年末年始の話



愛知、御園座に到着してすぐ、影山くんが『じゃんけんで席決めようぜ!』って意気揚々とドTV用のカメラを立ち上げた時、フラフラ状態のうめめが俺の肩に寄りかかってきた。

「ガチでパス…」
「じゃんけんの前にうめめが死にそうでーす」
「あー…」

東京から愛知まで新幹線で移動、駅からここまで車で移動。
基くんに注意されたのに移動中もiPad開いて仕事してたうめめは案の定乗り物酔いで真っ青な顔してた。
肩に寄りかかるってレベルじゃない。
もうほとんど倒れ込んでる。

「晴、じゃんけんいける?」
「いけないから私残ったところでいいよ」
「え、変な席になっちゃうかもよ?」
「残りものには福があるから」
「じゃあアイランドTVはうめめなしで撮る?」
「えー!」
「ごめん影山、本気で無理…」
「うめめ、隣の部屋空いてるからそっちで休んでる?」
「ありがとう…、ごめんなさい…」
「気にしないで」

せっかくの撮影タイミングだったけどだめなものはだめだ。
フラフラのうめめが俺から離れて歩こうとしたら基くんが腕を掴んでぐって引き寄せた。
歩けないわけじゃないけど、歩くのもしんどいんだろう。
口元抑えたってことは限界だ。

「がちゃん、俺の上着取って」
「はい」
「ありがとう。梅田、吐くなら絶対ビニール袋ね。あとなんかあったらすぐ呼んで」
「はい…、あー、気持ち悪い」
「だから仕事すんなって言ったのに」

隣の部屋の畳にごろんて横になったうめめに上着をかける基くんの声はちょっと怒ってた。
新幹線に酔うのも車に酔うのもわかってて、もちろん対策として椿くんが用意してた酔い止めは飲んだしなるべく酔わないように前日はちゃんと寝たってうめめは言ってた。
それでも移動中ずっとiPad見て仕事してたら体調悪くなるに決まってる。
うめめの乗り物酔いはなんとか治してほしいよね。
だって俺ら、これから地方遠征とかもっとたくさんやりたいよ。

「あいつ、そんな仕事あったっけ?」
「え?」
「だって虎者終わった後の仕事なんにも決まってなくね?」
「たしかに」
「……なんか隠してるな」

横原くんの言う通りだ。
俺らIMPACTorsはグループとしての仕事は虎者で終わり。
年明けから4人は仕事決まってるけど、うめめは仕事決まってない。
大きな仕事がない中で移動中もiPad見なきゃいけないってどういうこと?

「よし!基は両手でじゃんけんして!」
「なんで?あー、梅田の分?」
「そう!あまりものってなんか嫌だし、晴も参加してるってことで!」
「どっちが晴?」
「じゃあこっち」
「カメラに説明して?右手が基くんで左手がうめめね?」

気合い入った声で影山くんが撮影を始めたからこの話は一旦終わりになってしまった。
席替え後、うめめのiPadを覗き込んだ影山くんの大声で俺らは真実を知ることになる。
年末に開催されるデビューした先輩方のライブ、ジャニーズフェスティバルとジャニーズカウントダウン。
IMPACTorsは出ないけど、うめめは1人、衣装班として参加が決まっていた。






「いいなー」
「スタッフだけどIMPACTorsの梅田ですって名乗るから、頑張るね」
「お年玉いっぱい貰えそう」
「あははは、それはそうかも」
「SnowManさんは絶対くれるでしょ?あとたつ兄もくれそう」
「いただけたら全額使って衣装作ろうかな」
「4着目のオリジナル衣装?スカートがいい」
「わかった、奏はスカートスタイルで」
「俺じゃなくて!うめめが!」
「スカートも素敵だよ?エイトの安田くんとかジャニストの神山くんとかスカート衣装着てるし」

あはははって笑ってるけど本気か冗談か分かんないから。
公演に向けてメイクしてるうめめはヘアアイロンで髪をセットしながらスタンドに立てかけたiPadもいじってる。
画面を覗き込めば嵐の松本潤くんからどんどんメッセージが飛んできてた。
うめめ本人は『たまたま事務所寄ったらたまたま潤くんがいて、お願いしたら承諾してくれた』って言ってたけど、そんな簡単にOKされる仕事じゃない。
うめめの今までの積み重ねがあってのことだ。
当日はデビューした先輩方がドームに集まる。
そこで数多くの衣装を見て、松本潤くんの演出を含め魅せ方を学べるのは本当に貴重な機会だ。
まあでも、うめめがその仕事に呼ばれてるってことは、そもそもIMPACTorsはジャニフェスにもカウコンにも呼ばれないっていうことが前提なわけで。
悔しい気持ちはもちろんある。
でも他のグループと比べて落ち込んでる場合じゃないし、余計なこと考えずに俺らは俺らの道を真っ直ぐ進むだけだ。
近道はないし、ただひたすらに目の前の仕事を一生懸命やることが大事。

「カウコン終わったら実家帰るの?」
「んー、帰らないかも。ありがたいことに今年は仕事多かったから部屋の掃除できてないんだよね。いろいろ掃除したい」
「一人暮らしって大変そう」
「楽しい時もあるよ。お風呂早く入りなさい!って怒られることない」
「それは羨ましいね」
「正直、家賃きつくね?」
「わかる」

トイレから戻ってきたよこぴーが汚しメイクに取り掛かった。
同時にうめめもパフ持って汚しにかかる。
あれ、そういえば俺の両隣は1人暮らし組だ。
俺を挟んで飛んでる会話を聞きながら、俺も顔を汚し始めた。

「遠征中も家賃かかってるからまじで辛い」
「部屋にいてもいなくても家賃はかかるもんね」
「この時期、空気入れ替える時めっちゃ寒くね?俺は帰ったら絶対窓開ける」
「寒い。でも窓開けて出かけられないからひたすら我慢」
「風邪引きそう。よこぴーは実家帰るの?」
「まだ決めてないけど、年末年始ってお笑い番組多いから1人でじっくり見たいんだよな」
「あ、そうだ、19日空いてる?俊介と大河と新が福岡にスノマニ行くって」
「いいなー、福岡旅行じゃん」
「そこしか見に行くチャンスないからね。横原も行く?」
「その日M-1なんだけど」
「あー…、うん…、じゃあ無理か」
「ちょ、俺がSnowManさんよりM-1取ったみたいな目やめて」
「でも実際そうだからね」
「やめろ」
「うめめは福岡行くの?」
「ジャニフェスの仕事…」
「もー、うめめ仕事ばっかり」
「それ以前に梅田は飛行機無理っしょ」
「行けないけど涼太くんに応援メッセージ送る」
「お前、深澤くんにも送れよ」
「……なんか、年末からバラバラだね」

今まで話してたテンションからがくって落ちた声色が出てしまったせいか、2人が汚しメイクのパフ持ったままじっと俺を見た。
あ、やばい、そんな真剣に言ったつもりじゃなかったんだけど!
弁解しようにももう遅い。
よこぴーがすっごいニヤニヤした。

「みなちゃん寂しい?」
「えー、めちゃくちゃ可愛いんですけど」
「そんなんじゃないわ!」

言葉では強がったけど、ちょっとだけ図星。
2021年は、というか結成してからずっと誰かと一緒だった。
SHOCKは椿くんと一緒だったし、滝沢歌舞伎、ジャニーズ銀座、サマパラ、虎者って、ずっとメンバーと一緒に仕事してきた。
それがこの年末からは個人仕事が増えて、年明けたらお兄ちゃんズの4人は舞台、うめめも衣装の仕事。
メンバーと会える時間は格段に減る。
顔に出てたのか、今度はうめめがニマニマしてきた。

「みなちゃん、かあいいねー」
「その言い方やめて。すっごい嫌」
「ごめん、あまりにも可愛くてつい。……寂しいよね、分かる」
「え、うめめも?」
「そりゃ寂しいよ。グループでお仕事するのめちゃくちゃ嬉しいしめちゃくちゃ楽しいもん。だから反対に1人の仕事は緊張する。でも、1人になったらなったで頑張って吸収して、全部グループに還元しないとね」
「俺は1人仕事楽しいけどね」
「そんなこと言ってるけど横原だって寂しいでしょ」
「全然」
「年始、1人で寂しかったら連絡して?家近いし、遊ぼうよ」
「絶対しない」
「奏も、寂しかったらいつでも連絡してね?」
「なーんか、不満」
「なにが?」
「2人の年上感が」

ぶーって不機嫌な顔でそう言えば視線を合わせたよこぴーとうめめが笑った。
年上の余裕、年上の貫禄、弟扱い。
嬉しいと悔しいが混ざる不思議な気持ち。

「まあ、お兄ちゃんとお姉ちゃん(自称)ですから」
「ちょっと、かっこ自称って言わないでよ」
「え、公認だと思ってんの?」
「横原だって本当のお兄ちゃんじゃないからね」
「それ、自分のこと?」
「イラっとしたから年始に横原ん家突撃してやる」
「俺の家知らないじゃん」

優しくて頼もしくて自慢のお兄ちゃんとお姉ちゃんだけど、年上組で話してる時は年相応に笑ってて、時には甘えてて。
ああ、いいなーって、羨ましくなってしまう。
ところで今の会話、年明けに2人がプライベートで会うってフラグ?
ねぇよこぴー、フラグ?
どうなの?
なんで顔逸らすの?
ねえ!!!
よこぴー!!!




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