影山美容室のISLAND TV



スマホカメラ、スイッチオン!

「どーも、IMPACTorsの椿泰我です。今、僕は御園座の楽屋にいまーす。今からここにかげとうめめが来るので、隠し撮りしたいと思いまーす。たぶんバレません。……よし、完璧」

なんてコソコソ話して楽屋の隅にあった棚の上にスマホをセットした。
まだ誰もいない楽屋だけど、今からここにかげとうめめが来るはず。
昨日ホテルでISLAND TV見てたんだけど、うめめが映ってる動画が少ないことに気づいた。
元々カメラが得意ではない子だしメンバーみんなで撮ってる動画には笑顔で映ってるけど、オフ感が足りないと思う。
もっといろんなうめめを発信していこうよ。
というわけで隠し撮りしてみる。
そういえば最近、横原カメラマンサボってるな。
前は横原がうめめの動画を結構撮ってたのに。
…あ!来た!

「椿くんおはよー」
「おはよ、うめめ。大丈夫?目開いてなくない?」
「めーっちゃ眠い…」
「昨日何時に寝たの?」
「覚えてない…。いつ寝たんだっけ?歌舞伎終わって、ホテル戻って、涼太くんと衣装の打ち合わせして、そのあと寝落ちした」

目が半開きでうとうとしたうめめが重そうなリュックを下ろしたからドンって大きな音が鳴った。
隠し撮りのカメラ大丈夫かな、倒れたりしないよね?
ふわぁーって欠伸をしたうめめが鏡台の前に座ると、隠し撮りカメラの画角的にピッタリだ。
うん、位置取り完璧!

「おつかれさまでーす」
「かげおはよ」
「おはようございます。椿くん相変わらず早くね?」
「そう?普通っしょ。てかかげ顔浮腫みすぎじゃね?」
「昨日の手羽先まじで美味かったー」
「わかる。何羽食べたかわかんない。すべての鶏肉よ、命をありがとう」
「なんかその言い方嫌だな。グロいよ」
「命は大事だよ?感謝感謝。昨日ほんとに食べ過ぎてお腹パンパン」
「って言いながらあなた朝からお餅食べるのね…」
「五平餅って言うんだって。愛知名物」

遠征を1番楽しんでるのはうめめかもしれない。
今回もそうだけど他の遠征でも毎食(うめめの場合は1日三食には止まらないけど)その土地の名物をブラックホールかってくらい大きく口開けてお腹いっぱい食べてる。
そんな眠そうに船漕ぎながら五平餅食べなくてもいいのに。
体型維持のために食事制限してる俺からは考えられない食生活だ。
そんなうめめの後ろに膝立ちしたかげは、隣の鏡台からいろんなヘアセットアイテムを引き寄せて準備を始めた。
うめめが五平餅を食べ終わったタイミングを見て、かげがうめめの髪に触れる。

「じゃあやるか!」
「影山美容室お願いしまーす」

そう!
これが撮りたかった!
別にうめめのご飯シーンを撮りたかったわけじゃないんだよ!
かげはヘアセットが得意でよく先輩からも指名されてるんだけど、今回はうめめから指名が入った!
美容師影山とお客さん梅田、ファンなら絶対見たいはず!
てか俺が見たいもん!
隠し撮りされてるとは微塵も疑ってない2人はいつも通りゆるーい会話しながらヘアセットを始めた。

「今日どうする?巻く?」
「いい感じでお願いしたい」
「いい感じってどんな?可愛い系?」
「影山おすすめ系」
「晴ほんとに起きてんの?めっちゃ適当じゃん」
「影山ヘアセットに全幅の信頼を寄せてるってことで」
「目閉じてる!寝そう!」
「正直さ、寝ててもヘアセットできる?」
「出来なくはないけど起きてろよ」
「努力するけど寝ちゃうかも」

うめめは朝起きてなにもしてこなかったのか、ショートとはいえ髪がいろんな方向に飛び跳ねてる。
それを霧吹きでシュッシュッて濡らしながら梳かしていくかげの手つきが優しくて、なんか、2人が可愛く見えてきた。
やっぱり同期っていいよなー。
うめめの隣に座って俺も話しかけたけど、相変わらず声がゆるい。
めちゃくちゃ眠いんだと思う。

「うめめ髪伸びたね」
「そうなんだよね。切るタイミングなくて。滝沢歌舞伎期間はずーっとこのままかも」
「基も前髪めっちゃ伸びてね?」
「そうそう、俊介も伸びてた。早く切りたいよー」
「うめめ伸ばさないの?ロング」
「しないなー、短い方が楽だし」
「あ、やっべスプレーない。…椿くん」
「あるよ」
「さっすがー!」
「椿くんなんでも出してくれる。そのうちどこでもドアとか出してくれそう。欲しいなー、乗り物乗らなくても移動できる」
「ドラえもんじゃん」
「あははは、椿くんだからつばえもんだね。あれ?なんだっけ、ISLAND TVでかげつばがやってるやつ」
「つば太郎」
「つば太郎か」
「うめめ俺らのISLAND TV見てないでしょ」
「見てはいるけど寝落ちしたから記憶ないかも」

あ、また欠伸した。
本気で眠いんだろうな。
体力勝負な滝沢歌舞伎が連日続くとこうなるのは当然か。
目閉じたらカクって首が傾いた。
ヘアアイロンを手に取ったらかげが心配そうにその顔を覗き込む。

「晴、アイロンするから起きてくれ。火傷しそうで危ねーわ」
「はーい、……だめだ寝そう。誰かとLINEしよ」
「俺と話してても寝そう?」
「たぶんね、指動かさないと寝ちゃう。うわー、昨日寝落ちしたから通知溜まって、っあー!寺西くんからLINEきてる!」
「え!?なんで!?」
「えーずるくね!?寺西くん俺には連絡してくんないのに!!!」

俺らが仲良くさせてもらってる先輩からの連絡に一気に楽屋が騒がしくなったし、眠そうだったうめめの目もぱちって開いた。
寺西拓人くんはかげと仲良いし、俺はSHOCKでほぼ毎日一緒にいた大好きな先輩だ。
うめめとも面識あるはずだけど、そんな個別で連絡取るほど仲良いとは思わなかった。
そもそも、うめめが仲良い先輩ってSnowManさんくらいだと思ってた。
どんな連絡きたのか気になるかげは、器用にヘアアイロンでうめめの髪を巻きながら身を乗り出してスマホを覗いた。

「なんて来てんの?」
「晴が欲しがってたキャップ見つけたけど買う?って来てる。うわ!写真まで送ってくれた!」
「そのキャップ可愛い!」
「でしょ?狙ってたんだけどネットで瞬殺だったんだよね!寺西くん、どこで見つけたんだろ」
「寺西くんもキャップ好きじゃん?だからいっぱいお店知ってんだよ。てかそのキャップ俺も欲しいわ」
「だめ。これは私がずっと狙ってたの」
「2人でお揃いにしたら?」
「お揃いはない」
「ないない」

お、仲良い同期なのにそこは淡白なのね。
ほんの数秒前まで眠そうで目開いてなかったのに寺西くんから連絡きたからって一気にニコニコ笑顔になった。
うめめ、テンションのスイッチはシンプルで分かりやすい。
あと、悩むと黙るところも分かりやすい。

「……」
「あれ?欲しいですって送らないの?」
「送りたいけど、送ったらたぶん寺西くん買ってプレゼントしてくれると思うんだよね。あとでお金払いますって言っても受け取ってくれない…」
「寺西くん優しいな」
「いいじゃん、貰っときなよ」
「なんか申し訳ない…」
「気遣う?」
「そりゃ遣うよ」

あ、そうなんだ。
さらっと『欲しいです!』って言えばいいのになー。
うーんってうめめが送るスタンプを吟味してる間にヘアアイロンの出番が終わったのか、かげはヘアワックスの蓋を開けて手に取った。

「そのキャップ、晴がいらないなら俺が欲しい!寺西くんに買ってって言って!」
「だめ。買うことは決定だから。私絶対欲しい。でも、プレゼントじゃなくてちゃんと自分でお金払いたい」
「って寺西くんに言えば?電話しちゃいなよ」
「電話するの緊張するから無理」
「そうなの?LINEはするのに?」
「椿くんや影山と同じレベルの仲の良さではないの…!」
「晴、右向いて」
「ん」
「あー逆!」
「え、右って言ったよね?」
「俺左利きだから右と左分かんなくなるんだよな」
「それさ、いっつも言ってるけど左利きのせいじゃないから」
「左利きには左利きにしか分かんない辛さが、」
「っあ!寺西くんから返事きた!」
「え!?まだなにも送ってないのに!?」
「うお!?晴!動いたら失敗すんじゃん!」

かげの声も聞かずに、横向いてたうめめが正面で持ってたスマホの方にぐりんって首を動かしたからヘアワックスでぐしゃぐしゃになった。
あーあ、可愛くふわふわに巻いてもらってたのに。
残念すぎるけどうめめもかげもそんなこと気にもしないで寺西くんから返ってきたメッセージを食い入るように見つめた。
うめめが読み上げるメッセージと添えられた紙袋の写真が、いかに寺西くんが最高の先輩か表してて。

「えっと、

晴、遅い。笑
返事悩みすぎ。笑
もう買っちゃったから今度渡すわ
お金もお返しもいらないから、これ被ってIMPACTorsの誰かと楽しく笑ってる写真送ってね
滝沢歌舞伎、頑張って

っはぁーーー!!!寺西くん!!!」


「かっこよすぎない!?寺西くんかっこよすぎない!?」
「これはやばいね!かっこいい!」
「俺も後輩にこんなこと言いてー!」
「大好きですってスタンプめっちゃ送る!!!大好き!!!」

かっこよすぎる先輩の素敵なメッセージに3人でニヤニヤしながら悶えてしまった。
すごい、さすが先輩。
この幸せいっぱいでゆるみ切ったうめめの顔を見せてあげたい。

「…あ、見せられるわ」
「なにが?」
「ううん、なんでもない」

全部ばっちり隠し撮りしてるんだった。
ISLAND TVにアップする前に寺西くんに送ろう。
きっと喜ぶと思うな。





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