015



青い炎が頭から離れない。

「いってー!まじで痛い!防御魔法も間に合わなかった!」
「かげ、どうした?」
「今日全然だめじゃない?」
「3回も落ちるなんて珍しいね」
「身体はめっちゃ元気なんだけどな!」
「お腹空いてるとか?」
「朝からがっつりパイ食べてたじゃん」

打ちつけた背中が痛い。
箒から投げ出された身体はボロボロだし、練習着は泥で汚れてるから早くシャワー浴びたい。
クディッチフィールドに仰向けに寝転がったら赤と青と黄色がヒュンヒュン目の前を飛んでいく。
クディッチの試合を控えた今、練習場は取り合いでグリフィンドール、レイブンクロー、ハッフルパフの時間が被ってしまった。
せっかくなら三寮合同で練習試合しようぜってなったけど、俺があまりにも不調すぎてグリフィンドールは負け続けたし、3回も箒から落ちて椿くんに助けられた。
敵チームなのに優しい人だ。
まあ、本気の試合になったらめっちゃ強くて遠慮なんかしないんだけど。
それもこれも、全部青い炎が原因だ。
俺、エマのことばっかり考えてる。
これ以上は勝負にならないって、練習は解散になった。
俺キャプテンなのに、ごめんな…。

「早くシャワー浴びて図書室行かないと」
「え、なんで?」
「魔法史の課題出てるじゃん」
「嘘!?俺やってない!」
「かげやばいよ。明日までだからね」
「うわー、やっちまった…、大河手伝って!」
「ごめん無理。手伝えるほど進んでない」
「椿くん!」
「俺この後用事ある」
「最悪だ…」
「横原かエマに手伝ってって頼んだら?同じ寮なんだから、最悪図書館閉まってからも談話室で教えてもらえるし」
「っ、あー、うーん…」

歯切れの悪い返事したから大河と椿くんが首を傾げた。
呪い感染事件が解決してから、嬉しいことにエマと横原と奏は“Wildfire”に残ってくれている。
残ってくれた、というか、出るタイミングを失ったのか北塔の天文学の倉庫を気に入ったのか、3人は前と変わらず俺たちと一緒に行動してくれている。
依頼をこなして人を助けながら確実に距離は縮まっていて、その証拠に『荻町』って呼んでた椿くんたちが『エマ』って呼ぶようになって、エマも椿くんたちとよく笑うようになった。
そう、椿くんたちとは…。
エマの背中に青い炎を見つけた時から、エマと俺は気まずいまま。

「自力で頑張るしかない!」
「頼めばいいのに。横原なら、」
「っあの!大河先輩!」
「ん?」

大きい声で話しかけられたから振り向いたら、真っ赤な顔した女の子が大河を呼び止めてた。
緑ってことはスリザリンか。
スリザリンの子がレイブンクローの大河に話しかけるなんて珍しいな。
そう思ってたら、その子は胸の前できゅって手を握ったままじっと見つめてきた。

「大河先輩!私、1年生の時から先輩のことが好きです!」
「え、」
「え!?そうなの!?全然知らなかった!」
「ちょ、かげ黙って」
「先輩、今年で卒業しちゃうから今しかチャンスないと思って…。私のことが好きじゃなくてもいいので、今年のクリスマスパーティーは私と行ってくれませんか!?」
「…ありがとう。すごい嬉しい。でも、」
「返事は今じゃなくてもいいので!考えてください!それじゃあまた!」
「え!?あ、ちょっと!?」

言いたいことだけ言ってその子は走り去ってしまった。
ホグワーツの階段は気まぐれに動くから、その子にはもう追いつけない。
呼び止めようとした大河の手が中途半端に伸びてて、バツが悪そうに頬をかいた。
え、今のなに?
聞こうと思ったのに、それより先に別の声が聞こえてきた。

「がちゃん、モテモテだな」
「何人目?」
「もう6人目」
「え、やば。なんで断ったの?あの子、スリザリンの中でも人気の子なのに」
「なんでって、…恋愛感情がないのにOKするのは良くないよ」
「大河くん、真面目だな」
「そこはちゃんとしたい」
「言いながら照れないでよ。顔真っ赤」
「それ言わなくていいから」
「新!頭に草ついてんぞ」
「え、ほんと?」
「珍しい組み合わせだね。温室帰り?」
「そう、新の薬草学の課題手伝ってた。もう終わったからこれから依頼こなすわ」
「昨日来てた分も俺らやるよ」

ニヤニヤしながらこっちを見てたのはローブに草つけた基と新とエマだった。
呪い感染事件の後、エマたちだけじゃなくて新も俺らとめちゃくちゃ仲良くなった。
新はあの事件が終わってから“Wildfire”に入ってくれて、どんどん依頼をこなしてる。
今日もやる気に満ちてるのか楽しそうにガッツポーズしてるし。
本を抱えたエマと目が合ったけど、ふいって逸らされてしまった。
まだ避けられてる…。

「大河、早く相手決めた方がいいよ?グリフィンドールのロッティももやもやしてた」
「そういうエマはどうなの?ルイースから熱烈アプローチ受けてるって俺は知ってるよ。あと、今日だって何人か声かけられてたじゃん」
「…私のことは別にいいでしょ」
「誰選ぶのかめっちゃ気になる。ルイースに決めちゃう?それともチャールズ?まさか横原か奏?」
「誰も選ばないよ。大河は?レイブンクローのクロエからはもう誘われたの?3回告白されたんでしょ?」
「それはもう断った、」
「もー、モテる自慢はやめてください」
「してないよ!」
「してるよ」
「がちゃんモテすぎ!ずるい!羨ましい!」
「モテてないよ」
「モテてるわ!!!」

ローブの中にセーターを着込むようになってきた11月。
課題にクディッチに“Wildfire”にって忙しくしてたらあっという間に12月になる。
12月はクリスマスパーティーがあって、皆ダンスの相手を探してる。
授業でダンスの練習も始まったし、ホグワーツ全体がソワソワしているのを肌で感じるんだ。
それは俺たちも例外じゃない。

「……」

じっと見つめたらまたエマと目が合った。
でもすぐに逸らされる。
逸らされたけど、頬がほんのり赤くて恥ずかしそうに本で隠された。
え、なに?
その表情の謎が解けないまま、話は進んでいく。

「ルイース、本気でエマのこと好きなのかな?」
「ないない。あの人、グリンゴッツ魔法銀行に就職希望なの。荻町家のコネでいけないかなって探ってるんだよ」
「えー、その気持ちで誘われてんの?辛くない?」
「そういうの慣れてるから大丈夫だよ。家目当てかどうかはなんとなくわかる」
「…もってぃ」
「え、俺!?俺は魔法省行きたいけどエマの家のこととか興味ないから!」
「うん、それはわかってる」
「じゃあ2人でダンスパーティー行ったらいいのに」
「行かないな…」
「行かないね…、基とはそういうのじゃないし、誘いたい相手いるでしょ?」
「なんで知って、っああ!カマかけたな!?」
「いや、知ってたから」
「なんで!?」
「レイブンクローのー、」
「わー!あー!言うなよ!!!」
「え、誰誰誰!?俺それ知らないんだけど!」
「知らなくていいよ!」

まただ。
また目が合って逸らされた。
でも目は合うんだ。
これはなにかのサイン?
それとも勘違い?
エマも俺と話したいことがあるって思っていいんだよな?
分かんないし確証はないけど、……とりあえず動いてみる!

「“Wildfire”の荻町エマに依頼します!!!」
「へ?」
「え、なに?」
「俺、魔法史の課題がピンチです!羊皮紙20pの課題が今0p!もう無理!助けてほしい!だから依頼します!」
「“Wildfire”内で依頼ってできるの?」
「今までは一回もないけど、でもやっちゃいけないってルールはないよね?」
「たしかに」
「頼む!助けて欲しい!」
「…分かった、いいよ。新、”Wildlife”の依頼、任せてもいい?昨日終わらなかったやつ」
「うん、いいよ。やっとく」
「ありがとう」
「じゃあ30分後!図書室で!」
「かげ強引だな…」
「かげどこ行くの!?」
「シャワー!」

良かった、断られなかった。
エマは驚いた顔したけど、嫌がらずに少しだけ笑ってくれた。



backnext
▽今夜、愛を噤むそのわけは▽TOP