004



「またフラれたの?これで何回目?」
「活動日誌に書いてあるけど確認しようか?」
「いいよ、悲しくなるからやめよ」
「それよりケイミーに連絡した?」
「さっき梟飛ばした」
「サンキュー基」

ここ、北塔にある天文学の倉庫からケイミーがいるハッフルパフ寮までそこまで距離はない。
『あなたの猫ちゃん、無事に見つかりましたよ』って連絡を受けたケイミーはおそらくすぐに駆け込んでくるだろう。
あと少しでご主人様に会えるぞって拓也が猫ちゃんの背を撫でてるのを横目に、途中まで書いてた羊皮紙にペンを走らせる。

「えっとー、今回の依頼『猫探し』に参加したのは、グリフィンドール影山拓也、ハッフルパフ椿泰我、レイブンクロー鈴木大河、基俊介」
「荻町の名前も書いといたら?」
「だめでしょ。俺らの活動日誌なんだから」
「未来のメンバーだからいいんじゃね?」
「おい、フライングが過ぎるぞ。でも登場人物として書いておこうか。グリフィンドール荻町エマ、横原悠毅、ハッフルパフ松井奏」
「あーあー、3人とも“Wildfire”に入ってくんねえかなー。なー?猫ちゃんもそう思うよなー?」
「入んないでしょ。特に荻町」

あ、羊皮紙にインク飛んじゃった。
まあいいか。
荻町エマは俺らの学年の中でかなり異質な存在だ。
そして“Wildfire”とは似て非なる存在。

「俺ら全員マグル出身だからあんまり分かんないけど、荻町家の“盾”ってすごいんでしょ?助けを求めてる人をなにを犠牲にしてでも守るっていう異質な一族」
「噂じゃ、例のあの人が勢力を持ってた時に魔法省大臣を守ってたとか」
「魔法界だけじゃない。マグルの首脳陣も守ってたって話だよ」
「横原だって荻町と同じくらいすごい名家なんでしょ?」
「サラザール・スリザリンに仕えてた従者一族の跡取り息子ね」
「横原の家のことは気にしなくていいよ。あいつ、グリフィンドールに組み分けされた時に家出てるから」
「それでも“横原”って家の力は強い」
「さすが基!魔法省に就職するやつは魔法界の力関係に詳しいな!」

まだ就職決まってないし勉強中だし。
そう言ってやりたいけど拓也はこの話には興味ないのか猫ちゃんに構ってばかり。
これ以上話聞く気なしって態度に諦めて活動日誌に視線を戻す。
依頼、相談、なんでもOK、困ってる人を誰でも助けます!
なんてコンセプトで拓也がリーダーを務める“Wildfire”は、先生方や監督生の協力を得て成り立ってる、所謂クラブ活動だ。
活動日誌は必須だし、時々校内にも掲載させてもらえるし、これを見て俺らを支持してくれる生徒もいる。
早く認められてこんな倉庫じゃなくてちゃんとした部屋が欲しいよ。
マグルの世界から持ち込んだ道具で溢れてるこの部屋は、俺ら“Wildfire”の秘密基地のようになっている。
ちなみに、活動日誌は俺しか書く人がいない。
拓也が書いたことあるけど、文章がめちゃめちゃでマクゴナガル先生から俺ら全員が減点をくらった。

「俺は同じだと思うんだよね」
「なにが?」
「俺らとエマ。目的は一緒だよ。『助けて』って声に応えたい。誰ひとり取りこぼすことなく守りたい」
「……」
「エマと奏と横原が入ってくれたら、ここはもっといいところになると思うんだけどな」

単純であり、シンプル。
いい意味でなにも考えず芯だけを見る拓也が好きだけど、その思いが暴走しないようにするのが俺らメンバーでもあると思ってるから。
拓也の真っ直ぐな目に応えたいし、力になりたいって俺らは思ってるよ。
俺らは拓也に助けられてここへ来た。
そして拓也は、幼い自分を助けてくれたヒーローみたいになりたくてここを作ったんだ。



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