018



「ツバキ、ミナトはどこ?」
「奏はパーティー来ないよ」
「ええー!?なんでよ!ミナト誘いたかったのに!」
「俺に言われても…」
「ヘイ!タクヤ!ユウキは?連れてきてって言ったわよね!?」
「ごめん、無理だ!横原は今日休みなんだよ」
「休み!?パーティーなのに!?信じられない!クリスマスなのよ!?」
「ごめんって!かわりに椿くんが!」
「え、俺!?」
「ツバキはいらない!ユウキがいいの!」
「ええ…、めっちゃ傷つくじゃん…」
「椿くん、なんかごめん」
「謝んないでよ、余計惨めだ」

大広間からグラスを3つ持って階段の踊り場まで戻ると、女生徒に囲まれた椿くんとかげがいた。
皆艶やかな色のドレスに身を包んで、精一杯おしゃれして、今日のクリスマスパーティーを楽しみにしてきたことがひしひしと伝わってくる。
誘いたかった本命の男はここにはいなかったみたいだけど。
『もういいわ!行きましょう!』ってぷりぷり不機嫌な女生徒がいなくなれば、大きく肩を落とした2人が。

「2人とも落ち込みすぎ。せっかくおしゃれしたんだからもっと堂々としてなよ」
「がちゃんには俺らの気持ちなんてわかんねえよ!」
「そうだそうだ!モテまくって何十人って女の子に誘われたのに全部断ったプレイボーイが!」
「モテすぎなんだよ!」
「羨ましいんだよ!」
「しかも平等に女の子全員に『今は好きな人がいないから、誰の誘いも受けない』って断るなんて!」
「なんてかっこいいやつなんだ!俺だってそんなかっこいいこと言いたかった!」
「俺だって女の子とパーティー行きたかった!」
「…あのさ、とりあえずここでその話するのやめない?皆見てるから」

クリスマスパーティーのメイン会場に向かうこの階段はいろんな人が通る。
皆着飾ってわくわくした顔してるのに、踊り場で俺らがマイナスなこと言ってたらよくないって。
くっそーって拳握り締めてる2人にグラスを渡してバルコニーに移動すると、雪がちらついててちょっと寒い。
クリスマスイブ。
12月24日、ホグワーツの大広間はハグリッドが運んだもみの木を中心に魔法の雪の結晶が降り注ぎ、シックなドレスローブを着た男子生徒と様々な色のドレスに身を包んだ女生徒で溢れてる。
バルコニーから見える真っ暗な禁じられた森の近くでなにか光った。
あー、きっとパーティーに行かなかった(行けなかった?)生徒が勝手に花火を上げてる。
左を見れば真っ暗な森、右を見れば眩しいパーティー会場。
なんて両極端な景色なんだ。

「…あ、もってぃいた」
「え!?どこ?」
「ほら、あそこ!彼女、緑のドレス着てる」
「結局、女の子誘ってパーティー行ったのって基だけ?」
「がちゃんも行けばよかったのに。もしかして、本気で俺らに気遣った?」
「いや、恋愛感情が湧く人がいなかった。気は遣ってないです」
「遣ってないんかい!」
「いいなー基。俺だって行きてえよ」

むーって顔で見つめる先には基が幸せそうに笑ってその子の手を引いてた。
年の一度のクリスマスパーティー。
好きな人を誘って好きな人と楽しい時間が過ごせる。
そうだよな、行きたいよな。
俺と椿くんはともかく、かげは特に行きたいはず。
かげが誰を誘ったのか分かってるし、なんでここにいないのかも分かってる。
本人も隠すつもりはないんだろう。

「エマ、今なにしてんだろうね」
「どうだろ、こっちみたいにダンス踊ってんのかな?」
「そもそも継承式ってどこでやってるんだっけ?エマの家?」
「横原に聞いたけど教えてくれなかった。偉い人が大勢集まるから場所は非公開なんだって。招待客にしか明かされないし、強固な結界で守られてるから外に出ることも難しいらしいよ」
「監獄みたい…」
「仕方ないんじゃない?魔法省からもマグルの首脳陣からも、相当偉い人がたくさん来るんだって」
「エマって俺らとは違うんだな」
「俺らと話してる時は普通の女の子なのにな」

かげの視線が動く。
禁じられた森のずっと奥、暗い空に浮かぶ月は満月で、半分は雲に隠れてる。
いつもと変わらない夜なのに、かげは眉間に皺寄せて睨みつけてた。

「ああー…、」

言葉になってない声と表情が『会いたい』って言ってる気がした。


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