体幹とラーメンの話



稽古場から聞こえてきた叫び声にビクッとして覗き込んだら、座って水飲んでた奏くんが苦笑いした。
鏡の前では横原くんとうめめが体幹トレーニング中で、椿くんが立ったままストップウォッチを持ってる。
ダンスレッスン後にやってる体幹トレーニングはうめめの苦手なメニューだ。
ここからは顔が見えないけど首筋に汗が滲んでる。

「あああああ、つば、くん、ちょ、しんど、」
「やっば、あと何秒?」
「あと28秒」
「ああー!つばっくんもうやばい!もう!まじで!つばっくーん!」
「うめめがんばれあとちょっと」
「しんどーい!!!」
「うめめがんばれ!」
「あああああ!」
「…動画回す?」
「もう回してる」

くすくす笑ってる奏くんの手には確かにスマホがあって、おそらく今日中にはうめめが死にそうになってる動画が上がるんだろう。
俺らだって汗滴るほどしんどいダンスレッスンはうめめにとっては地獄だと思う。
それでもうめめはやめない。
やめたら上手くならないってわかってるからだろう。
見た目からは想像できないほど根性があるところを俺は尊敬してる。

「3.2.1、はい終わり」
「ふはっ、げほげほ、」
「吐く?」
「はかない…」
「うめめよく頑張った!」
「うい…」
「もう1セットー」
「横原の鬼!」
「最後膝ついてたっしょ」
「え、そうなの?」
「そんなわけな、」
「はいよーいスタート!」
「あああ…」

ゲラゲラ笑った横原くんを睨みつけてたけど椿くんに言われたら素直にまた体幹トレーニングの姿勢を取るうめめは先輩に従順な後輩だ。
一緒にいる時間が長くて仲が良くても、年上でも、うめめは椿くんへの態度を変えることはなかった。
自分のセットが終わってるのに最後まで付き合ってあげる横原くんもなんだかんだ優しい。

「うめめがんばれー」
「まだやってんの?」
「あ、基くん。まだやってる。てか1セット追加された」
「もううめめ死にそうだよ」
「ほんとだ。横原もばっきーもほどほどにしてあげてよー」
「大丈夫、大丈夫。死なないから。はいあと12秒」
「つばきく、ほんと、まじ、ああああ」
「きっつ、」

椿くんのカウントが響く中、基くんは手に持ってた蓋が開いてない水のペットボトルとタオルを持って3人に近づいて、うめめの隣にしゃがみ込んでその姿をじっと見つめてた。
終わるタイミングに合わせてペットボトルの蓋を開けて差し出す。
それを掴むうめめの手はもう震えてる。

「はい終わり!おつかれ」
「お、おつかれ、さま、でした」
「はぁー、やっと終わった」
「水飲んで。倒れるよ」
「しゅんすけ、はぁ、ありがと、はぁ、はぁ、しんど、」
「じゃあ、全員終わったことだしラーメンでも行く?」
「っ行く!!!」
「声でか」
「あははは、わかりやすいな」

床に倒れてへばってたのに急に大声出すから、動画見るファンの方はびっくりしちゃいそう。
一気に水を飲み干したうめめは意気揚々と立ち上がった。






「いっただっきます!!!」
「声でけえよ」
「お腹空いて死にそうだったんだよね!レッスン終わりのラーメン最高!」
「一玉で足りる?」
「あとで替玉する!」
「奏と新も来たら良かったのに。あの2人いつ帰った?」
「いつのまにか」
「新が、うめめとご飯行くと目の前でめっちゃ食べるから逆に食欲なくすーって言ってたよ」
「嘘でしょショックなんだけど」
「新がそんなこと言うわけないし。梅田はショックって言う顔じゃない」

そう?なんて顔で首傾げたけど、俺が話してる間にも嬉しそうににこにこしてラーメンがどんどん口に吸い込まれていく。
幸せそうにもぐもぐしながらびっくりするスピードで食べていくから、まあ確かに見慣れてなかったら引いちゃうかもね。

「美味しい?」
「……(こくん)」
「返事くらいしろって。頷くだけかーい」
「別にいいよ。美味しいのは伝わった」
「そんなに食べて太らないのが不思議だよ」
「椿くんが作ってくれた筋トレメニュー毎日やってるからかな。あ、すみませーん!替玉くださーい!」
「早いよ。ちゃんと味わって食べてる?」
「もちろん。太陽軒のラーメンが1番好き」
「俺も替玉貰おうかな」
「餃子にしない?みんなで食べられるし」
「あー、そうする?」
「賛成!餃子4人前くださーい!」
「まだ食べんの!?」
「余裕!……ふふふ」
「なに?」
「仕事終わりにみんなでお腹いっぱい食べる時間が1番幸せ」

二玉が数分の間に吸い込まれていく。
肉汁滴る餃子もぱくぱく食べて、ふはーって幸せそうに笑った。
横原は何笑ってんだこいつって顔してるけど、俺とばっきーは顔を見合わせてくすくす笑った。
美味しそうにごはん食べてる姿って、人を幸せにする力があると思うんだよね。
俺は梅田が食べてる姿、素敵だなって思うよ。



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