休暇届って出した方が良いですか




今日はとっつぁんの付き合いでスナックすまいるに来ていた。店に着いて早々近藤さんは万事屋の所の眼鏡の姉貴に飛び付こうとして締め上げられていた。こんなのでも一応俺の所属する組織の大将だったりする。

「よォ〜しお前らァ〜今日は無礼講だァ〜好きなだけ飲めェ〜」

そう言って両腕に女をはべらせているのが警察庁長官の松平片栗虎、通称とっつぁん。無礼講だと聞いた総悟が酒をハイペースで飲み進めていく。まァこいつはザルだからちょっとやそっとじゃ酔っ払わないだろうと見て見ぬ振りをかました。しかしそれはどうやら間違いだったようだ。総悟は虚ろな目をして隣に座る俺の肩を組んできた。

「神月の事どう思ってるんで?」
「…ったく、またその話かよ」

総悟は最近になり執拗に神月についてどう思っているのかと聞いてくる事が増えた。ただの直属の部下としか思っていないと何度もそう伝えているのだがどうも納得いかないようだった。

「残念だがお前が思っているような事はねェぞ」
「俺が思っているような事って…何です土方さん」

皮肉な笑みを浮かべ顔を覗き込むようにして見てきた。もう何を言っても無駄だと考えた俺はそのまま厠へ向かった。立ち上がった際、逃げるんじゃねーやィ、と言う声が背後から聞こえてきたが知ったこっちゃねェ。
厠を後するとそこには見知った後ろ姿があった。名前を呼ぶと振り返るそいつはやはり此処には居るはずのない神月だった。どうやらとっつぁんが酔っ払って呼び出したらしいが着いて早々もう屯所へ戻ると言う。いくら隊服を身に付けているからと言っても以前攘夷浪士に攫われた事忘れてんのか?それに一人で外出禁止だと言ったのに屯所から此処まで一人でやって来たのか?それに今何時だと思ってるんだ。しかし神月はあれから暫く経ったしもう大丈夫だと言った。確かにこれからは何かあれば逐一俺に連絡すると言ったがそれでもやっぱり心配…  いや、これはそういう意味ではなく、神月は俺の直属の部下であり部下の心配をするのは上司として当たり前の事で…。だから断じてそういう意味ではない。頭の中でそんな事を一人で考えていると神月が満面の笑みで、俺の為にまたマヨネーズを買いに行きます、なんて抜かしてくるものだから思わず面食らってしまった。何て顔して抜かしやがるんだこの餓鬼は…!  と思いつつ一人で出歩くのは日暮れまで、と条件付きではあるが神月が一人で外出することを了承してしまった。何か言いたげな神月だったが素直に、はい、という返事が返ってきた。

「とっつぁんと近藤さんに先に戻ると伝えてくるから待ってろ」
「一緒に戻って下さるんですか?」
「どうせお前パトで来てねェんだろ」
「はい。夜道の運転は苦手なので」
「ったく。  隊服着てるからと言ってこんな時間に女が一人で歩いてちゃ危ねェだろうが」
「ありがとうございます!土方さん!」

ぱぁっと表情が明るくなった神月から一旦離れて俺は、とっつぁんと近藤さんが居るボックス席へと向かった。

「おォ〜トシ!どこへ行ってたんだ?ドンペリ入れたから一緒に飲もう!」
「いやいい。俺は神月と一足先に屯所に戻る」
「あら土方さん。屯所へ戻るならこのゴリラも連れて帰って下さいます?」
「そんなお妙さんっ!ドンペリ入れたんだから冷たくしないでェェェ!!」
「オイ…近ェんだよゴリラ!気安く触ってんじゃねェよ!!!!!」

何やら近藤さん達の居る席が騒がしいと思えば、ドンペリ…いやあれはドンペリでもそれよりも値段が上のピンドンを入れていた為盛り上がっていた様だ。相変わらずまたエグいパンチをかまされている近藤さんにやれやれ…と頭を抱え横目でとっつぁんを見ると何故か酷く落ち込んでいた。

「とっつぁん、どうかしたのか?」
「トシィィ〜瑠璃音チャンが反抗期なんだよォォォ」
「はぁ!?」

そう言って今にも俺に縋り付いてきそうな勢いのとっつぁん。一体何がどうなって神月が反抗期という次第になったのか分かり兼ねるがまァ大方、酔っ払いのとっつぁんを軽くあしらったとかその辺だろう。面倒臭い事になる前にそそくさとその場を退散した。
さっき別れた場所に戻って来たがその場には神月の姿はなかった。どこ行きやがったと店内を軽く見回すと総悟の隣に座っているのを見つけた。何故アイツらは隙あらばセットになっているのだろうか。

「帰るぞ神月」

二人の居るテーブルに着くと自分の思っているよりも遥かに低い声が出た。その理由を考えている隙もなく総悟がゆっくりソファから腰を上げ俺の方へと向かって歩いてきた。肩口へと身を寄せボソリと呟くようなそれはよく聞き取る事が出来た。

「神月は俺のなんで」

その瞬間体中の血液が頭に上っていったのを感じた。そして理解する事になった。何故総悟は、俺が神月の事をどう思っているかを知りたいのかという事に。だが、俺もどうやら素直に、はいそうですか、と引き下がれる男じゃないらしい。もちろんそれは直属の部下である神月の事を思っての事であって、決して土方十四郎という一人の男としてのものではない、と自分に言い聞かせた。しかしアイツらいつの間にそんな関係になっていたのだろうか。屯所へと向かっている間もそういった関係とはまた違う様に思えたが…。何故か俺は布団の中でも神月と総悟の事から頭が離れず、この夜はなかなか寝付けなかった。


翌朝、俺は近藤さんの部屋に呼び出されていた。部屋には既にとっつぁんも居てロクでもない話だという事が予想出来た。

「おォ〜揃ったなァ〜!」
「朝っぱらから呼び出して何の話だ」

あれだけ飲んでいたのにも関わらず二日酔いも無さそうに俺の顔を見るなり手を挙げるとっつぁん。まァ座れよトシ!と顔と身体中に無数の打撲を作った近藤さんが言い、ハァ…と思わず溜息を吐きながら腰を下ろした。

「明日からお前達には三日間の休暇をとってもらう」
「はっ…はァァァ!?」

唐突にとっつぁんが切り出した内容を理解する事が出来なかった。三日間?休暇?そんな事が真選組の俺達に許される事のだろうか。しかも何だっていきなりそんな話になったのか。

「瑠璃音チャンが真選組へ入隊してから暫く経つが、もっともォ〜っと彼女と親睦を深めて欲しくてよォ」
「いやでもよ…」
「おじさん、瑠璃音チャンに嫌われちゃってるからよォ〜!だからせめて楽しい事して欲しいな〜なんて考えた訳よォ」
「だからと言って三日間も休暇にする事は…」
「ごちゃごちゃと煩ェんだよォォ〜!!鉛玉ブチ込むぞトシィィィ〜」
「おっおい待て待て待て待て!!分かったっつーの!しかし休暇っつーのは真選組全員なのか!?」

んな訳ねーだろォが!と言われ少し安堵した。そして休暇を取る事を許されたのは近藤さん、総悟、原田、山崎そして俺だった。いやいやいや!そんな時に攘夷浪士達が攻め込んで来たり大きな事件があったりしたらどうするんだよ。と思った所で、何かあれば見廻り組に逐一報告がいくようになっているから大丈夫だと近藤さんに言われてしまった。オイオイ…大将がそんなんで良いのかよ…。

「んで、とっつぁん。三日間の休暇をどう使えば良いんだ」
「それなら安心しろォ!もう予約はとってあるからよォ」
「は?予約?」
「あァ。お前達は温泉旅行で瑠璃音チャンと親睦を深めてもらう」

お、温泉旅行って…。野郎だらけの中行った所で一緒に入れる訳でもねェし、そんなんで本当に親睦なんて深められるのか!?厳ついガタイの良い大の大人がハイタッチなんてかましているが、そんな事にこの二人が気付いているわけでも無さそうだしな…。俺は幸先が不安でしかなかった。


20171025
旅館編  続

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