008



「横原の3分クッキング〜!イェーイ!」
「イェーイ!」
「まず、沸騰した大鍋に杖を入れて熱湯消毒します。消毒が終わったらデミガイズの毛で作った布で包み込みます。最後に、人魚の涙で杖先を濡らし、その状態で呪文を唱えます。そうするとあら不思議!呪文を使った痕跡が残らなくなりまーす!」
「なにこれ?」
「今回使われた呪いの作り方」
「正確には、呪いの痕跡を残さない方法」
「なんで横原が知ってんの!?」
「横原すげー!」
「ちょっと諸々整理しようか」
「ダブルタイガ、座ったら?」
「どうも」

俺とがちゃんがクディッチの練習してる間にいろんなことが起こりすぎてる。
校内で生徒が呪いにかけられたって噂は一気に広まって、ありもしない噂の尾ひれがついてる。
やれ例のあの人の差し金だ、やれ嫉妬に狂った女生徒の呪いだ、やれ寮の争いだ。
全部嘘だと思うけど、嘘だって断定できるほどの確証は俺らも先生方も掴んでいない。
呪いをかけられた生徒と襲われた生徒は医務室で先生監視のもと静養していて、戦ったかげと荻町は治療も早々にここ、北塔にある”Wildfire”の部屋に戻ってきた。
4人では十分すぎる広さだったけど、荻町、奏、横原の3人も加わればそれなりに狭いな。
古い黒板の前に立った基は杖を振って文字を書きつつ、状況を整理してくれる。

「呪いをかけられたのはハッフルパフの2年生アイリス。襲われたのはレイブンクロー6年生のピピン。2人とも今は医務室にいて今のところ命に別状はない。意識は取り戻したけど、2人とも呪いについては一切なにも覚えていなかった」
「アイリス、『なんかわかんないけどおでこが痛い』って唸っててかわいそうだったな」
「え、俺そんな石頭だった?」
「え、頭突きしたの?」
「うん」
「そりゃかわいそうに…」
「他に分かってることは?」
「アイリスにかけられていた呪いは先生方が解析中。まだなにも分かっていない。事件が起きた時に近くにいた生徒の杖を調べたけど、呪いをかけた痕跡は見つからなかった」
「杖に痕跡を残さずに魔法を使うなんて普通は不可能だけど、悠毅がさっき説明した方法なら痕跡を消せる」
「アイリスの自作自演って可能性は?」
「それはないよ。アイリスは俺も知ってるけど人に呪いをかけられるような子じゃない。それに、レイブンクローのピピンと接点があったとは思えない」
「ばっきーの言う通り2人に面識はなかった。名前を知らない人を急に襲ったりしないでしょ」
「じゃあ外部犯ってこと?」
「ホグワーツのセキュリティレベルは最高峰だよ?外から侵入したとは考えにくい。ってことは…」
「ホグワーツの中に犯人がいる」

かげのキリっとした眉が険しく眉間に寄ってる。
これは単なる事故じゃない、事件だ。
誰かがアイリスに呪いをかけて、ピピンを殺そうとした?
それとも誰でもよかった?
ただ一つ分かってるのは、誰かの悪意が誰かを苦しめてる。
大変な事態に緊迫した空気が流れてる中、荻町は大きく深呼吸して立ち上がった。

「影山」
「ん?」
「この事件、なんとしてでも解決したい。だから私と手を組まない?」
「エマ!?」
「“Wildfire”に入るってこと?」
「この事件が解決するまでは。なんとなく犯人像の目星はついてるけど私だけじゃ追いきれない。影山だけじゃなくて皆の力も借りたい」
「これはびっくりしたな。荻町が俺らに頼ってくれるなんて」
「“Wildfire”のこと、レベル低いクラブ活動だと思ってるのかと…」
「そんなこと思ってないよ。基も椿も大河も、優秀な人だってことは理解してる。だから頼みたいの。お願い」
「どうすんの?リーダー?」
「…エマも気づいてるよな?」
「うん。……あの時私が聞いた『助けて』って声はアイリスでもピピンでもない。誰か分からない。まだ苦しんでる人がいる。だから守らなきゃ」

強い意志と意思がぶつかる。
大きな窓から入ってくる光が荻町に当たって、その真っ直ぐな目が強い光を放ってるような気がした。
かげはその光にずっと前から気付いてたのかもしれない。
『守りたい』『助けたい』
叶えたいことは同じで、心に熱い炎を持ってる。
それが、やっと重なる。

「“Wildfire”の世界へようこそ!」



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