髪型変えるよISLAND TV



「ドTV撮るけど映る人ー?」
「……」
「……」
「え!?誰もいないの!?嘘でしょ!?」
「映りたいけど俺今帽子持ってない!」
「ええー、つばっくん!!!」
「ごめん!」
「誰か撮ろうよー、って言ってもよこがちゃしかいないけど」

サマパラが迫ったリハ終わり。
スマホ片手にリハ場をうろうろするうめめの問いかけに誰も答えなくてしょぼんって肩を落とした。
俺は一緒に撮りたいけどサマパラに向けて髪型変えてるから映れない。
帽子も持ってないし、でも少しでも手伝いたいからうめめが持ってたスマホを受け取ってカメラのスイッチを入れた。

「俺が撮ってあげる!はい、回ってるよ」
「待って誰かと撮りたい!1人は嫌」
「1人で撮りなよ。梅田はドTVの更新頻度低いんだから」
「横原も低いじゃん!一緒に撮ろうよ!」
「嫌だよ」
「赤髪NG?」
「NGじゃないけど…」
「晴が赤髪って言っちゃったじゃん」
「あ…、ごめん」
「言っちゃったし、そもそも昨日の動画に赤髪映っちゃってるからもういいんじゃない?横原入りなよ」
「うわ、嫌なんだけど」
「一緒に撮ろうよ」
「あーもー、はいはい」
「優しいー」
「優しいー」
「イケメンで優しいのかよ!なんだよ!最強じゃんか!」

くっそーってわかりやすく悔しがったらうめめが笑ったのかスマホの画面越しに見えた。
ちょっと下がって画角を広くしたらうめめの隣に横原が入ってくれる。
SPARKコンビだなって思ったけど口を噤んだ。
セトリも振付も、まだファンの皆さんには内緒にしなきゃ。

「で?これなにドTV?」
「髪型変えるよドTV」
「えぇ!?うめめ髪型変えるのぉ!?」
「つばっくんわざとらしい」
「さっき2人で美容院行くって話してたじゃないすか」
「あははは、うん、してた」
「椿くん演技下手」
「うめめには言われたくないんだけど!」
「うわあ、カメラ揺らさないで!」

怒りを表現するようにスマホをガタガタ揺らしたらうめめが俺の腕を掴んで固定してきた。
お、いいね、ちょっと上目遣い可愛いよ。
髪が伸びでさらに女の子らしくなってるし、サマパラに向けてビジュアルも整えてきてる。

「2人で美容院行くの?」
「2人っていうか、椿くんが髪切ってもらってる人に私もお願いすることになったの」
「そうそう。今回うめめが髪色を、っあー!言えねえよ!この先は言えねえんだよ!」
「つばっくんテンション高くね?」
「高くもなるって!うめめがこんなにガッツリ髪型変えるの初めてじゃん?」
「そうなんですよ。いっつも黒髪ショートカットだから変えようかなと」
「じゃあ今の髪型はしばらく見納め?」
「うん、だからドTV撮ろうかなって」
「ちなみにどんな感じになんの?言える範囲で言ってよ」
「難しいな…うーん…」
「長い?短い?」
「少なくとも今の感じとはかけ離れてる!」
「それは分かってる!もっと別のなんかちょうだい!」
「別?えー…っとー」

やばい、思ったよりノープランでドTV回してるじゃん。
撮りたいって自分から言い出したからもうちょっとなんかあると思ってたよ?
なんか無茶振りしようかなーって思ったけど、同じこと思ってたのか横原がうめめの髪をじっと見ながら話題を振ってあげてた。

「どっかのMCでさ、聞いてみようよ。いつもと今回、どっちがいいですかー?って」
「いいね!PINKyのみんなに聞いてみよう!」
「声出せないから拍手でね」
「ええー、それはさ、どっちも拍手貰えなかったら辛くない?」
「大丈夫!俺らメンバーは両方に全力で拍手するから!俺はどんな髪型でも好きだと思う!」
「椿くん優しすぎる…!そう言ってくれる人がいるから新しい髪型にチャレンジできるんだよね。不評だったら怖いなーって思ってたから」
「カメラ止まってからでいいからどんな髪型にするのか教えて?そんな心配になるようなことするの?」
「結構変わるよ」
「変わるよね」
「もし万が一、PINKyに不評だったら俺が謝るわ。今回は俺の希望で髪型変えるんで」
「ええー!?そうなの!?」
「そうだけどそれ言っちゃうの!?」

え、え、え、なんで言うの!?って慌てふためくうめめを見てニヤニヤ笑った横原は1人だけカメラ目線でめちゃくちゃキメ顔してきた。
マスクしててもイケメンだな。
なんか言いたそうだから寄りで撮っておこう。

「PINKyの皆さん、まじで楽しみにしててください。今回の梅田はやばいんで」
「よこ、ハードル上げるなー」
「やっばい、横原じゃなくて大河と撮ればよかった!最後カットして!」
「このまま流そうぜ!」
「オッケー!」
「やめて!」

ハードルは上げられるだけ上げておこう!
それを越えていくのがIMPACTorsだからさ!
PINKyにはめちゃくちゃ期待して待っててもらおう!
新しい髪型、新しい衣装、新しいうめめのソロ。
すべてを新しく、そして進化させていこうよ。
ね?
強くなった姿、見てもらおう?






髪型を変えるなんて知らなかった。
ショートを貫き通してきた梅田が、よこの希望でスタイルを変えるなんて、そんなこと全然知らなかった。
ドTVで知ったその事実にもやもやがなかったと言えば嘘になる。
梅田は俺にとって特別で、俺は梅田にとって特別で。
そう思ってるし、そうだと信じてる。
でもここ最近ずっと喉の奥に突っかかった何かは取れない。
頭の中を徐々に支配する黒い感情の正体はなんとなく分かってる。
自覚したら思い当たる節がありすぎる。
グループ内に振付できるメンバーは2人いるのに梅田が頼ったのは横原で、髪型の意見を聞いたのも横原で、『好き』ってはっきり言うのも横原で。
今まで自分は嫉妬しないタイプだと思ってた。
雑誌でもそう答えてきた。
実際、嫉妬なんてしたことなかった。
でもそれは違う。
嫉妬するような、自分よりも優れた、好きな人を奪われてしまうんじゃないかって不安になるような、そんな相手がいなかっただけ。
横原のことはよく知ってる。
だからこんなに不安になるんだ。
梅田のことが好きだ。
好きで好きで好きで、その気持ちは誰にも負けない自信がある。
だけど、梅田が求める人が横原だったら?
俺じゃなかったら?
その時、俺はどうなるんだろう。

「……あれ?」

リハ開始までまだまだ時間があるのにリハ場に電気が点いて重低音が廊下まで聞こえてる。
そっと覗き込むとSPARKの音楽がかかってた。
鏡の前、1人でガシガシ踊る梅田に目を見開いた。
いつもと同じ長袖のリハ着を着てる背中は見慣れてるけど、汗で濡れた髪は黒からシルバーになっていた。
いつか、ばっきーがSHOCKの時にやってた髪色と同じ。
リハ場の照明でさえここまで光るってことは、ステージだともっと光るんだろう。

「……」

息の仕方を忘れる。
瞬きを拒む。
梅田は、お世辞にもダンスが上手い方じゃなかった。
どちらかと言うと苦手で、俺たちに必死に食らいついてくるような人だった。
それが今は全然違う。
見違えるような、むしろ別人のように見える。
カウントに合わせてピタッと止まる指先に目を奪われる。
『そこの音取るの!?』って振付はやっぱり横原の色が強く出ていて、悔しいけどめちゃくちゃかっこよかった。

「はぁ、はぁ、はぁ、」

曲が終わっても俺が入ってきたことに気づかない。
扉にもたれかかってじっと見つめてたら、汗を拭ってシルバーの髪を乱暴に耳にかけた梅田と鏡越しに目が合った。

「っ!?び、びっくりした!?え、俊介!?いるなら言ってよ!」
「梅田」
「いつからいたの?途中から見てた?声かけてくれたらよかったのに、」
「梅田!」
「は、はい!」
「好きだよ」

なんで言ったのか、なんで言いたくなったのか、なんで今だったのか、自分でもよくわからない。
でも自然と口から出てきた。
出てきてしまった。
梅田のことが好きなんだと、本人に伝えたいんだと、そう、自分の心が叫んでたんだと思う。
俺が言った言葉には”なにが”が抜けてた。
パフォーマンスなのか髪型なのか梅田自身なのか、なにも示していなかった。
もし示すならば、全部、なんだと思う。
このSPARKにかける思いとか、SPARKのために努力してる姿とか、横原の振付で”勝ちたい”って気持ちとか。
きっと、そういうもの全部に対する『好き』だった。
言葉を理解するまで数秒、その後、くしゃって泣きそうな顔で笑った。

「…ありがとう、今、すっごい自信持てた」
「ほんと?」
「うん、足の震え止まったもん」
「え、震えてたの?」
「震えてたよ!SPARK踊ってる時はずっと震えてる!だって、私、自分が思ってたより全然できなくて、せっかく横原が振付してくれたのに無駄にしちゃうかもしれないって怖くて、勝てなかったらどうしようってずっと怖かった」
「うん」
「でも、俊介が好きって思ってくれたなら自信持てる、うん、私、勝てそう!」

ああ、その目が叫ぶ。
俺のことが特別なんだと、俺は他の人とは違うんだと、唯一無二だと、梅田の目が叫んでる。
頭の中を支配する黒い感情が消えていく。
俺は最低かな?
酷いやつかな?
こうやって梅田の目に映る自分が特別なのかどうか確認しちゃうんだよ。
俺はいつだって、梅田の中で誰にも負けない”特別”でありたいんだ。




backnext
▽ビビッドリフレクション▽TOP