緊急事態の呼び出しには気を付けろ




「おい神月〜俺のグラス見ての通りガラ空きなんだけどォ〜さっさと酒注げよな使えねェ」

頬がほんのり赤く、焦点の合わない目をしながらソファの後ろにある造花に話しかける沖田。ありゃもうだめだ。
とっつぁんから緊急事態だと電話があり指示された場所へやって来ると、そこにはお気に入りの女の子にデレデレしている警察庁長官と真選組局長の姿があった。沖田はこんな状態だし、全く何故私は此処に呼ばれたんだ…。
私はスナックすまいるに来ていた。世間で今日は所謂花金らしく店内は非常に賑わい、ボックス席はどこも埋まっていて従業員の女の子達やボーイはとても忙しそうにテーブルを回っていた。とりあえず必要であるかは疑問だが、きちんと来た事を伝えようと、とっつぁんの居るテーブルに向かう。

「とっつぁん、お取り込み中失礼します。神月です」
「よォ〜瑠璃音チャン〜!来てくれたんだ〜」
「そりゃ緊急事態と言われれば駆けつけますよ。  一応聞きますが、どうされましたか」
「俺よォ、最近瑠璃音チャンの顔見れてなかっただろォ?だから寂しくってよォ」
「何も無くて良かったです。帰りますね」
「ええぇぇ〜!瑠璃音チャン反抗期なのかァ!?!?!?」

電話口から女性の声が聞こえてきて嫌な予感はしていたがやっぱり無駄足だった。せっかく撮り溜めしていたドラマの再放送見ていたのに…。もうだいぶ遅い時間だし、見るの明日にしようかな、夜更かしすると朝起きるのつらいし。

「神月か?」
「あれ、土方さんもいらしてたんですか」
「お前何でこんな所いんだよ」
「とっつぁんから呼び出しがあって。でも何も無かったのでもう帰ります」
「あぁ?」
「え…なんですか」
「テメェ、一人で出歩くなっつっただろうが」

背後から声を掛けられ振り返ると、厠から戻ってきたのか紺色のハンカチで手を拭いている土方さんが立っていた。
そうだった…。あれから結構経ったし、一人で外出禁止なんて約束すっかり忘れていた。実は今日だけじゃなく一人で定食屋に行ってランチを楽しんだりしていたのだが…そんな事に気付いてない土方さんも土方さんだが、わざわざそれを言った所で私の死亡フラグが立つのは確定なので黙っておこう。

「あれから随分経ちますし、もう大丈夫ですよ」
「勝手に決めてんじゃねェよ」
「それに、もし仮に何かあったとしても土方さんに逐一連絡するって言ったじゃないですか」
「まァな…」
「また土方さんの為にマヨ買ってきます!」

満面の笑みで言うと土方さんは目を一瞬見開いて、しょうがねーなァ…と視線を少し逸らして了承してくれた。

「では私は一足先に屯所戻ります。  皆さん明日非番じゃないんですから、あまり飲み過ぎないよう気を付けて下さいね」
「待て」
「はい?」
「お前今何時だと思ってるんだ?  一人で出歩いて良いのは日暮れまでだ」

ぴしゃりとそう言われてしまい、子どもじゃないのに…と言いそうになったがここは大人しく、はいと返事をした。どうやら屯所まで一緒に帰ってくれるらしい。土方さんはとっつぁんと近藤さんに先に屯所へ戻ると一声掛けてくる、と言ってその場を離れた。そうだ。沖田のやつ珍しく酔っ払っていたし、彼も回収した方が良いのではないかと思い沖田のいるテーブルへと向かった。

「ねぇちょっと」

綺麗なソファに靴を履いたまま横になって丸まっている沖田に声を掛ける。だがまったく起きる気配がない。はぁ、と息を吐くと隣に座り肩を揺すってなんとか目を覚まさせようと試みる。しかしスヤスヤと気持ちよさそうに眠る沖田は普段の憎たらしさを忘れてしまう程美青年だった。黙ってれば文句なしのイケメンなんだけどな…とサラサラな艶のある栗色の髪を触りたくなる衝動に駆られる。起きる気配もないし少し頭を撫でるくらい大丈夫だよね。そっと髪に手を伸ばしたその時、大きなクリクリとした目が見開かれた。驚きのあまり、起きたァ!と思わず言ってしまった。

「何でィ、ダジャレかそれ」
「へ?…起きた…沖田…。  あ、沖田が起きた…」
「つまんねェな」
「なッ!  別にダジャレのつもりで言ったんじゃないもん!!」
「どうでも良いけどよ、寝込み襲うんじゃねェよ。  欲求不満か?」
「おおおお、襲ってないし!変な言い方やめてよ!」

ダジャレを言ったつもりはないし、それにこいつは一体いつから起きてたのだろうか。しかもつい先程までは完全に酔っ払っていたのにもう既に復活しているようで普通に会話が出来ていて驚いた。折角沖田も一緒に屯所へ戻ろうと気を遣って起こしてやったのに結局余計なお世話だったみたいだ。

「土方さんと私、先に屯所に戻るけどちゃんと近藤さん連れて帰って来てね」
「ゴリラと一緒に歩くなんて御免でさァ。俺も帰る」
「ゴリラって…。  でも近藤さん一人でちゃんと帰って来られるかな…」
「野生の本能があるし大丈夫だろ」
「そうかなァ」
「何でィ、そんなにアイツと二人で帰りてェのかよ」

私はただ近藤さんがボロボロになって帰って来られなかったら心配だっただけなのに、不貞腐れた子どもの様な言葉を吐く沖田。何だ、そんなに土方さんと私と帰りたかったのか?もしかしてやっぱりまだ酔っ払ってる…?そんな事を考えていると土方さんが戻って来た。

「帰るぞ神月」

土方さんにそう言われチラリと沖田の顔を見ると、すっとソファから立ち上がって土方さんの居る方へと歩いて行き、彼の肩口でボソリと呟いた。よく聞き取れなかったがそれに対して土方さんは顔色一つ変えることはなかった。そんじゃ、行こうぜ。と何事もなかった様に沖田がソファに座る私の手首を掴み、そのまま店の外へと出た。
気まずい。何故だか知らないが外へ出てから誰一人口を開こうとはしなかった。私の右側には未だに手首を掴んだままの沖田、左側には土方さんが居て他人から見れば真選組副長と一番隊隊長に挟まれている私は非常に美味しいポジションで間違いは無いのだが、如何せん沖田の掴む私の右手首が悲鳴を上げはじめていた。

「ちょ、沖田痛い」
「あ…わり」
「う、うん?」

明日は槍でも降るのだろうか。痛いと言った所でどうせ更に強く掴まれるに違いないと考えていたのとは裏腹にゆるゆると力を抜かれ面食らってしまった。するとすかさず土方さんがぐいっと私の肩を抱いた。

「総悟、いい加減神月の手ェ離せ」
「アンタには関係ねェでしょう」
「チッ…」
「それよりどさくさに紛れて神月にくっつくのやめなせェ。ニコチン中毒が移りまさァ」
「移んねーよバカ!ほらさっさと離せ!!」
「テメーが離しやがれ!!」
「んだとォ!?」
「      」

いつの間にか普段の日常に戻った気がして少しほっとした。それよりも二人が左右に引っ張り揺らすものだから何だか少し酔ってきたかも…。き、気持ち悪い…。私お酒飲んでないのに…それ以上揺らしたら…まっ、マーライオンになっちゃう…。

「は、吐きそ…う」

揺さ振られる中そう呟くと、サザァッと二人が遥か彼方へ行ってしまったのは言うまでもない。


20171020
旅館編  続

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