月とラクダの夢を見た
彼女は一人、よく行く河原の土手に小さめのシートを敷いてギターを弾いていた。この後、弟たちと合わせ練習もあるので練習曲を中心にじっくりと。
「……?」
薄く目を閉じて弦を弾いていた彼女は、ふと歌声が聞こえた気がして目を開き、聞こえた方へ視線を向けるがまだ遠いのか人影が見えない。
(こんな音……だったかな……。)
そんなことを思いながら、聞こえた歌声の旋律を思い出し、それに近い音を探して弦を弾く。するとまた歌声が聞こえ、それは徐々に近付いてきた。再び手を止め、再度顔を上げる。シャツにジャンパーとラフな格好をした高校生くらいの青年が、歌いながらやって来るのが見えた。
その歌声に目を細め、聞いていた彼女は思わず声をかけていた。
「い〜い声ねえ〜。」
「んぁ?」
「あ、ごめん。よく通る良い声だったからつい。」
少し恥ずかしそうに笑いながらそう言う彼女の隣に、その青年はそのままどさっと腰を下ろしてきた。
「姉ちゃんは、何してんだ?」
「私?私は練習、この後音合わせするから。」
「へ〜、ギター弾いてんだ。」
「そう、あなた歌好きなの?」
人懐っこい様子の彼に、彼女もすぐに打ち解けて、会話も弾んだ。彼もバンドに所属しているらしく、ボーカルとして頑張っているらしい。
「あなたの声、本当に素敵だから合ってると思う。」
「マジか〜、何か知らん人に言われると照れるな。」
「ふふふ、でも喉はだいじにね〜。」
そう言いながら、弦を弾いていた手を止め、手首の腕時計に目をやる。
「あ、行けない。そろそろ行かないと弟にどやされちゃうわね……ごめんなさい、引き止めちゃって。」
「俺こそ話し込んじゃったしな〜。」
「……私またここに練習しに来るから、会えたらまたお話しましょ?」
「おう!」
またなーと言いながら手を振って去っていく彼を見送り、彼女もギターをケースにしまい、それを背負って約束した場所へと向かう。
「祠堂、かなたちゃん、お待たせ!ごめん、ちょっと遅れた。」
「遅れたって言っても時間の5分前だしへーきだよ姉貴。」
「……いつもの、土手で、練習、です?」
「そうそう、良い子にあったからつい話し込んじゃって。」
「……姉貴らしいけどさ、始めようぜ。」
「はいはい。」
約束した二人と合流した彼女は…鴨川氷空は背負ったギターを降ろす。
「それじゃあ始めよっか。」
「はい。」
「あぁ。」
パーカーの下に着たシャツの背中には、蝶の翅のモチーフと「Limbo」の文字。
「お蝶がいつ帰ってきてもいいように、万全にしておかないとね。」
……青年と彼女、お互いの素性を知るのはもう少しあとの話……。
end?
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作成:17/10/5
移動:20/8.31