嫉妬してる話



「ああ〜〜〜!!!もう無理、」
「とは言わせません!!!」
ほら立て晴!
「お願い、ちょっとだけ休憩、」
だめ!振り入ってないのお前だけだからな!
「遅れてんだから頑張れ!」
「ストレートに言われるときつい…」
「だから頑張ろうぜ!」
晴また居残り?俺もやるわ
「また居残りです…、ありがとう、まつく…」

虎者の稽古場で半泣きになってる梅田を見るのはこれで何度目だろう。
たぶん毎日見てるし、肩を落とす梅田をからかいながらもフォローしてくれるトラビスも毎日見てる。
全体稽古はとっくの昔に終わったけど、なんだかんだトラビスは稽古場に残って俺らIMPACTorsの面倒を見てくれていた。
梅田の隣では奏とばっきーが閑也くんに振りを教わってる。

晴、なんかいる?ごはん買いに行くけど
「え!?いいんですか!?じゃあ、」
いや、振り入るまで晴には奢んないルールだから
え、そんなルールあんの?
初日にしめが決めてたよ。ね?
「……はい」
あははは、じゃあ頑張れ晴!

俺らの中ではブームが去った『晴』呼びはトラビスの中で流行ったらしく、7人から『晴』って呼ばれてる。
最初は照れて恐縮してた梅田も、今じゃ受け入れて自然に反応できてる。
先輩って言っても年齢はほとんど変わらないし、トラビスは皆優しいし、ストイックだけど和やかな雰囲気で稽古が進んでいて。
今年虎者初参加ってこともあってちょっと遅れてる梅田を、皆気にかけてるし皆助けようとしてる。
つまり、俺の出番はない。

「おー?今回はもってぃの出番なし?」
「……」
「顔怖っ」

一番気にしてることをストレートに突っ込まれてムッとしてしまった。
出番ないんだろうなって思って稽古場を出ようと腰を上げようとしたのに、横原に声をかけられてまた床に座り込んだ。
『あ、怒った?』なんて悪意しかないにやり顔で隣に座った横原の手にはアクエリが2本。
なんだよ、やっぱり俺の出番ないじゃん。
話しかけたくせに俺の方なんか見てなくて、松松と拓也に教わる梅田を見てた。

「結構マシになってきてんじゃん」
「本番には絶対間に合わせるよ。そもそも梅田はダンス下手じゃないし」
「でもサマパラの癖抜けてないかも。ほら、ターンがSPARK」
「染みついちゃってるな。……梅田はよこの振付大好きだもんなー」
「すごい棘のある言い方。……サマパラの時に言ったことなら気にしないで。テンション上がってあんな言い方になっちゃっただけ」
「じゃあもし次梅田がソロやる機会があったら俺が振付するよ?」
「それはだめだわ。絶対俺がやる」
「そんなはっきり言われたら、気にしないとか無理でしょ」
「もってぃに疑われるような感情は持ってねえよ」
「俺は何も疑ってないけど」
「そう?じゃあこの話は終わり」

踊ってる梅田を見て不思議な感覚になる。
こうやって居残り練習を見るのは初めてじゃない。
むしろずっとずっと昔から見てきた。
滝沢歌舞伎に出ることになった時も、先輩のバックについた時も、自分たちのライブの時も。
でも、俺が梅田にお願いされて梅田の隣に立って練習したことって数えるくらいしかない。
いつからか梅田は俺に頼らなくなった。
俺以外の、ばっきーとか横原とか拓也とか。
とにかく俺以外に頼ることが多くなって、みんなも梅田を助けるようになって、いつのまにか俺はこうやって後ろから踊ってる梅田を見てた。
そんなことに改めて気づいてしまって、自分で自分にイラつく。

入った?入った?
「入った気がする!いける!…あ、横原!」
「っ、」
「なに?」
「音で踊るから隣で踊って?」
「なんで俺?」
「いつもお手本にしてるから、隣にいてくれると助かる」
「えー…」
「来いよ横原!」
「来い来い!」
「影山くんが言うなら…」
「ちょ、影山贔屓?私が誘っても来てよ」
「サマパラで散々付き合ったじゃん」
「これからも付き合ってくださーい」
「その顔だるい」
じゃあやるか!
音ください!
え、なになに?音でやんの?俺も入れてよ
「宮近くんセンター来て!センター!」

鏡越しに目が合ったのに呼ばれたのは横原で、梅田の隣で踊るのも横原で、パフォーマンス面で求められるのも横原で。
認める。
誤魔化しようがない。
俺は完全に嫉妬してる。
梅田が横原のダンスに憧れてることも、梅田が横原に頼ってることも、横原が時々『晴』って呼ぶことも、

「うわー、やっぱり横原のダンス好きだな」

そう言って梅田が笑うことも、全部、嫉妬してる。


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