005



しくじるな。
しくじったら終わりだ。
お前も、お前の親も、お前の兄妹も、全部終わりだ。
わかってんのか佐藤新。
わかってんならさっさとやれ。

「新?」
「っ!?」
「なにしてんの?」
「え、あ、いや、……奏くんこそここでなにを?」
「梟便出そうと思って」
「こんな夜遅くに?消灯時間ギリギリだよ?」
「そうなんだけどさ、エマが手紙出すの忘れてて。今日中に出さないとだめなんだよね。さすがに女の子1人出歩いていい時間じゃないから俺がかわりに」
「そう、なんだ…」
「新は?誰かに手紙出すの?それともこんな時間に手紙来たの?」
「っ、……何もないよ、おやすみ」
「新?」

しくじったか?
いや、まだ大丈夫だ。
奏くんには気づかれてない。
こんな真っ暗な夜に、俺が誰から手紙をもらったのか気づくわけない。
くしゃくしゃにしてポケットに突っ込んだ羊皮紙も、中に書かれてた俺への指示も、わかるはずない。
大丈夫、まだやれる、まだ、俺はできる。
振り返って奏くんが見てたら次は誤魔化せないと思って、一度も振り返ることもなく梟小屋を後にした。



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