初日から頼る話



ブリーチした髪、根本がプリンになる兆しを見せる間も無く、うめめの髪はお馴染みの黒いショートカットに戻った。
それと一緒に、『うめめ』が戻ってきた。
長い髪が好きだったなーって言いたかったけど、ショートにした当日影山くんが『やっぱりショート似合うな!いいよ!俺は好き!』って全力で褒めて、うめめが嬉しそうに笑ったから俺は何も言えなかった。
今日も、短くなった髪は綺麗に整えられてうめめの耳にかかってる。

「うめめ、おはよー」
「おはよう奏」
「…あ、晴って呼べばよかった」
「あははは、いいようめめで。同期以外は晴って言わなくなったし」
「晴ブーム一瞬だったよね」
「言ったでしょ?スクと同じですぐ消えるって」
「またスク流行らそうかな」
「そもそもさ、スクってどういう意味?」
「意味なんてなくない?ニュアンスだよニュアンス」
「ニュアンス?えー、なんか意味欲しいよ」
「じゃあー、」
「おー、おはよ、2人早くね?」
「横原スクー」
「え、なに?スクまた流行ってんの?」
「スクスクスクスクー」
「使い方違くない?」
「あ!スクって好きって意味じゃない?影山くんが言ってたかも!」

そうだ思い出した!ってぽんって手を叩いてそう言ったら、目を見開いたよこぴーと目が合った。
いつもの眠そうな目じゃなくて、なに言ってんだこいつって引いた目。
スタッフさんもいるこの稽古場でここだけ時が止まったように静かになって、シーンって沈黙が流れて、キョトンってしたうめめがマスク越しに笑った。

「じゃあ奏もスクだよ!」
「スクスク?」
「スクスクスク!」
「やったースク!」
「いや、絶対使い方違うから」
「じゃあ正解の使い方教えてよ」
「俺は知らんよ。スクって奏が作ったんじゃなかったっけ?」
「そうだっけ?」

前に流行った時のきっかけなんてもう忘れちゃったよ。
てか、スク全盛期は去年だからもうすぐ1年経つ。
俺たちがグループになってから1年経つんだな。
今日から虎者の稽古が始まる。
今年は俺も椿くんもうめめも参加させてもらえて、IMPACTors全員揃っての出演となる。
SnowManさんとやってた滝沢歌舞伎とは違った空気感なんだよって新は言ってたけど、実際はどうなんだろう。
追いつけるかな、隣に並んでできるかな、大丈夫かな。
同じ立場にいるはずのうめめも、いつもよりほんの少しだけ不安そうな顔してた気がする。
あれ?
そういえばうめめは衣装に関わるのかな?

「うめめってさ、虎者の衣装はやるの?」
「やらないよ。もちろん色々見せてもらって勉強はするけど、滝沢歌舞伎ほどがっつりは入らない。今年3年目でもう完成されてる作品だし、そこまで余裕ないしね」
「いいの?梅田さ、去年もってぃのこと脱がすくらい虎者の衣装気に入ってたじゃん」
「うわ、それは引く」
「その言い方は語弊がある。細かいディテール見たいから脱いで欲しいって言ったら俊介が公演後に脱いでくれたの」
「脱がしてんじゃん」
「脱がしてるね」
「脱がしてません!!!」

うめめが真剣にお願いしたから基くんは聞いてあげたんだろうな。
その光景、よく見るから目に浮かぶよ。
恥ずかしがってる基くんを無視して問答無用で脱がして隅々まで観察するうめめも目に浮かぶけど。
くすくす笑う俺とよこぴーに怒りつつも、うめめはダンスシューズの靴紐をきつく結び直した。

「今年はIMPACTorsみんなで出させてもらうからめちゃくちゃ頑張りたいの。トラビス先輩のダンススキルも盗みたいし、私頑張るよ」
「お、やる気満々」
「もちろん!だから横原お願いね?」
「え?なにが?」
「無理にとは言わないけど出来るだけ教えてほしい。振付とかパフォーマンスとか、色々。トラビス先輩もみんなもレベル高いから、正直不安。助けてほしい」
「っ、え、稽古初日からそんなこと言うの珍しくない?」
「不安は先に潰したい。何より、……遠征多いから」
「新幹線!」
「うわあああ!それ言わないで!怖い!乗り物酔い怖い!!!」
「南座で吐かないでよ?」
「約束できません!!!」

わざとらしくガクブル震えてるうめめを見て揶揄って笑うと思ったのに、よこぴーはそんな笑い方はしなかった。
うめめに言われたことを頭の中で反復して染み込ませるように噛み締めて、心底嬉しそうに笑った。
耳が赤い。
マスクで見えないけど口元が緩んでるのがわかる。
俺が見てるって気づいたらふいって目を逸らしたけど、誤魔化すようにマスクの位置を直すように触れた。
よこぴーが、全力で照れてた?
『怖い…、新幹線怖い…』って震えてるうめめはそれに気づいてないけど、前よりも2人が目に見えて仲良くなってて、なんかほっこりしちゃう。
最年長、可愛いなー。



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