013



「これは見事に、……ボロボロじゃな」
「あはははは!」
「笑いごとじゃないからね!」
「かげ怪我しすぎ!」
「もー!皆本気で戦い過ぎなんだよ!」
「って言ってるもってぃもボロボロだけどね」
「ミスター・モトイ?もう眼鏡は外しても大丈夫じゃよ」
「あ、はい、そうですね」

ダンブルドア先生に促されて眼鏡を外すと、ずっと続いてた頭痛が止まった。
いろんなものを見過ぎてたみたいだ。
もう見る必要はないし、みんなに指示を出して戦う必要もない。
呪い感染大爆発が収まったホグワーツは落ち着きを取り戻していた。
魔法省から派遣された闇祓いによって呪いは浄化され、狂暴化していた生徒は眠ったまま、命に別状はない。
襲われた生徒は先生方や戦ってくれた生徒、そして俺たち“Wildfire”によって大きな怪我なく無事だった。
誰も死なせていないし、誰も殺させていない。
事件の終結としては上出来だろう。
とはいえ、今回の事件はかなり大事になった。
軽傷だけど多くの生徒が怪我をしたし、医務室は呪いにかかった生徒で満床状態。
自分の子供を心配した親から苦情が殺到し、先生方は休む暇もなく対応に追われている。
魔法省大臣からもダンブルドア先生へ連絡が来ているらしいが、そんな多忙の中ダンブルドア先生はわざわざ“Wildfire”の部屋まで来てくれた。
医務室に入れなかった俺たちは“Wildfire”の部屋、つまり北塔の天文学の倉庫にベッドを8つ並べて休むつもりだ。

「まず、事の顛末を話そうかのう。儂はパリに出張中だったわけじゃが、ミスター・サトウの手紙を見てすぐに戻ってこられた。今回の事件のすべてが書かれていたから迅速に対応できた。ありがとう」
「いえ、そんな…」
「新めっちゃナイスプレーじゃん!」
「あらちすごいよ!」
「梟便よりも早く手紙を届ける魔法は見事じゃった。ただこれからは梟も使ってやってくれ?仕事がないと拗ねてしまうからのう。ミスター・カリムの今後についてはこれから検討することになるじゃろう。彼の家からは呪いを研究していた痕跡が発見された」
「佐藤家はどうなりましたか!?新の家は無事なんですよね!?」
「無事じゃ。無事どころか、儂が動くより前に佐藤家は全員保護されておったぞ?」
「え?」
「ミス・オギマチ」
「っ、」
「誰が守ったのか、分かっておろう?」
「……叔父様ですか?」
「左様。ミスター・サトウ、君のお兄さんは実に賢い。カリム家に脅されながらも荻町家に手紙を出していたようだ。荻町家から連絡を受けて闇祓いはすぐに君の家族を救出したよ」
「そっか、エマのおじさん動いてくれたんだ」
「実に見事じゃ。荻町家が単独で動くのではなく闇祓いが動いたことで、呪いの現物をその場で抑えられた。これでカリム家を罰することができる。ミスター・サトウ、明日、君の家族に会えるように手配する。じゃが、今夜は休むのじゃ。もう君が、君たちが危険な目に遭うことはない」
「はい…!ありがとうございます!」

『危険な目に遭うことはない』
ダンブルドア先生の柔らかい笑みとその言葉で肩の力が抜けた。
俺だけじゃない。
新も、他のメンバーも、戦いが始まってからずっと気を張ってた。
困ってる人を助けたい、人を救いたい、皆を守りたい。
そんな思いで始めたクラブ活動だったけど、まさか生死に関わる戦いをすることになるなんて思わなかったから。

「ダンブルドア先生!」
「ん?」
「ありがとうございました!!!」

ニカって力強く笑った拓也を見て、俺たちがやったことは正しかったんだって思える。
怖かったけど、死ぬかと思ったけど、それでもここに7人戻ってこられて新もここにいて、それだけでよかったなって思えるんだ。



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