星より遠い
かなたが二人と出会ったのは、父が実家の事業を継ぐためにアメリカへ家族で移住し、引っ越しのバタバタも落ち着いた頃、母に連れられて出かけた近所の公園でだった。母はその公園に来ていた他の保護者達と早々に打ち解け、雑談に花を咲かせていたが、父との生活で日常会話程度の英語の理解はあれど、生来の大人しく引っ込み思案な性格故に、かなたはなかなか子どもたちの輪に入れず、ヤギのぬいぐるみをぎゅうと抱いて隅っこの方で立ち尽くしていた。
そんなときだった。
「ねぇ、」
不意に、母ではない誰かに日本語で話し掛けられた。驚いて振り向くと、お互いそっくりな見た目の同い年くらいの子どもが二人、かなたを見ている。
「えっと……なぁ、に?」
まさか日本語で話しかけられると思っていなかったかなたは、オドオドしながらも二人を交互に見て首を傾げる。そんなかなたをよそに、二人は少し安心したような顔をして、再び口を開いた。
「良かった、日本語通じる。」
「俺達、まだ英語よくわかんねぇから……。」
二人は結と晶と名乗り、かなたと同じく親の都合で渡米してきたという。かなたと違い、まだ英語に慣れていないためになかなか知り合いを作れずにいるとも。
「……友達になってくれる?」
結の申し出に、かなたは何度も頷いた。かなたは、自分が積極的に友達を作れるタイプではない事を理解していたので、そう言って声を掛けてくれた二人に感謝した。
それから、かなたは二人の家と自分の家を交互に行ったり来たりするようになった。
父親が外交官であるという二人の家は自分の家よりずっと広く、お屋敷のような家であったが、家にはたまに会う程度の彼らの母親と、数人のお手伝いさんしかいない、どこか薄暗く感じる家だった。そのせいか、彼らの家に行くと専ら広い庭の方で遊ぶのが常だった。家の中に入っても、二人の部屋でしか遊ぶことはなかった。
逆に、かなたの家に二人が来る時は屋内外問わず一緒に遊んでいた。かつてドラマーだった父の影響で、小さい頃からドラムを叩いていたかなたの練習を二人が眺めている事も多かった。
そんなわけで、三人は殆ど常に一緒に過ごしていた。
二人が英語に慣れてきても、かなたが多少社交的になってきても、それは変わらなかった。
変わらない、はずだった。
「かなたちゃん、」
「んー……?ん、ん……?」
「かなたー、こっちも。」
「んー……、」
いつからこうなったのかは、かなたは覚えていない。気付いた頃には、彼らの家に行って彼らの部屋で遊ぶ時は、二人に挟まれた格好で座り、どちらからか口づけを求められ、それに応えればもう片方にも口づけされる、というのが確立していた。
本当にただ唇を触れ合わせる程度の口づけで、その頃にはアメリカでの生活にも慣れていたかなたは、それを親愛の形として受け取り、特に抵抗もなかった。
のだが、それは徐々にエスカレートしていった。人がそばにいる時にも不意を付くように口づけをしたり、ただ触れ合うだけだったものが次第に舌を差し込んだ深いものになっていった。それに比例するように、彼らのかなたへの執着も増して行った。
学校で他の生徒に話しかけられるだけで、二人のどちらかに手を引っ張られて引き離されることはしょっちゅうで、それに苦言を呈すると自分たちが嫌いなのかと逆に問い詰められ、結局かなたが折れる……というのが常だった。
そんなある時。
他の生徒に声をかけられたかなたは、いつものように二人に引き離された。が、その時声をかけてきた生徒はその二人とあまり仲の良くない生徒だったため、二人に食って掛かった。
「なんだ、お前ら、そいつと付き合ってんのか?」
「え?それは……。」
その言葉に驚いたかなたは口を開くも、その瞬間に両脇にいた結と晶に交互に、それも深々と口づけを交わした。
「かなたちゃんとはこういう関係だから。」
「口出すなよ、お前。」
二人の声を遠くに聞きながら、今更ながらかなたは二人の自分に対する執着に恐怖を覚えた。
それから一週間、学校を休んだかなたの家を訪ねた二人は、彼女が日本の母方の実家へ帰ったことを知った。
その後、二人はかなたの行方をそれとなく探っていたものの、結局その足取りを掴むことはできなかった。
「……結局、かなたちゃん見つからないね。」
「ドラム続けてるんならそういうとこ探せば会える気が住んだけどな……。」
それから数年、日本での再デビューを果たした二人は同じ業界にかなたがいるのではと思い、仕事の合間に探していたものの、未だにその姿を見つけることはできなかった。そんな中で偶然目にした、Limboのライブ映像に二人は釘付けになった。
わかる、姿はきぐるみに隠れているけれど、小さな頃によく見た彼女のドラムさばきと変わらない。
「ドミミ……ね、」
「名前も見た目も違うならわかるわけ無いか……。」
そういう二人の口元には僅かに笑みが浮かんでいた。
二人がドミミ……もとい、かなたに対面するのはそれからすぐである。
END
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作成:18/2/26
移動:20/8/31