◎02
 休日家でごろごろとしていたら母親から「買い物に行ってこい」と追い出された。しかも頼まれた量はなかなか多く、インドア体力なし人間である私にはだいぶいやかなりしんどかったが、母に逆らうことはできず私は大人しくスーパーを目指した。
 公園の横を通ると目の前にサッカーボールが転がってきて、ついでにその後から「すみませーん取ってくださーい」という男の子の声も聞こえた。サッカーボールを見ると否応なしに円堂や風丸の顔が浮かぶ。そういえば、地区大会を順調に勝ち進んでいると聞いた。サッカーボールを拾い上げ公園の方を見ると小学校低学年くらいの男の子数人がこちらに手を振っていた。
「お姉さーん、こっちこっちー!」
「あ、うん、ちょっと待ってね」
 例えばここでひと蹴りして向こうに届けられたら格好いいんだろうけど、生憎私は運動も苦手でサッカーボールをろくに蹴ったこともない。小さい頃守に付き合わされたことはあるがあまりにも下手すぎてあの守にすら「どうした⁉︎」と心配された記憶が不意に蘇ってきた。残念ながら私の技術はあの頃から変わっていないので、私は小走りで男の子たちの元へ行きサッカーボールを返した。
「お姉さんありがと!」
「おーい早く続きやろうぜ!」
「うん!」
 私からボールを受け取るや否や少年は輪の中に戻り、そのまま仲間とボールを追いかけていった。後ろ姿がなんとなく幼馴染らと被る。
「……あ、買い物」
 少しぼんやりとしてしまったが今の私に託された用事を思い出し、いそいで公園を後にした。

 スーパーで買い物を済ませ、家に帰る途中の河川敷で見知った姿を見つけた。少し遠いけれど河川敷のサッカー場にいるのはどこからどう見ても守と風丸で、その周りに同じジャージを着た人たちが数人いたので雷門中サッカー部だとすぐ分かった。声をかけようかと思ったがおつかいの途中だったのでそのまま通り過ぎようとして、サッカー場の方から「あ!」と声が聞こえた。
「なまえじゃないか!」
「……守」
 私を見つけた守がこちらに向かって来た。お前今練習中だろと思ったが、肩から鞄をかけていたのでああ、ちょうど練習が終わったのかと察することができた。後ろからは風丸も来ていて、私は「お疲れ」と声をかけた。
「何してんだ? 買い物?」
「そう。二人とも練習? 休みの日まで大変だね」
「地区大会の決勝戦が近いからな!」
 決勝戦、そうか決勝戦か。去年まで弱小だなんだと揶揄されていた雷門中サッカー部がそこまできているとなると、完全に部外者ではあるけれどずっと話を聞いていた身としては感慨深いものがある。
「うちのクラスのサッカー部もそういえば雷門中の話してたよ。みんな応援してるってさ」
「! 本当か、ありがとうな!」
「いや、はは、私に言われても……痛い痛い叩くな、背中を」
 バシバシと音が鳴るほど叩かれる。守って多分私を女子だと認識していない気がする。いや認識されたり変に意識される方が困るんだけど、せめて力加減くらいはしろよと思う。一言物申してやろうと口を開いたところで、すぐ風丸が「円堂、叩くな叩くな」と制止してくれた。
「みょうじ、荷物重いだろ。家まで持つよ」
「えっいいの? 助かる」
「円堂はこの後響木監督と話があるって言ってただろ。早く行かないと怒られるぞ」
「そうだった! 風丸サンキューな、じゃあななまえ!」
 そのまま守はまた河川敷の方まで戻っていった。嵐みたいなやつだなと若干の疲労を感じていると、風丸が「荷物、貸せよ」と私の手から買い物袋を攫っていく。こういうところもだしさっきの守に対しても、風丸は昔から私たち幼馴染の三人のなかでいちばん大人だった。今みたいに気遣いもできるし優しい。小学校の頃、風丸くんとどういう関係なの⁉︎ とクラスの女子に詰められたことも一度や二度ではない。あまりにも詰められすぎるので一度だけ風丸と距離を置こうと敢えて避けていた時期があるのだが、「オレ、何かしたか……?」と泣きそうな顔(というかほとんど泣いていたかも)で言われてしまい、それ以降は昔と変わらず連んでいる。
 そんな風丸だからいつかストレスが爆発しないといいなと思いつつ、その優しさや気遣いに甘えてしまう自分がいる。女子に詰められたとかそういうわけではなく、いい加減中学二年生なんだし幼馴染というか風丸離れしないといけないなと常々感じている。
「そういえばさっきから他の部員たちの視線が刺さるんだけど」
「ははは……みんな好奇心旺盛だから……あとで説明しとくよ」
 それより早く行くぞ、と風丸が歩き出したので、私も着いていく。「ありがとね、風丸」と言うと風丸は「気にするな」と言ってくれる。左側に立っていたので、風丸のそのときの表情を見ることはできなかった。

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