サマパラ新衣装の話



自分が生み出したものをメンバーに見てもらう時、こんなに緊張するなんて知らなかった。
晴はいつだって最高の衣装を作ってくれる。
だから晴が俺たちに衣装を初披露する時に、なんであんなに緊張した顔するのか分からなかった。
自信持てばいいのに。
晴の衣装は最強なのに。
そう思ってたけど、今やっと晴の気持ちがわかった。
みんなが袖を通してなんて言うか、俺と椿くんは顔を強張らせたままドキドキしながら待ってる。

「大河と椿くん天才じゃね!?」
「何これめっちゃいいよ!」
「めっちゃかっこいい!」

次々に出てくる賞賛の言葉にホッと胸を撫で下ろした。
よかった、メンバーに似合わなかったらどうしようかと思った。
サマパラでは2着、新しいオリジナル衣装を作らせていただくことになった。
黒の揃いのナポレオンジャケット衣装と、白のデザインバラバラの衣装。
全部が全部、俺と椿くんのアイデアじゃないけど結構要望は聞いてもらえてる。
逆に、今回晴の意見はほぼ入れていない。
アドバイスを貰ってはいるけど、あくまで俺と椿くんがメインだ。
それがプレッシャーであり楽しみであり、めちゃくちゃワクワクしてた。
衣装を着たメンバーが鏡に映る。
そのかっこよさに口元が緩んだ。

「うん、いいと思う」
「めっちゃいいよ!みんなかっこよすぎない!?やっば!」
「2人が作るとこんな感じになるんだね。梅田とは違うわ」
「わかる。梅田が作る衣装とは違うね。もちろんどっちもかっこいいけど」
「うわー、もってぃありがとう。そこ本当に気にしてた」
「晴の衣装の方が良かったって思われたらどうしようって思ってたから」
「順位とかねえから!どっちも最高!てかまじでこれいい!」
「3着目で白い衣装来るっていいよね!写真撮ろう!」
「撮る撮る。親に送りたい」
「あ、俺も送りたい!」

奏がリハ場を歩く度にロング丈のジャケットが揺れるし、横原が軽くダンスするとフードがたゆんって動いて綺麗。
この衣装、本当に素敵だ。
遅くまで打ち合わせ重ねてよかったってしみじみしながら鏡にうつる7人を見てたら、8人目がリハ場の扉から顔を覗かせた。

「大河!つばっくん!これはだめだ!」

マスクしててもわかるくらい顔が真っ赤で、これでもかってくらい不安な顔で俺を睨みつける晴は、首から下が扉に隠されて見えない。
新しい衣装にテンション上がるメンバーとの温度差で、俺や椿くん以外も晴に視線を移した。
注目されてるけどそんなことどうでもいいって顔で晴の視線があたふた動いてる。
その慌てようを見ても、俺はニヤつくことしかできない。
狙い通りだ。

「これはだめだよ!なんで!こういうことじゃないじゃん!IMPACTorsってそうじゃないじゃん!」
「うめめ、とりあえずこっちおいで?」
「入りなよ」
「嫌だ!無理!見せられない!」
「無理じゃない!大丈夫!絶対可愛いから!」
「無理無理無理!」
「やっぱむり?」
「君の彼氏になりたいなんて?」
「そうじゃない!SnowManさんじゃなくて!ガチで無理!」
「うめめさっきから何言ってんの?」
「早く来いよ!みんなで写真撮ろうぜ!」
「なにをもじもじしてんだよ」
「無理!」
「いいからおいで!」
「無理だってば!」

無理を繰り返す晴に痺れを切らして椿くんがその手をつかんでこっち側に引っ張った。
抵抗したって力には敵わない。
扉で隠してた白い衣装が全部見えて、ハッて息を飲んだのは1人だけじゃない。

「無理、」
「っ、」
「え、」
「めっっっちゃいい!!!」
「ええー!そうくる!?」
「可愛い!」
「可愛い!」
「いい!!!」
「これはいい裏切り!」
「優勝!」
「うめめ優勝!」
「ね?大丈夫っしょ?」
「完璧」
「いいよ晴!俺は好き!もっと短くてもいい!」
「影山しゃがむな!わかりやすいんだよ視線が!」
「ごめん俺成人男性」

想像以上の出来に椿くんとイェーイってハイタッチしてる間にかげがしゃがみ込んで晴のつま先から頭のてっぺんまでわかりやすくじっくり見たから、珍しく晴の口調が荒くなった。
白い衣装はテイストやパーツは統一してるけどデザインは一人一人変えるって衣装スタッフさんから聞いた。
だから個性が出せるし各メンバーのいいところを強調できるって思ったんだ。
それで椿くんとめちゃめちゃ考えた。
考えて考えて考え抜いたのが、これ。
晴は新と同じようなアシンメトリーなプリーツスカートで、丈が短いからガッツリ脚が出てる。
中に白いパンツ履くから下着が見えたりはしないような作りにしてるしジャケットの丈もそれなりにあるけど、とはいえこんなに短い丈の服を着てる晴は見慣れないだろう。
白い衣装の方はどのくらい要望が通るか分からなかったけど、ありがたいくらい要望通り。
下心丸出しで下から覗き込むかげを避けるようにリハ場を大回りした俺に駆け寄った晴は必死に訴えてきた。
ヒールが高いショートブーツがカツカツ鳴ってる。

「ねえ大河!これはさ、あの、ちょっと違うって!」
「違わないよ。似合ってるしかっこいいよ」
「いやいや!こんな脚出すって聞いてないよ!」
「言ってないから」
「なんで!?事前に言ってよ!」
「サプライズしようかなって」
「俺とがちゃんで衣装考えてて気づいたんだけど、うめめってスカートの衣装ひとつもないっしょ?1着目はスキニーだし、2着目のナポレオンジャケットは全員統一。じゃあ3着目の白衣装はスカート履いてほしいよねってなって」
「たしかに、これは2人だから作れた衣装かも」
「うめめすっごい似合ってるよ」
「晴、自分が衣装担当してたら絶対やんないでしょ?」
「当たり前だよ、だってこんな、誰に需要あるの…」
「需要しかないわ」
「え、」
「なあもってぃ?」
「え、俺!?」

横原がそんなこと言うの意外だなって思ってたら話はもってぃに振られてた。
ええ!?って目を見開いたもってぃがチラチラ晴を見て、晴は晴で何言われるのか緊張した顔でチラチラ基を見てて。
その沈黙が数秒あって、もってぃはなにも言えなかったのかぱんって手を叩いた。

「並んでみよう!そうしたら梅田も納得するって!」

個人的なコメントはしないんかいって思ったけど、たしかにもってぃが言うことに一理ある。
晴はたぶん自分1人の衣装を見たら恥ずかしさと自信のなさで納得しないだろうけど、みんなで並んでIMPACTorsとしてどう見えるかを考えたら納得するだろう。
言われた通り8人並んで、鏡越しにもってぃは問いかけた。

「梅田、どう?」
「すっごいかっこいい!なにこれ!椿くんと大河天才だよ!」
「でしょ!?やばいっしょ!?」
「うん!やばいです!」
「バランスめちゃめちゃ良くない?」
「いい!これは私でもアシンメトリーのプリーツは2着作りたくなる!」

目の色が変わった。
恥じらって丸くなってた背中がしゃんと伸びてキラキラした目で8人を見て瞬きを繰り返した。
個人としてじゃなくIMPACTorsとしてどうか?って視点に切り替わった晴は、恥じらいも躊躇いもなくなってた。
こうして並ぶと圧巻だな。
俺たちの新しい衣装。
3着目の白い衣装。
ファンのみんな、喜んでくれるといいけど。

「すごいなー!かっこいいなー!椿くんと大河すごいよ!ほんとにすごい!」
「うめめが手伝ってくれたおかげだけどね」
「私はほとんど何もしてないから」
「カジュアル衣装は晴もやるよね?」
「やるやる」
「てかまじでこの衣装好き!晴めっちゃ似合うよ!」
「可愛い?」
「可愛い!」
「どこらへんが?」
「全部!上から下まで全部だよ!」
「あ、ありがと…」
「なんでちょっと引くの!?」
「なんか、影山の眼力がいつもと全然違うから…」
「かげやらしいな」
「影山くんやらしい」
「やらしくねえよ普通だよ!」
「成人男性だもんね」
「あんなに脚出すことないもんね」
「そういうエロい目を抜きにしても似合うって!」
「エロいって言っちゃったよ」
「ごめん!」
「可愛いのは本当だよ!?うめめめっちゃ似合う!」
「うん、可愛い!脚綺麗!」
「可愛い!俺らが想像してた100倍可愛い!」
「めっちゃいいよ」
「ちょ、もうやめてみんな!なんか無理!そういう褒められ方したことないから無理!」
「照れてんの?可愛いー」
「やめてー!聞きたくない!」
「可愛い!」
「可愛い!」
「可愛い可愛い可愛いー!」
「やめてくださいよ先輩!今度から椿先輩って呼びますよ!?」
「え、それは悲しいからやめて。椿くんって呼んでよ!」
「椿くんだけ当たり強くない?」

あーあ、せっかく背筋伸びてたのに丸くなっちゃった。
嫌だ、無理、見ないでって全力で照れる姿がもう面白くなってきちゃって、メンバーから本気なのか弄ってるのかわからない『可愛い』が飛んでくる。
サマパラ、各々が成長するためにいろんなことをやってるけど、この衣装はそのうちの一つだ。
俺や椿くんが衣装に携わってたくさん学ぶことはもちろん、今までとは違うメンバーの良さを引き出すことも求められてる。
成功したかどうかは本番でわかる。
この衣装を見たファンの方の反応で証明されるんだ。






さっきまでの戸惑いと恥じらいはもう治ったらしい。
自分のフィッティングを早々に終えた梅田はサマパラで着るカジュアル衣装のフィッティングを手伝っていた。
シャツをメインにして各メンバーに用意された衣装をひとつひとつ確認して衣装スタッフさんに指示を出している。
その姿はいつも通りで、リハ着にiPad、メジャーっていうお決まりのスタイルだ。

「はい俊介ちょっと踊って?ベルト当たる?大丈夫そう?」
「大丈夫。そんなに当たらないと思うよ」
「よかった。じゃあこれでいこうか。直しなしで」
「相変わらずサイズピッタリ」
「デタカより正確だよ?なんてね」
「あははは、間違いない」

楽しそうだな。
最近ソロの振付が難しくて悩んでた姿ばっかり見てたからなんか安心する。
目をキラキラさせて衣装に触れる梅田をライブの度に見られるのが嬉しい。
なんてことは本人は微塵も知らないんだろう。
衣装が好きで衣装で魅せたくて衣装にすべてをかけようとしてた人だ。
たとえアイドルをしながらでも、梅田の思いが消えることなんてない。

「次、横原どうぞー」
「んー」

俺の番が終わったからよこが呼ばれた。
フィッティングはこれで終わりだから着替えてもいいんだけど、奏や新が写真撮ってるから俺も撮ろうかと思ってなんとなくその場に残る。
よこを見た梅田は、うーんって首を傾げてた。

「なに?」
「なんか足りない気がする」
「嘘だろ、こんなイケメンなのに?」
「自分で言うな。否定はしないけどね」
「しないんかい」
「しないけど、なんか、うーん、まだいける感じで、……わかった!椿くんベレー帽使うね!」
「はいはーい」

パッてなにかを閃いた顔した梅田は拓也のフィッティングを手伝ってたばっきーに断りを入れて衣装ケースの蓋を開けた。
そこにはいろんな小物が入っていて、フィッティング中に自由に使っていいことになっている。
探し当てた黒いベレー帽を持ってよこの元へ戻ってきた梅田は、ちょいちょいって手招きした。

「横原、しゃがんでもらってもいい?」
「小さくて届かないから?」
「そうだけど、……優しい横原はしゃがんでくれるはず!」
「…お前さ、その言い方はずるいじゃん」
「はい、ありがと。ちょっと触るね?」

ニコニコ笑った梅田に負けたのかため息吐いたよこがしゃがんだら、その頭に優しくベレー帽が乗せられた。
全体のバランスを見ながら髪を整えて、ダンスしても落ちないようにピンで止めていく。
手元をじっと見ながら話す梅田と対照的に、よこは気まずそうに視線をキョロキョロさせてた。

「横原は髪色どうするの?染める?」
「今んとこ赤で行く予定」
「OK、赤ね。ならベレー帽は黒で大丈夫だ。……うん、いいね!やっぱりベレー帽あった方がいい!ベレー帽しか勝たんよ!」
「もう立っていい?」
「あ、待ってまだ止まってない」

よこの視線の先で、梅田が耳にかけてた髪がさらって落ちてくる。
切るタイミングを失ったのか伸ばす理由があるのか、分からないまま髪は伸びてとっくに肩を越えてしまった。
俺が『切らないの?』と聞いても『どうしようかな』しか返事が来ないその髪を見て、よこがつぶやいた。

「梅田は?髪型どうすんの?」
「悩み中…。あ、横原はどんな髪型がいいと思う?SPARKでかっこよく魅せられる色がいい」
「あー、長さそのままでシルバーとか?なんかみんな染めないみたいじゃん?たぶん俺が赤でもってぃが茶色だから、梅田がシルバーでも被らないっしょ」
「シルバーって椿くんがやってたやつ?」
「あれはシルバーグレーアッシュ」
「同じ美容院行こうかな。シルバーありかも。やったことないし」
「梅田は黒髪のイメージ強いから染めてもいいかもね」
「椿くんに相談してみよう。8月だけ染めるって、不良みたいだね」
「は?お前の不良の定義やばくね?」
「え、なんで?夏休みだけ染めるってことでしょ?」
「夏休みだけって決めてるなら節度ある不良じゃん」
「節度ある不良って意味わかんなくない?それは不良じゃないよ」
「そっちから言い出したくせに話がややこしくなってきた」

しゃがんでるから下から覗き込むよこと、ベレー帽のセットに集中しながらもくすくす笑いながら返事をする梅田。
なんだろう、頭の奥がざわざわする。
なにか知らないものが蠢いてる。
名前がつけられないそれは徐々に俺の頭を支配しそうで、怖くて今すぐ排除したいのに正体がわからないからなにもできない。
横原と話す梅田は、俺が知らない梅田だった。
あんな顔、見たことなかった。



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