026



やばい!
取り逃した!

「基!指示!」
『基くんいない!』
「そうだった!くっそー!追いつけない!新こっち来れない!?」
『無理だよ!こっちも手一杯!助けてほしいくらい!…痛い!』
「新大丈夫か!?」
『大丈夫!もー!ピクシー嫌い!』

目の前5m先に目標、悪戯顔した青いピクシー妖精。
闇の魔術に対する防衛術の教室を掃除してた2年生がうっかり逃してしまったピクシー妖精は全部で28匹。
たまたま近くを通りかかった俺と新がピクシー妖精を捕まえようとしたわけだけど、悪戯好きのピクシー妖精はそう簡単には捕まってくれない。
教室に残った新と廊下を飛び出した俺。
いろんな生徒に悪戯を仕掛けて校内をしっちゃかめっちゃかにするピクシーを追いかけて階段を駆け上がった。
杖を振って魔法をかけるけどなかなか当たらない。
残り3匹はニヤニヤ笑いながら北塔の中を飛び回ってる。
箒に乗ったら絶対追いつけるのに、いつも連携プレーしてる椿くんと大河はクディッチの練習でいないし、眼鏡で指示を出してくれる基も今日はいない。
とにかく走って追いついて捕まえるしかない。

「こら!止まれ!止まれったら、」
「アレスト・モメンタム(動きよ、止まれ)」
「っ!?」

元気に飛び回ってたピクシー妖精がピタッと動きを止めた。
羽が動かなくなって飛べなくなったピクシー妖精を両腕で受け止めたのは、今日ここにいるはずないエマだった。

「エマ!帰ってくるの明日じゃなかったっけ?」
「そのつもりだったんだけど、新から『基くんいなくて”Wildfire”が回らないよ!』って連絡貰ったから一旦戻ってきた」
「あらたー!エマたちにはこっちのこと言うなって言ったのに!」
「うっかり言っちゃったのかもね。このピクシー、”Wildfire”の依頼?私もやるよ」
「あー、嬉しいけどエマは休んでてよ。明日までは学校もお休みだろ?」
「もう元気だし、今日は何もないから大丈夫だよ。それより、なんで基いないの?」
「クリスマスパーティーの埋め合わせ。俺らがデート邪魔しちゃったからさ」
「それは申し訳ない…。やっぱり依頼受けるよ」
「だめ。休んでて」
「依頼、多いんでしょ?」
「全然!」
「基がいなくて、ダブルたいががクディッチの練習でいないのに?新もまだ本調子じゃないのに?悠毅と奏は明日まで帰ってこないよ?」
「全然よゆー!エマたちがいなくても俺らで出来るから、」
「そんなに余裕なら私から依頼しちゃおっかな」
「え?」
「”Wildfire”の影山拓也に依頼します。今夜、……私と一緒にいてください」
「っ、」
「明日から本当の”荻町”になるから。だから今日は影山といたい」
「……」
「……だめかな?」

きゅってエマが唇を噛み締めた。
同時に腕に力が入って、固まってたピクシー妖精が『ぐえ、』って苦しそうに声を上げる。
でもごめん、ピクシー妖精たちよ、助けられない。
エマから目を逸らせない。
ゴクって喉が動いて、俺も唇を噛み締めた。
継承式に出席した全員が無事に聖マンゴ魔法疾患傷害病院を退院したのが今日。
明日、改めて継承式が行われることになったのは俺も知ってる。
だから戻ってくるのは明日だと思ってたのにエマは1日早く戻ってきた。
荻町家の当主になる前に俺に会いに来てくれた。
その理由は知らないけど、知らなくていいと思ってる。
今日のエマも明日のエマも、俺にとっては同じで、違いなんてない。
でもエマにとっては違うから。
その境界で俺といたいと思ってくれるなら、いつまででも一緒にいる。

「その依頼!受けます!」



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