017



「継承式?」
「そう。…うわ!汚っ!もー、つばっくんたちまだなの?」
「まだ温室の掃除中」
「くっそー、先生まで俺らのこと便利屋扱いして…」
「クリスマスパーティーの準備で忙しいんじゃない?」

冬の梟小屋は寒くて凍えそうで、杖を振って自分と横原の身体を温めた。
“Wildfire”は依頼したら何でもやってくれるって思われてるのか今日は先生方からの依頼がいっぱいだ。
俺と横原は梟小屋の掃除、ばっきーと新と奏は温室の掃除。
寒いし汚いし疲れるし、大変だから早く終わらせたいけど遠目でハグリッドがでっかいモミの木を運んでるのが見えてテンションが上がる。
クリスマスパーティーはもうすぐだ。
がちゃんはダンスの相手を決めたのかな?
こっちに興味津々な梟を避けながら氷柱を落とす横原に、改めてさっきの話の続きを促した。

「継承式って誕生日にやるんだね」
「正確には前日から。24日の夜に名家の当主とかマグルのお偉いさんとかが集まってパーティーして挨拶回りして、日付変わったら継承式やってエマが正式な荻町家当主になるんだよ」
「なるほどね。成人か」
「そう。12月25日でエマが17歳になって成人とみなされるから、継承ってこと」
「うわー、17歳で成人って慣れないわ。普通20歳でしょ?」
「もってぃからしたらそうかも。俺らはずっと17歳だけど」

魔法界では17歳で成人し、”におい”が消える。
“におい”とは未成年の魔法使いがどこで魔法を使ったのか分かるようなものだけど、成人したらそれも消える。
どこで魔法使ってもバレなくなるんだ。
…って言っても、エマは荻町家って特例があるから外で魔法を使っても魔法省からは何も言われないらしいけど。
“におい”のことはともかく、継承式でエマが正式な当主になるのは大きな転機だ。
俺も魔法省就職に向けて勉強したけど、”盾”の一族である荻町家は成人しないと当主は引き継げないらしい。
つまり、今はまだエマは正式な当主ではない。

「あいつの家、ずっと継承問題で揉めてんだよ。先代、あー、エマのお父さんな?お父さんが亡くなった時エマはまだ5歳だったから今は先代の弟である理人さんが当主代理を担ってるんだけど、理人さんはエマじゃなくて自分が正式に当主になりたいみたい」
「後継問題って、なんかドラマの世界だな」
「現実だよ。エマ反対派は一定数いるし、実は俺の親もエマ反対派」
「え?」
「”あんな小さい女の子が人を守れるはずない”ってさ」
「あー、そうなんだ」
「つっても、妹がこっそり教えてくれた情報だからどこまで本当かわかんねえけど」
「……横原は、エマと一緒に行くの?」

氷柱が落ちる。
雪の上に落ちて、鈍い音を立ててそこに深く突き刺さる。
横原の家はエマ反対派。
でも横原はエマと友達で、仲間で。
勘当された身であっても継承式に出席するのか。
時々、わからなくなる。
横原は家から離れたいように見えて離れられない。
それは、エマと一緒にいるためには横原の家と完全に決別するわけにはいかないからなんじゃないかって。
友達を守るためには、”横原家の長男”ってポジションを手放すわけにはいかないんじゃないかって。
その纏ってるマフラーの赤色のように、勇気と騎士道精神が溢れてるんじゃないかって。

「行くよ」
「……」
「横原家の長男として、必ず行く」

友達でも仲間でもなく、横原家の長男として。
それは周りからの圧力か、本人の意思か。
どちらにせよ、継承式はエマにとって大事な式だけど横原にとっても大事な式なのかなって思った。

「なんかあったら”Wildfire”呼んでよ。助けに行くから」
「あははは、まじ?じゃあもってぃの眼鏡でちゃんと俺らのこと見つけてよ」

複数の要人が集まる継承式はどこで行われるのか招待客にしか明かされない。
たとえ友達であっても俺たちは継承式の会場を知ることはできない。
誰1人知らないクリスマスの夜にもしも友達が傷ついていたら?
絶対に見つける。
絶対に駆けつける。
絶対に、守ってみせるよ。



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