自粛前の採寸の話



「あ、横原来た」
「遅いよ。とりあえず脱いで」
「……は?」

待て待て待て。
この状況を理解させてくれ。
コロナの影響でジャニーズ銀座どころかジャニーズ事務所の舞台やライブの全面中止が決まったと知らされたのがさっき。
俺たちの単独公演が無くなったと知ってショックで肩落として、でもとりあえず今後について話し合うからってリハ場にきたのに、これはなんだ。
目キラキラさせた梅田と上裸のがちゃんが真剣な顔して向き合ってる。
え、まじで何してんの?
口開けたままの顔で固まってたら、リハ場にいた他のメンバーも服を脱ぎ始めていた。

「え、お前ら何やってんの?」
「採寸」
「さいすん?」
「自粛期間入っちゃうから、その前に測っておきたいってうめめが」
「晴ー!俺らの衣装作ってくれんのー?」
「とりあえずデザインだけは自粛中にやるー」
「よっしゃ!」
「あー、そういうこと?俺らのサイズ測って、それに合わせて衣装用意してくれるのね」
「最後に測ったの、結構前だもんね」
「だねー」
「大河終わりね。次、椿くーん」
「はーい」
「あ、椿くん筋トレしてもいいけどあんまり体格変わんないでね」
「え…」

おそらく明日から自粛になる。
俺たちは自宅待機指示が出て、家でできるお仕事をすることになるんだろう。
クリエは中止になったけど、それぞれがファンのため自分のために何か成長しなければならない。
それはみんな分かってて、まだなにをすべきか考えてる段階だろうに、梅田はもう動き出してた。
精一杯背伸びしながらつばっくんの肩幅を測る梅田を見ながら、新が目を細めた。

「…楽しそうだよね」
「あー、梅田?」
「うん。クリエC無くなっちゃったのに、うめめはずっと楽しそう」
「ね。俺もびっくりした。もうちょっと落ち込むと思ったのに」
「…梅田も凹んでるよ」
「え?」
「クリエ無くなったって俺と梅田とげぇくんはさっき車で聞いたんだけどすごい凹んでたよ。ね?」
「『なんでぇ!やろうよぉ!私お金出すからクリエ貸し切ろうよぉ!』って喚いてた」
「嘘でしょ。晴、自分で布買いまくってるしごはん食べ過ぎて常に金欠なのに?」
「影山くんそれうめめの真似?」
「ちょっと似てる!」
「だろ?俺結構晴のモノマネ得意!」
「悔しいのは梅田も一緒だけどさ、見せないようにしてんだよ、きっと」
「プライド?」
「だろうねー。一応年上組だし、歴も長いし。ちゃんとお姉ちゃんでいようって思ってるんじゃない?特に新と奏の前では」
「えーもーねぇーうめめ、そういうのなしにしようって言ったじゃないですかー」
「そもそもうめめはお姉ちゃんじゃないし」
「そこ!聞こえてるよ!新にそんなこと言われてショックです!」
「かわいそう」
「かわいそうって言うのやめて。本当にかわいそうみたいじゃん」
「本当にかわいそうだよ」
「奏、それ言うならまず奏がタメ口にしないと」
「あ、やば。なかなか直んないんだよね」
「はい椿くん終わった。次の人ー?」
「あ、俺行くわ」

後輩と年下の前では見栄を張ってしまう。
辛くて悔しくても、それを見せないように強くあろうとする。
それは大事なことだとは思うけど、いらなくね?って思う時もある。
だって俺らもう1人じゃないじゃん?
梅田が強くあろうとする度に、”クリエC”って仮の姿が消えることを予感してる気がしてモヤッとする。
ふと梅田を見たら、眉間に皺寄せてもってぃを睨みつけてた。
それを素知らぬフリをしてるもってぃは、俺と同じ予感を感じてるのかな。
採寸はテキパキ進んでいくのに、もってぃに話しかける梅田の声はかなりボソボソしてた。

「…あんまり言わないでよ」
「ん?なにが?」
「凹んでるとかお姉ちゃんでいようって思ってることとか。そういうの、みんなの前でバラさないで。新と奏には知られたくない」
「言っても大丈夫だって。2人ともそんなに子供じゃないし、今さら梅田のこと弱い人だって思わないよ」
「私が嫌なの」
「俺は梅田が強がってる方がもっと嫌だけどね。なんか、これで終わるって思ってるみたい」
「っ、……自粛期間中にみんなの衣装作ろうとしてるのに?」
「それ、揃いの衣装だよね?」
「……」
「個人の衣装じゃないよね?ちゃんと8人の衣装作ってよ?」
「…わかってるよ。8人の衣装作る。今回はクリエなくなっちゃったけど、次の機会がいただけるように頑張るから」
「強がってる?もう一回凹んどく?」
「さっき車で弱音吐いたから大丈夫だよ。強がってない」
「ほんとに?」
「ほんとに。大丈夫」
「わかった。ならごめん。新と奏には言わない方が良かったね」
「うん」

時々、梅田が別人に見える。
強くて、白黒はっきりしていて、自分の言葉に責任を持つ梅田晴が、まるで違う人に変わる。
強くあろうとしてるのにどこか脆くて、ぽろっと弱音が出てしまって、ふとした瞬間に消えてしまうような、そんな人に。

「自分の採寸した?」
「あ、まだ。忘れてた」
「…梅田」
「違うって、ほんとに忘れてたの。ちゃんと自分の衣装も考えるってば。もー、俊介心配しすぎ」
「今日女性スタッフさんいると思うから、ちゃんと測ってよね」
「はーい。次、新おいで」
「え……」
「嫌がらない!来なさい!」
「うわ!先輩こっわ!」

そんな人になる瞬間を、もってぃが嬉しそうに見てる気がするのは、俺の考えすぎなのかな?


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