Miracle Moon

あの人に出会ってしまったのは、ある日友人に誘われて出向いたよく知らないバンドのライブ会場でだった。突然の乱入者、周りの観客の口からヒソヒソとラファエルと言う名が漏れ飛び交う。
そして私は、彼の音に一気に心を奪われた。肌を切り裂くような、強烈で攻撃的な音。私は自分でも気づかないうちに泣いていた。
―ああ、私の音はあんなに感情を乗せて響かせられているだろうか。
彼を知りたいと、そう思った。



その頃、すでにLimboを結成していた氷空と祠堂は家を出て、ファーレやかなた達と共同生活をしていた。
そんなある日、義姉の栞那から義父がいない日に家で会えないかという連絡が来ていた。鴨川家は子連れ同士の再婚であったが、子供たち同士仲良くやっていた。
が、義姉の栞那はなぜか大学に入った頃から実の親である義父とあまり仲が芳しくなかった。そのため、何かあると必ず義父抜きでと言い、母や自分たち妹や弟にしか相談をしないようになっていた。
何かと思いつつも了承の返事をし、祠堂にもそれを伝え、二人共オフの日で義父がいない日を確認して実家へと帰った。

「お帰り、二人共。」

リビングには既に母と#かんや#が来ていて、コーヒーを二人で啜っていた。

「お姉ちゃん、話って何?」

同じようにコーヒーを出され、一口飲んだところで氷空が切り出す。
すると、栞那は氷空や祠堂が今まで見たことのないようなとてもいい笑顔で、とんでもない事を口にした。

「あのね、学校辞めたの!」
「「は??」」

思わず妹弟の声がハモる。
母はもう聞かされていたのか、苦笑しながらこれを聞いていた。

「やりたいこと、見つけたの!それをするには学校も楽団も足枷にしかならないから、辞めたし声かけて貰ってたのも全部断ったの。家も出るつもり。」

あまりにも生き生きとした栞那の言葉に二人はぽかんとするばかりだ。

「やりたいことって何?」

ようやく祠堂が口を開く。

「……ラファエルって知ってる?」
「……四響の?」
「そう!あの人の音、初めて聴いた時もっと見たいって思った。もっと聴きたいって、そうすれば私に足りないもの分かるかもって。あの人を追いかけたい、だから全部捨ててでも、あの人の音を全部聴きたい。」

呆然とした妹弟をよそに、彼女は続ける。

「やりたい事が追っかけか?って言われるとまぁ、ぐうの音も出ないんだけど……でもそれくらい、あの人の音が好きなの。一気に心を持って行かれた、私の音はあんなに感情を乗せられているのかなって……言われるままにヴァイオリン続けてきてたし……いや、ヴァイオリン好きだけども……あの人を見たら、私なんてまだまだだって思い知ったの。」

次第に目は真剣味を帯び、言葉にも熱が篭もる。

「勝手なの分かってる、でもどうしてもあの人を追いかけたいの。」
「……栞那さんの好きにしていいと思うわ。」

今まで黙って聞いていた母が口を開いた。

「お義母さん。」
「今まであの人に言われるままに生きてきた、栞那さんが本気でやりたいと思ったなら、好きにしていいと思うわ。……だって栞那さんの人生なんだもの、あの人には私から言っておくから。」

そして。

「……まあ、本気ならいいんじゃない?お姉ちゃんの自由なんだし。」
「……たまには顔出してくれよな、姉さん。」

氷空も祠堂も、呆れつつも義姉が初めて得た生き甲斐を尊重することにした。

「……ありがと……えへへ……まさかいいよって言ってもらえると思ってなかったからなんか泣きそー。」

そう言いながら栞那は目元を拭う。その目にはもう涙が光っていたが、三人はそれを見守るに留めた。


栞那はその話をした日にすぐに家を出ていった。母と義父との間では何かあったようだが、母がなんとか説き伏せたようだった。
それから暫くして、栞那は一部界隈で「有名な」ラファエルのフォロワーとして認知されていくのだが、それはまた別のお話……。

end?
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作成:17/11/30
移動:20/8/31

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