愛は元気です
私の生まれた意味ってなんだろう。
唯都はたまに、そんな事をわけもなく考える。元々世間的には望まれない子だった。それでも母は自分を愛して育ててくれた。幼馴染の二人も、大事な友達だからと自分を気にかけてくれた。
だから、その三人の為になれる人間になりたかった。
だけど……。
「唯都ちゃん?そういえばさっき商店街の方に行ったよ。」
優奈にそう言われた翼は、ありがとうと言ってそのまま商店街へ向かう。いつもなら練習が終わるまで待っている唯都が、今日は居らず不思議に思って優奈に尋ねたのだ。
唯都は並の男より高い身長ながら、その気配を隠すのはとてもうまい。大和や優奈を見守るために二人の輪を壊さないためにそういうスキルを身に着けたのだろうが、翼は唯都を見つけるのがうまかった。
だからまずは気配を消していないかを確認したのだがやはりいない。優奈に言われた通りを進むと、視界に以前見習いを連れて入ったパンケーキの店が入ってきた。
ああ、この辺りかと思った瞬間、足を止めた。店の前の街路樹の傍らに、唯都がぼんやりと立っていた。その目は店の方を見ているが、入るのを迷っているのかもじもじと手を動かしている。
当然ながら、気配を消しているらしく周囲の人間は気づいていないようだった。
「……唯都ちゃん。」
「……!!」
声をかけると、驚いたような顔で唯都は翼の方へ視線を向け、そしてすぐに恥ずかしそうに頬を染めて視線を足元に落としてしまう。
「……おいで。」
そう言うと、翼は唯都の手を取り再び顔を上げた彼女がなにか言う前に店の中へと入った。
「あの……、」
「何食べる?」
「あ、えっと……いちご、の……。」
「わかった。」
唯都が何かを言う前に、翼は注文を済ませる。
「なんで一人できたの?」
「え、うん……この間誰かと来てたみたい、だったから……声を、かけ、づらくて……。」
やっぱり見ていたかと思いつつ、うつむいておどおどしている唯都の頭を軽くぽんと撫でる。
「今日なんの日が知ってる?」
「………翼くんの……誕生日、だよ、ね……?」
「そ、だから練習終わったら唯都ちゃん誘おうと思ってたんだよね。」
「……ごめん……、」
「謝らないでいいよ、食べたら少し一緒に歩こうか?」
「……いいの?」
「だめなの?」
翼の問いかけに、唯都はぶんぶんと首を振る。そんな様子を見ながら、翼は笑うとじゃあ決まりねと言って唯都の頬を軽く撫でた。
私の生まれた意味ってなんだろう。
今もたまに思う事はある。
以前は母や、大和たちの為になれる人間になりたかった。そうすれば自分はきっと、生まれた意味があったのだと思えると思っていた。
だけれども最近は、翼のそばにいることばかり考えている自分がいる。それを嫌とは思わないし、彼は自分をそばにおいてくれる。
ただたまに、自分なんかが彼の隣にいるのはいいのかと思うことがあるのだ。
「翼くん。」
「ん?」
パンケーキを食べ、店を出た二人は軽く手をつなぎ、商店街を歩いていた。
「あの……、」
「うん。」
次の言葉を待つ彼を見下ろしながら、唯都は小さく呟く。
「私、は……翼くんの隣にいて、いい……のかな……。」
「いいんだよ。」
即答されるとは思わず、唯都は目を丸くする。
「嫌だって言っても唯都ちゃんの事離さないから、覚悟しといてね。」
そう言うと、翼は行こうと言って再び手を引いて歩き出す。頬を染め、俯きながら唯都は隣を歩き続けた。
「あ、」
「ん?」
「……えっと、ちゃんと、言ってなかった、から……。」
「え、」
「……お誕生日、おめでとう。」
「……はは、ありがと。」
end
――――
作成:18/3/16
移動:20/9/1