのを基が手伝わなかったから。
そんなことで?ってなるかもしれないけど、俺にとってはそれはびっくりする出来事で。
昔から、うめめが困ってたら基は助けてたし、直接助けないにしてもどこかで気にしてた。
同じ年から滝沢歌舞伎に出演してるし、一年目の時は滝沢くんから『基、梅田のことよろしくね?』って任されたって話を聞いたこともある。
つまり、2人は仲が良くてお互いをどこか気にしてるいい友達関係だと思ってたんだ。
なのに、8月8日のジュニア祭りが終わってから2人が喋ってるのを見たことがない。

「基さ、うめめとなんかあった?」

1日目の大阪公演が終わってシャワーから戻ってきた基にそう話しかければ、気まずい顔してバスタオルで髪をガシガシ拭き始めた。
分かりやすいな、絶対なんかあったじゃん。
俺の隣にいたかげとがちゃんも、興味深々にこっちに身を乗り出してくる。

「俺も聞こうと思ってたんだよね。喧嘩した?」
「あれか?晴の大食いに付き合わされて嫌になったとか?」
「そんな理由で喧嘩する?あ、てか晴今どこ?ここで喋ってて平気?」
「さっき亀梨くんに呼ばれたからしばらく帰ってこないよ。衣装の件で」
「あー、衣装ね。相変わらず晴はすげーな。めちゃめちゃ仕事してんじゃん」
「で?もってぃはなんでそんな怖い顔してんの?」
「…別に」
「別にって顔してないじゃん」
「俺らに言えることだったら言ってみ?」

基にしては乱暴にドカッて椅子に座って、眉間に皺寄せたままうーんって唸った。
その顔はなに?
うめめとなにがあったの?
正直、ただの喧嘩なら気にしないけどそうじゃないならなんとかしたいって気持ちがある。
ここからオーラスまで俺らずっと一緒なわけだし、滝沢歌舞伎ZEROの時にグループになりたいって気持ちも確認し合った。
ジュニア祭りでは悔しい思いもしたけど、それをバネにしてここからもっと頑張ろうって皆で話した矢先にこの2人の気まずい空気は俺らも耐えられない。
皆のバランサーになってる基と全体を見て客観的な判断をしてくれるうめめは、俺らにとって大事な存在だ。
俺ら3人の視線の圧に負けたのか基は小さな声で話し始めた。

「…喧嘩っていうか、ジュニア祭りの時にお互いに拒絶して話してない」
「拒絶?」
「なんで?」
「…梅田が俺に相談したいって言ってきたんだけど、俺と話しても意味ないでしょって言って突っぱねた」
「それ基が悪いじゃん」
「でも俺、本気で思っちゃったんだよね。俺に相談したところでなんになるんだろうって。だって俺らはジュニアマンションだったけど梅田は衣装班に必要とされて1日中ずっと仕事してた。それが、なんていうか、っ、……」
「悔しかった?」
「そんな単純なことじゃないと思う。悔しいというか、嫌だったというか、なんで俺こんなにできなかったんだろうって思って」
「珍しいな基がそんなふうに思うの。基本ポジティブだしメンタル強いのに」
「それくらいジュニアマンションは衝撃的だったってことでしょ。まあ実際俺らも凹んでたし」
「ちょっともう自分がよくわかんないんだよね。ずっと梅田と対等だと思ってたけど全然違うんだなって思っ、」
「最低」
「横原?」
「黙ってようかなって思ったけど無理だわ。梅田が可哀想すぎる」

聞こえた声はあまりにも低くて、一気に部屋の空気が重くなった。
俺らの話なんか興味ないって顔でずっとスマホいじってた横原が顔を上る。
ぱっちりした自慢の目をこれでもかってくらい細めて思いっきり基を睨みつけてた。

「もってぃ、お前最低だよ」
「っ、なんで横原にそんなこ、」
「梅田は必要となんかされてない。むしろ逆」
「どういうこと?」
「梅田、ジュニア祭りは”ただのお手伝い”でしか呼ばれてねえよ」
「…は?」
「え?」

なんだよそれ。
そんなの俺は知らない。
目を見開いた基も、眉を寄せたかげもがちゃんも、きっと知らなかった。

「元々、梅田はジュニアマンションどころか出演者として呼ばれてない」
「嘘だろ!?」
「なんでそんな嘘吐くんだよ。マネージャーと話してるの聞いたから本当。あいつ、出演者としてじゃなくてただの衣装班のお手伝いとしてしか呼ばれてないんだよ」
「え、待って、じゃあなんでうめめはあんなに仕事してたの?おかしくない?お手伝いって仕事量じゃなかったよね?」
「てかジュニアマンションにもちゃんといたし!」
「直談判したんだよ。お手伝いじゃなくて衣装班の1人としてやらせてほしい、絶対力になってみせるって今までやってきた実績使って訴えて。任された仕事はちゃんとやる。それどころか、どんだけ仕事多くてもちゃんとやり切るかわりにジュニアマンションの人数合わせでもいいからステージに立たせてくれって、あいつ1人で事務所に言ったんだよ」
「知らなかった…」
「だろうな」
「晴は、俺らにはこういうこと言わないもんな」
「梅田は不言実行なんだよ。むかつくけど『無理』って言わなきゃ本当にやってのける」
「もー、あいつ、ほんとそういうとこ…」
「……」
「もってぃ、梅田は求められてなんかないよ。俺らと同じかそれ以下だぞ。それでもあいつは走ってただろ。血が出ようがふらふらになろうが、ずっと走ってただろ。その梅田がもってぃだけに声かけたのに拒絶すんな」

呆然とした基の視線を横原は捕まえて離さなかった。
どんなことを言おうが今から基が発する言葉は言い訳にしかならない。
自分勝手な嫉妬と焦りでうめめを傷つけた事実は変わらない。
謝るべきだ。
ちゃんと謝って仲直りすべきだ。
濡れた髪もバスタオルもそのままに基は駆け出したけど、入り口でぶつかった奏からうめめは仕事でしばらく手が離せないことを知らされた。
はぁーってため息つく基の背中を叩いたけど、基は顔を上げなかった。


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