025



生きてるのが奇跡だとは思わなかった。
手足が千切れることもなく、思考できないほど頭をやられたわけでもなく、ただ、静かにベッドに横たわってる。
これは結果だ。
叔父様が結界を張ってくれて、悠毅が一緒に戦ってくれて、奏と新が堪えてくれて、あの場にいた魔法使いたちが杖を握ってくれて、基たちが助けに来てくれた結果。
みんなの力で守ったんだ。
叔父様の結界が解けて私が結界を張った数秒、未成年だった私の”におい”を基が魔法道具の眼鏡で見てくれたことを本人から聞いた。
それと同時に魔法省も”におい”を検知して闇祓いが派遣されたことも聞いた。
“Wildfire”が学校を無断で抜け出したことを知った先生たちも荻町家で何が起こったのか察知して、色々と動いてくれたらしい。
たくさんの人の努力で、私は守られた。
助けに来てくれた経緯を説明してる基の目が赤くなってる。
彼はもう、悠毅や奏や新に会った時に少しだけ泣いたんだろう。
私と話しながらまた涙が滲んでるってことは、どうやら彼は私も心配してくれてたらしい。
それがどことなくこそばゆくて嬉しくてムズムズした。

「っエマ!!!」
「ちょ、拓也声が大きい」

バン!って勢いよく扉が開いたと思ったら影山が病室に飛び込んできた。
慌てた顔して、心配そうな顔して、泣いてないけど泣きそうな目して。
そして彼は今日も、私が1番欲しい言葉を言うの。
何よりも先に、伝えてくれるの。

「おじさん、無事だよ」
「っ、」
「あそこにいた人は誰も死んでない。エマが守ったんだ。全員!エマが守ったんだよ!」
「……、あははは、」
「エマ?」
「違うよ、私じゃない。みんなが守ってくれたの」

思わず笑ってしまって、基がびっくりした顔で私を見た。
そうだよね、普通は感動して泣くところなのかもしれない。
でも、笑いが止まらないの。
私が欲しい言葉も、私がなんとしてでも守りたかったものも、全部影山は分かってた。
分かってたから、私が生きてたことよりも私が守りたかったものを守れたことを影山は喜んでくれるの。
それが嬉しくて、でもなんで影山がそこまで私のことを知ってくれてるのかわからなくて、おかしくて、それで、笑っちゃうんだよ。

「影山」
「ん?」
「助けに来てくれてありがとう」
「っ、」
「影山は最強のヒーローだった!」

やっぱり分からないの。
影山はどんな魔法を使ったの?
私にどんな魔法をかけたの?
みんなを守れなかったかもしれない、友達を亡くしてしまったかもしれない、荻町家の人間として”盾”になれなかったかもしれない、叔父様を、家族を失ってしまったかもしれない。
そんな不安ばっかりで、怖くて、喉から迫り上がってくる息苦しさを堪えてたのに。
泣いちゃうかと思ったのに、影山を見ると泣かないんだよ。
涙なんて出てこないの。
涙なんて全部引っ込んで、笑っちゃうの。
影山と一緒なら、心の底から笑えるんだよ。


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