不透明な恋情

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「だからそう言う事が初めてだって聞いて無理をさせないようにしていたんだけど、でもそれが却って君に寂しい思いをさせてたんだね……気付いてあげられなくて本当に情けない。オレが引っ張ってあげなきゃいけないのに、佐藤さんに甘えてたのかな」
「私は……甘えてもらえて嬉しいです……」
「そう言うのがオレを駄目にするんだよ」
「あ……今、初めて氷室さんを可愛いと思いました」

 身体を離されてまた間近で顔を覗き込まれた。今顔ぐっちゃぐちゃだから見ないでほしい、切実に。

「可愛いだなんて、オレは君にいつも格好いいって思っていて欲しいなぁ……王子様なんだろう? 可愛いって言った罰として、いい加減泣き止まないとキスしちゃうよ」
「きっ……!?」
「あ、涙止まったね……そんなにキスして欲しくなかったの?」
「ちがっ、違うっ、び、ビックリして……!」
「こはるはオレとキスしたくないのかい? オレはずっとしたくて堪らなかったのに」

 は、初めて下の名前を呼ばれてしまった……しかもキスがしたいって! 突然すぎて頭がついていかない!
 と言うか、私だってめちゃくちゃしたいに決まってる……だって大切なファーストキスだから大好きな人としたいに、決まってるじゃないか……!
 迷った末に、ギュウッと思いきり目を瞑った。

「そんなに緊張しないで。ほら、リラックスして。別に痛い事するわけじゃないんだし」
「だ、だ、だって……!」
「いいのかい? 本当にしちゃうよ?」
「い、い、いいです、よっ……!」

 目を瞑っていて分からないけど、氷室さんが更に近付いた気配は感じる。い、いつするんだろう……息って止めてたほうがいいのかな……心臓があり得ないくらいバクバクしてるよ。キスでこんなに緊張してたら、私……いやいやいや。違う! 変なことなんて考えてないよ……!

「こはる、好きだよ」
「っ……!」

 唇が、触れた。
 それは柔らかくて温かい。触れるだけの優しいキスだ。
 私も震えてるけど、氷室さんもすこし震えてる。嬉しすぎてもうぐちゃぐちゃで涙が止まらないのに笑いも止まらないよ。しかたない、だって私達はまだまだ未熟な高校生なんだから。

「……ダメだ……どうやらオレも緊張してたみたいだね。格好悪いな」
「えへ、えへへ……」
「えっ、こはる? What’s up? 泣いてるのか笑ってるのかどっちかにしてくれ……大丈夫かい?」
「だって、嬉しくて……うぅ……ひ、氷室さんと、やっと、恋人らしくなれてぇ……」
「それならほら、オレの事も辰也って呼んでくれないかな」

 頬を赤らめた氷室さんが可愛くて、泣きながら辰也さんって呼んでみた。呼び慣れてないからくすぐったい。
 でもさ、好きな人に名前を呼ばれて、名前を呼んで私を見て笑ってもらえるってこんなにも幸せな事だったんだね。

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