猫茶日和 > MY HERO ACADEMIA > 桃の香りの救急箱


ハンドブレンダーが音を立てて小さく切った桃を瞬く間にピューレにしていく。
今までは全部手で切ってから、すり潰して…と、地味に時間がかかっていたから…
これなら然程時間もかからずに出来上がりそう…ふふ、楽しみだなぁ…。

貯めたお年玉ちょっと使ってしまったけれども、やっぱりハンドブレンダー買って良かった。
そんな事を考えながらも、私はゼラチンを溶かし始めた。
 
それにしてもこの桃、とっても美味しそうな香り…やっぱりお祖父ちゃんの実家から貰った桃だけあって、ちょっと良い物だったんじゃないかな。
好きに使いなさいって言ってくれたけども、結構な数使ってしまって良かったかなぁ…?
でもでも、なんでもそうだけれども…ちょっぴり作るよりも…多めに作った方が美味しくできるし。どうせなら美味しいって言って欲しいし、喜んで食べて欲しい。
 
風邪ひいたみたいで、あまり食欲が無いって相澤先生も言っていたし…
ふと、今日、風邪で学校をお休みしてしまった猫ちゃんの事を考えながら私は自宅のキッチンで溶けたゼラチン液を桃のピューレに混ぜた。
 
猫ちゃんが桃好きなのはリサーチ済みだし、ゼリーなら風邪の時も食べやすいと思うの。
…後は、手早く冷やして…器に入れれば完成かな?
 
よしと、手を止めると…思っていたよりも…大量に出来上がってしまった混ぜ合わさった桃のピューレを眺めた。
 
(うーん…これは…思っていた以上かもしれない。)
 
どうしようかなぁ、猫ちゃんにあげるとしても…相澤先生の分も入れても多くて4個位。
手作り品だから日持ちする方でもないし、美味しい内に食べきって欲しい。
お祖母ちゃんやお母さんは私が桃のゼリーを作るって言ったらワクワクしていたし…
これはきっと弟の巡くんも食べたいって言う。
そもそもお祖父ちゃんの実家から送られて来た桃を使っている時点でお祖父ちゃんにも食べて欲しいし、そうなるとお父さんにもあげないときっとしょんぼりされてしまう。
 
私だって食べたいし、明日のお昼は百ちゃんやまいちゃん達と一緒に食べようって話していたから折角だし皆にも持って行こうかなぁ…確か、まいちゃんも桃が好きって言っていたし。
うん、そうしよう…これなら何とかなるかな??
後は……




勝己くんは、食べられるかなぁ……??
 
「でも、そもそも勝己くんは甘い物あんまり好きじゃ無かったからなぁ…」
 
思わず声に出して呟いてしまった。
 
うーん、でも毎年バレンタインにあげている手作りのチョコはちゃんと食べてくれているみたいだし…。
ゼリーならチョコよりも甘すぎないから…勝己くんも食べられる…と、思う。
 
きっといつものように『お前が作ったんか?』って聞いてきて…
『そんなら寄こせや』って言ってくれると、思いたい。
……甘い物があんまり得意じゃないのに。

私の大事な幼馴染の男の子はなんだかんだ言っても結局は優しいよね、…と、そんな勝己くんの姿を思い出して…ちょっぴり、笑ってしまった。
 
 
 
 
 
お昼休みに出した桃ゼリーは皆に大好評だった。
 
三奈ちゃんには『天才だよ!!!!』と叫ばれ、耳郎ちゃんは『アンタ本当にこーゆーの上手いよね、やるじゃん』と褒めてくれた。
まいちゃんに至っては言い過ぎかもしれないが切島くんを見ている時みたいな顔になって言葉も無くひたすらに食べてくれた。
百ちゃんは『美味しい…久しぶりに菊さんの手作りのお菓子が食べられて幸せです…早速次のお茶会の日取りを決めましょう!!!』と前のめりになってスケジュール確認を急かされた。
 
自分でも美味しくできたなぁと思っていたので皆の反応にはちょっとホッとした。
自分が美味しいと思っていても、周りの意見と違う場合もあるから…
これなら猫ちゃんも大丈夫かなぁ、そうだと良いなぁと…今日も学校をお休みした彼女の事を授業中も考えてしまった。
 
放課後になってカバンに教科書を詰めているといつものように勝己くんが来てくれた。
 
「そろっと帰んぞ」
「うん、あの…帰る前に職員室行っても良いかな?」
「は?」
「相澤先生に用があるの、ちょっと行って来ても良いかな?」
「分かんねぇ課題でもあったんか?」
「ううん、ちょっと相澤先生に渡したい物があって…ちょっとだけ待ってて、ゴメンね」
 
勝己くんはちょっと怪訝な顔をしていたけれども、私がそう言うと軽くタメ息を付いて早よ戻って来いと言って私の席に座った。
 
「ありがとう、行ってくるね」
「ああ…」
 
笑顔で勝己くんにそう伝えると私は急いで職員室に向かった。
 
「失礼します」
 
途中保健室により冷蔵庫で預かって貰っていたゼリーを受け取った。
職員室のドアを開けるとちょうど相澤先生が帰る所だった。
良かった、間に合って。ここで渡せなかったら残念すぎる…
 
相澤先生、と私が声をかけると相澤先生は気づいて歩みを止めてくれた。
 
「薬我か、悪いが今日は…」
「早く帰るんですよね?お家で待っている猫ちゃんの為に」
 
私がすかさずそう言うと先生はちょっと怪訝な顔をする。じゃあ何で話しかけるんだって顔。
何だかそんな表情がいつもの先生らしくなくて…
きっと猫ちゃんの事がとっても心配なんだろうなぁ…っていうのがすごく分る。
きっと本当の家族…ううん、それ以上に思っているのかも。
今の相澤先生を見ていると、そんな風に感じる。
 
「これ、猫ちゃんにお見舞い品です」
「これは?」
「昨日作った桃のゼリーです、猫ちゃん桃が好きだって言ってたので…」
「…薬我が作ったのか?」
「はい。昨日、先生が猫ちゃん食欲が無いって仰ってたので…ゼリーなら食べられるかなって」
「そうか…わざわざ、済まないな」
「いえいえ、そんな…お大事にって伝えて下さい」
「ああ、ありがとう、アイツも喜ぶ」
「だと嬉しいです…では私はこれで、すみませんお時間取らせてしまって…早く帰ってあげて下さい」
「ああ…」
 
そう言って私を見た相澤先生の顔はなんだかいつもと違って…とても優しい表情をしていた。
やっぱり猫ちゃんは相澤先生にとって特別なんだろうな、そんな風に感じた。
 
 
 
 
 
職員室のドアを開けると…目の前に勝己くんが居た。
その手には私のカバンと彼のカバン。
 
「勝己くん、え、わざわざ来てくれたの?」
「おめーが…思ってたよりも、おせーからだろが」
 
そういうと、ちょっと眉間に皺を寄せた勝己くんは私の鼻をムギュっと摘まんだ。
 
「ごめんなひゃい…」
 
鼻を摘ままれたままで勝己くんに謝るとフッと面白そうに笑われてしまった。
うぅ…ちゃんと喋れない。
 
「おら…とっとと、帰ぇんぞ」
そう言って私のカバンを渡すと、勝己くんは鼻から手を放してくれた。
 
「待たせちゃってゴメンね、カバンありがとう」

私が改めてそう言うと勝己くんはちょっと拗ねたような顔でこっちを見て口を開いた。

「腹が、減ってんだよ」
「ご、ゴメンね?」
「だからとっとと行くぞ、おめーん家」
 
そう言うと先にスタスタ歩いて行ってしまう。
私は慌てて勝己くんを追いかける。
 
「別に構わないけど…家に?」
「……なんか作ってんだろ?」
 
ビックリした。勝己くんにはまだ話して無かったのに。勿論、勝己くんの分もあるけれども。
私がちょっと驚いた顔をして見ていると、またフッと笑われてしまった。
 
「それ、寄こせや」
「うん…桃のゼリーなんだけど大丈夫?」
「ま、食えんだろ」
「そっか…なら良かった。やっぱり勝己くんにも食べてもらいたかったの」

私がそう言って笑いかけると、勝己くんはちょっと目を見開いてこっちを見て…軽くタメ息を吐いた。
そのまま1人で足早に進んでしまう。

(そんなにお腹空いてるのかなぁ…ゼリーだけで足りるかな?他にも何か作ろうかな?)

そんな風に考えながら私も慌てて勝己くんを追いかけた。
 
 
 

 
 
この後、出久くんのお家に作ったゼリーの差し入れをしに行くと勝己くんに言ったら…
ぶつくさ言いながらも一緒に来てくれた。

インターフォン越しに怒鳴る勝己くんを抑える羽目になるのは…また別のお話。



written by りんご茶

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