同期トリオの楽屋の話



「……新め」

楽屋に戻ってきた晴は2秒で状況を理解した。
机の上に荷物が散らばってるし、iPhone側には充電器が刺さってるのにコンセントは刺さってない。
化粧台のメイク道具はバラバラで、このままだと新は確実に何かを忘れて帰る。
むっとした晴の綺麗好きが発動してゴミを片付け始めたけど、新への文句をブツブツ言うのはやめてあげてほしい。
あと、お菓子の空箱は新じゃなくて俺。

「あ、そのお菓子は大河の」
「なんで言うの?」
「え?ダメだった?新のせいにしたら可哀想じゃん」
「そうだけど、」
「大河。ちゃんと捨てて」
「…はい」

怒ってる時の晴は面倒くさいからあんまり好きじゃない。
ゴミを集めてくれるのはありがたいけど、ティッシュ箱の位置やキャスター付きの椅子の位置をセンチ単位で整頓するのは異常だ。
テキパキ片付ける様子をじーっと見てると、カゲも晴をじーっと見てた。

「その辺にしといたら?また散らかるって。まだまだ撮影長いし」
「できるときにやっておきたいの。もうすぐ横原のインタビュー終わるでしょ?たぶん楽屋で動画撮りそうだから写っちゃいけないものは片付けとく」
「てか俺らO型がほとんどなんだから汚れるのは必然だよね」
「晴もO型じゃね?」
「O型の几帳面もいるの。もーこの雑誌誰の?椿くん?」
「わかんない」
「椿くんのだったらまずいから捨てずにとっておく」
「うわ出た先輩だからって特別扱い!後輩のも捨てんなよ!」

几帳面に整頓してるけど、晴のリュックの中が意外とごちゃごちゃしてることを俺とカゲは知ってる。
今日だって椅子一つを占領したリュックはパンパンで、口が開いたまま放置されてた。
1番上にのってたiPadをカゲが手に取って晴に掲げた。

「晴、見てもいい?」
「いいよ。パスワードは入所日」
「セキュリティがばがば」
「見られて困るものないもん」
「よし、なんかやばい動画見てやる」
「ちょ、やめて」

入所日がパスワードなんて俺ら同期にとってはセキュリティゼロと同じだ。
4桁の数字を入れて画面が開くと、おそらくさっきまで晴が書いてた衣装のデザイン画が表示された。
ギラギラしてる赤い衣装は、晴がいつか作りたい衣装なんだろう。
右上には小さくカゲの名前が書いてあって、画面をスライドすると今度は俺の名前が書いてあるデザイン画。
いつもこれを持ち歩いて書きまくってるその文字はお世辞にも上手いとは言えなかったけど、晴の情熱の証だ。

「相変わらず晴はすげえな…」

緩む頬を隠そうともせず食い入るように絵を見つめるカゲの横顔が好きだ。
その瞳がメラメラ光ってて、きっと俺の瞳も同じ色。
いつかこれを着たい。
これを着てステージに立ちたい。
そう夢見て何年経った?
まだその夢は叶わないけど、これからいくらでも叶えられるんだ。

「…晴ってさ」
「ん?」
「俺らのこと好きすぎじゃね?」
「……あはは、間違いない」

スライドしてもしても、永遠に続くデザイン画。
もちろん他のメンバーの名前が書いてあることもあるけど、その大半は俺とカゲの名前が書いてあった。
嬉しいな、思いが熱いな、なんて思ってたのに、当の本人は眉間に皺寄せてぷんぷんしながら新のアウターをハンガーにかけてた。


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