新しい戦闘服の話



「かっこいい!」
「いい!めっちゃいいようめめ!」
「かっこいい」
「すっっっげー強そう!!!」
「えへへ、もっと言って?」
「かっこいい!!!」
「っ、もっと!」
「かっこいい」
「だよね!」
「最強だな!!!」

「…嬉しそー」

リーダー、椿くん、大河くんにベタ褒めされてるうめめは満面の笑みで、いつもは褒められたら照れるのに今は全力で褒め言葉を強請っていた。
ニマニマした顔を隠しもせず、椿くんが構えるカメラにいろんなポーズをキメている。
滝沢歌舞伎ZERO2022が近付くリハ室では、目黒くんがプロデュースしてくれたFighterの衣装合わせが行われていた。
赤と黒を基調として割とハードな素材を使ったその衣装はまるで戦隊ヒーローみたいで、特にリーダーとうめめの衣装はヒーロー感が強い。
うめめが動く度に、背中についたマントが靡いてる。

「梅田嬉しそうだな」

あ、基くんが俺と同じこと言ってる。
その頭にはキャップが被さってて、目黒くんが『基と松井は帽子組ね』って言ってたことを思いだした。
目黒くんが作った衣装は今までのIMPACTorsの衣装にはないテイストですっごいかっこいい。
着替えを終えた基くんと新とよこぴーが戻ってきたことに気付いて、うめめの顔がぱあぁって明るくなった。

「俊介!」
「ん?」
「どう!?」
「え?」
「っどう!!!」

基くんに駆け寄ったと思ったら大きく両手を広げてにっこーって上機嫌な笑顔。
うめめがここまであからさまに『褒めて!』って感情を出すのは珍しくてびっくりしたけど、基くんに感想を求めるのは当然か。
基くんとうめめにとって滝沢歌舞伎は思い入れのある舞台で、今年で7年目。
毎年2人で頑張ってきたからこその思い出もあるし、毎年パワーアップしたいって思いもあるんだろう。
もしかしたら、うめめが新しい戦闘服を一番に見せたいのは基くんなのかもしれない。
ううん、もしかしたらじゃなくて絶対にそうだ。
うめめの気持ちを汲み取ったのか、基くんが柔らかく笑った。

「めっちゃかっこいいじゃん」
「ありがとう!それが聞きたかった!」

今日イチ嬉しそうな笑顔に、俺に向けられたわけじゃないのにドキッとしてしまう。
それくらいうめめの笑顔は可愛い、俺らのメンバーすげえな、ファン増えそう、なんて思いながら不意によこぴーと目が合った。
うわ、気まずそうな顔した。
コロナから復帰した時にうめめを抱きしめてた場面を目撃しちゃったわけだけど、俺は誰にも言ってないし誰にもばらしてない。
よこぴーとうめめもいつも通りだったから何もなかったんだと思うんだけどな。

「うめめの衣装すごいね。ヒーローみたい」
「ねー、すごいよね」
「ショートパンツって初めてじゃない?」
「うん、初めて」
「俺らが白衣装作った時は脚出したくないって言ってたのにこれはいいんだ」
「目黒くんに、強制はしないけど出した方がバランスいいから、嫌じゃなかったお願いしたいって言われた」
「くぅ!なんか言い方がスマート!」
「でも言う通りめっちゃバランスいいね」
「かっこいいけど、サイズぴったりだから絶対太れない…」
「食べる量減らしたら?」
「無理でしょ」
「なんで新が答える?」
「え?だって無理でしょ」
「はい並んでー!みんなで写真撮ろう!」

全員が横一列に並ぶと、圧巻の一言。
赤色と黒色で締まって見える中、各メンバーの良さがはっきりと際立ってる。
やっぱり目黒くんってすごいな。
でもこれだけじゃ完成しなくて、ここに岩本くんの振付が加わったら俺たちはもっと強くなれるんだ。

「椿くん、もっと写真撮ってほしい!」
「はいはーい」
「奏おいでー!」
「え、俺?」
「全員とツーショット撮るから!」

どうやらうめめは今回の衣装が相当気に入ったらしい。
ずっとテンション高いし、ずっとニコニコしてる。
2人並んでポーズを決めると椿くんが何度も何度もシャッター切ってくれて、このまま雑誌に載せてもいいくらい。
でもやっぱり一番嬉しそうなのは基くんと写真撮る時で。

「いいね!2人ともいいよ!」
「…待って、めっちゃ顔にやける」
「ねえ!私かっこいい顔でキメてるんだからにやけないで」
「梅田がはしゃぎすぎてて」
「いつもと同じですが?」
「全然違うよ」
「同じだよ。7年目の滝沢歌舞伎も気合十分ですから」
「そっか、もう7年目か。大人になったなー」
「ねえー」
「てか7年も一緒なの?」
「そうかも。長いね」
「長いな。あ、違うか、滝沢歌舞伎やる前から仲いいか」
「あ、悪い顔してる」
「ちょっと、もってぃマウント取んないでよ!わざわざ俺の方見て言う必要ないよね!?」
「ごめんごめん、でも滝沢歌舞伎だけは許してよ。誰も俺に勝てないからさ」
「うわ!すごいマウント!」
「おい基!ドヤ顔すんな!」
「みんなごめんな?俺しか勝たんよ」
「あいつイキってんな」

まーた基くんの悪乗りマウントが始まった。
ドヤ顔もイキった顔も妙にへこへこしてる姿勢も完全にふざけてて、椿くんはシャッター切るのやめちゃったしうめめはケラケラ笑うだけだし、俺らはヤジを飛ばすだけ。
空気を変えたのは次に写真撮る予定だったよこぴーで。
基くんに『そこどけ』って感じで手を振ってうめめの隣に割り込んだと思ったら、これまた大きなマウント取ってきて。

「梅田ソロ専属振付師が通りまーす」
「うわ!最悪!」
「おおっと?これはもってぃには痛いマウント!」
「さすがにそれには勝てねえって!」
「それはずるいだろ」
「専属だったの?」
「あ、自覚なし?じゃあもう二度とやんない」
「え!?ごめん!専属!専属だからそんなこと言わないでよ!」
「あはははは!必死すぎ!」

うめめのことでマウント取るのは今に始まったことじゃないしもはやネタになってるから、皆そこまで本気で言ってるわけじゃない。
そんなこと分かってるんだけど、よこぴーは本気だったんじゃないかなーなんて邪推してしまう。
俺だけがそう思ってしまうのかもしれないけど。
さて、そろそろこの無意味なマウント合戦も終わりにしよう。
はしゃぎすぎて疲れてきたし、もうすぐ目黒くん達がきて最終フィッティングが行われる。
ぼーっと座って大人しくしてた新の肩を叩いてそっと耳打ちをした。

「ちゃんと撮れた?」
「うん、大丈夫。見る?」
「見る!…うわ!横原顔面が強い」
「それ褒めてんの?」
「そりゃもちろ、」
「ねえ」
「ん?」
「あらみなと撮ろうよ」
「お姉ちゃんなんでしょ?」

こてんって顔を傾けた新はめちゃくちゃあざとい。
でも効果は抜群で、一瞬ぽかんって顔したうめめの顔がお菓子みたいにとろけた。

「撮る!!!あらみな可愛すぎる!!!」

誰がどんなマウント取ろうが、あらみなが勝つんだよね。

「横原ももってぃも負けたな」
「そう言うばっきーも負けてっから」
「そもそも勝ち負けとかないし」
「うわ!よく言うよ!最初にマウント取ってきたくせに!」






『Masquerade』を読んでいなくても楽しめると思いますが、読んでいた方がより話が分かりやすいかと。
阿部ちゃんはSnowManメンバー入りヒロインに長年恋をしています。






「細っ!え、細っ!」
あははは、そう?
「え?あ、え、…すみません、声に出てました」

恥ずかしい、思ってたことが声にダダ漏れてた。
背が高い阿部くんの笑い声が上から聞こえてきて、もっと恥ずかしくなってしまった。
だめだ、自分の手元に集中しよう、今は仕事中。
さっきのFighterのフィッティングではしゃぎすぎてしまった気持ちが変に浮ついてる。
めめが来てから私達IMPACTorsのフィッティングは滞りなく終わって次はSnowManさんの番。
今年も衣装係を兼任させてもらえた私にも仕事があって、いつものレッスン着に着替えてこうして阿部くんのフィッティングを担当している。
それにしても腰が細い。
用意された衣装はゆとりがありすぎて、どのくらい詰めたらシルエットが綺麗になるか、さっきから試行錯誤していた。
安全ピンで止めてはチェック、また止めてはチェック、を繰り返す。

「このくらいでどうですか?踊ったら違和感あります?」
うーん、ウエストはいいんだけどもうちょっとひらひらさせたいかも
「了解です。他に気になるところありますか?」
首元に装飾欲しいかな
「おー、いいですね」

人によって衣装への拘りは様々で、全部お任せの人もいればリクエストをくれる人もいる。
阿部くんは割とリクエストをくれる方だからそれを形にするのが衣装係の仕事だけど、阿部くんの意見を入れつつ私らしいテイストも入れたいなー、なんて思いもある。
どうしようかな、なんて思いながら見上げたら、『ん?』って顔した阿部くんと目が合って。

「可愛い」
…梅田
「あ、ごめんなさい、つい」

あざとい『ん?』につい本音が漏れてしまった。
咎めるように呼ばれた名前に言葉上では謝ったけど、阿部くんが本気で怒ったわけじゃないって分かってる。
今年で滝沢歌舞伎7年目ってことは、SnowManさんとお仕事するのも7年目だ。
信頼関係はあるし、距離感だって弁えてるつもり。

「阿部くんって、SnowManの中にいると目立たないですけど身長めっちゃ高いですよね」
そう?めっちゃって程じゃないんじゃない?
「高いですよ。クイズ番組で見るとびっくりしますもん」
それ、よく言われる。でも梅田は見慣れてるんじゃない?IMPACTorsも背高いし
「まあそうですけど、うちは阿部くんみたいなタイプはいないから、阿部くんのギャップはすごく新鮮です」
俺ってどんなタイプ?
「SnowManの中にいる時はあざとくて可愛いのに、外に出たら頭良くて爽やかでかっこいいタイプ、ですかね」
俺そんな風に見えてんの?
「見えてます。ギャップの塊です」
えー、うーん、そうなんだ。大成功じゃん
「大成功?キャラ作りがですか?」
うん。俺本当はそんなキャラじゃないし
「えー?どっちも作ってるんですか?」
作ってるわけじゃないけど、……本当はめちゃめちゃ泥臭いよ。諦めも悪いし

裏では、それこそ滝沢歌舞伎のリハでは泥臭く努力してるって意味かな?
って思って顔を上げたら、阿部くんと視線は合わなかった。
あ、違う、って気づく。
『本当はめちゃめちゃ泥臭い』の真意は分からないけど、向けられた視線の先を辿ってなんとなーく察する。
阿部くんの視線は無意識に動いてしまったんだと思う。
ほんの一瞬だけだったし、もしかしたら私の勘違いかもしれない。
7年一緒にお仕事してもまだまだ知らないことばかり。
衣装合わせをしながら涼太くんと笑い合ってるその人を見て阿部くんの言葉の意味が分かってしまったけど、その答え合わせをする前に阿部くんが口を開いた。

梅田ー
「あ、はい。続けますね?」
はーい

深くは突っ込まずにまた手を動かした。
腰細いからベルト通して重心上げた方がいいかな。
うーん、でもひらひら感がなくなっちゃうとそれはよくないし。
一番いい塩梅にしなきゃいけないし、他のメンバーとリンクさせた方が可愛いし。
頭から煙が出そうな程悩む私を見て、阿部くんが少しだけ腰を折った。
さっきより視線が近くなって、真っ直ぐに見つめられると心臓が早くなる。
何年も一緒にお仕事させてもらってて素を知ってるとはいえ、かっこいい人に見つめられたらドキドキするのは当然で。

難しいこと考えないで、梅田が一番良いと思う阿部亮平にしてよ。だて様が認めた梅田晴でしょ?
「っ、」
信頼してるから大丈夫
「…はい!」

ああ、嬉しいな。
涼太くんに認められたことも、そんな私を阿部くんが信頼してくれたことも、こうやって笑ってくれることも。
全部が嬉しい。
2019年は泣いてた。
私がここにいる意味が見つからなかった。
でも今は違う。
ここにいる意味も、ここにいたいと思える理由も、ここで手に入れた強さも持ってる。
滝沢歌舞伎7年目。
去年よりもずっとずっと、強い私でありたい。



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