主演舞台が決まる話



「…梅田?」
「……」
「…寝てる」
「うめめ寝ちゃった?」
「うん」

小屋入りする前の席決めじゃんけんで梅田が勝ち取った席は俺とばっきーの間(正確には、梅田が席を決めた後に俺が隣を取った)。
昼夜間はケータリングルームで3人前くらい食べるのが梅田のいつものルーティーンなのに今日は座布団の上で寝息を立てていた。
シャワー浴びたばっかりでセットされてない髪が風に揺れてる。
イヤホンつけっぱなしで、手から滑り落ちてるスマホにはSnowManさんのyoutubeが流れていた。

「完全に寝落ちだね」
「夜公演大丈夫かな。お腹鳴りそうじゃない?」
「その可能性ある。あ、ばっきーいいよ。これで」

ハンガーラックに向かおうとしたばっきーを呼び止めて、自分が着てたジャージを脱いで梅田にかけた。
今日は暖かいけど風邪引いたら困るから。
顔にかかった髪を退かしても起きる気配はない。
連日の舞台は俺らでも疲れるから梅田はさらに疲れてるんだろう。
ありがたいことに休演日も他の仕事入ってるし、休める時に休んでおかないと。
楽屋に戻ってきたメンバーも梅田が寝てることに気付いて声を潜める中、勢いよく走ってきたのはマネージャーさんだった。

「梅田!」
「あ、すみません、今寝てて、」
「決まったぞ!」
「え?なにが?」
「起こした方がいいですか?」
「うん!」
「うめめ起きて!」
「梅田!」
「んー、え、なにぃ」
「決まったんだぞ!」
「あ、おはようございま、」
「主演舞台!」
「……へ?」
「この前のオーディション受かった!主演舞台が決まった!」
「ええ!?すごい!」
「なになに?」
「主演舞台!?」
「やったな梅田!オーディションよく頑張った!」
「すごいよ梅田!…梅田?」
「しゅ、俊介…」
「ん?」

周りの温度感とは裏腹に、寝起きでぽかんって口開けたままの梅田の肩から俺のジャージが滑り落ちた。
いつのまにか俺の手をぎゅうってしてた梅田の指先が震えてて、そのままゆっくり頬に押し当てる。
瞬きさえしないその目を見たらなにを考えてるか分かったから、その頬をむにって軽く摘まんだ。

「いひゃい…」
「うん、夢じゃないからね」
「…っえ!?じゃあ本当に主演!?」
「今!?」
「え、え、えーーー!」
「やったー!」
「おめでとう!」
「ありがとう?え、え、こういう時ってありがとうでいいの!?」

どうしよう、どうしよう!ってテンパってる梅田が面白くて笑ってしまう。
俺の手を掴んで『ほんとに!?ほんとに!?!?』って繰り返すから何度も何度も『本当だよ』って伝える。
あまりにも梅田が喜ぶからマネージャーさんもガッツポーズしたし、拓也もばっきーもがちゃんも、この場にいた全員が喜びの声を上げてた。
メンバーが主演舞台をするのはばっきーに続いて2人目。
俺も全部知ってるわけじゃないけど、年明けに梅田は滝沢歌舞伎の準備と並行していくつかのオーディションを受けてたって聞いてた。
それが形になったんだ。
それも主演っていう最高の形で。

「え、なにこれ」
「誰かの誕生日?」
「あっちの部屋まで声聞こえてたよ」

騒ぎを聞きつけてきたのか3人が戻ってくると、梅田は立ち上がって思いっきり両手を上げた。
全力で飛び上がって喜びを表現するみたいに。
そのまま空高く飛べそうなくらいに。

「私!主演舞台決まった!!!」
「え、まじ!?」
「おめでとう!」
「えー、すごい!主演!?うめめすっごいな!」
「すげー!」

広い楽屋なのに8人でぎゅっと集まって口々におめでとうを繰り返す。
滝沢歌舞伎みたいなグループ仕事ももちろん嬉しいけど、外部の仕事にはそこでしか得られないものがある。
それを吸収してグループに還元することで俺たちはもっともっと強くなっていくんだ。
自分のことのように喜んでくれてたマネージャーさんは、持ってた鞄からスケジュール帳を取り出した。

「じゃあ今週中にピアスホール開けてね」
「へ?」
「オーディションの時に説明あったよね?役柄的にピアスが重要アイテムだから絶対開けてね。今週中に開けたら本番までには穴が安定すると思うから」
「……はい」

梅田の顔からサァーって喜びの感情が引いていく。
ごくって唾を飲み込んだのが分かったしトレードマークのショットカットから覗く耳は真っ白で、そこに穴を開けるなんて想像もできなかった。



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