猫茶日和 > MY HERO ACADEMIA > 万に一つの可能性


『霧々…こんな時に言うべき事じゃねぇってのは分かってんだけどさ……
オレ、お前の事が好きだ……』

『き、切島くん…』












夢にまで見たシーンだった。
切島くんが、あの、私の大好きな切島くんが、少し照れた顔でそれでもやっぱり切島くんらしく目は逸らさずに私の事をジッと見つめてくれて、

ずっと、ずっと…私が1番聞きたかった言葉を紡いでくれた。
今こんな場所で無ければ嬉しさのあまり、私は昇天してしまったかもしれない…

そう、ここが…
人の悲鳴と少し離れた所から爆破音が聞こえる場所でなければ。







きっかけは今日のお昼休みだ。
のんびりとご飯を食べながら三奈ちゃんや菊ちゃん達と放課後31で話題になっている新作のアイスが発売されるから帰りに食べに行こうと話していた。
そうしたら、ちょうど傍を通りかかった上鳴くんと切島くんに声をかけられた。
(正確には上鳴くんにだけども)

どうやら、上鳴くんも新作のアイスを前からチェックしていたらしくて、どうせなら一緒に行こうって話になって…
私にとってはとてもラッキーな事に傍にいた切島くんまで一緒に行く事になった。

放課後になって切島くん達は相澤先生に呼ばれたとかで一足先に教室を出て行った。
待ち合わせ場所は下駄箱。

楽しみにしていた31に向かおうと他の皆の様子を伺ったら…菊ちゃんが何やら爆豪くんと話していた。
会話はちゃんと聞き取れなかったが遠目でも爆豪くんの顔がちょっと不機嫌そうなのが見えた。

だ、大丈夫かな?と少し離れた所で様子を見ていたら三奈ちゃんに声をかけられた。

「バクゴーってさ、本当にあーゆーとこは分かりやすいよねぇ」
「え?」
「どーせ、菊ちゃんがウチらと行くのが気に入らないんだと思うよー」
「ああ、そっか」

ちょっと心配だなぁと思って視線を戻すと、やっぱりちょっと不機嫌そうな顔の爆豪くんと
笑顔の菊ちゃんがコチラに向かってくるとこだった。

「待たせちゃってゴメンね、31に行くの勝己くんも一緒でも良いかな?」
「いーよーぉ、爆豪もアイス食べたかったんだー?」

三奈ちゃんがちょっとニヤニヤしながらわざとらしく爆豪くんに話しかけた。

「あ?オレがアイス食うのがそんなに面白いんか、黒目!」
「そんな事言ってないでしょー?怒んないでよー」
「怒ってねーわ!」

どう見ても怒っているように見える爆豪くん相手に三奈ちゃん強気だなぁと思いつつ隣にいた菊ちゃんに目線を移すとちょっと困った笑顔だ。

「勝己くんもアイスよく食べてるよね、早く行こう?切島くん達待たせちゃうし」

そう言うと、菊ちゃんは柔らかな笑顔を爆豪くんに向けながら彼の制服の裾をちょっと引っ張った。
菊ちゃんのその仕草でちょっと三奈ちゃんに対してピリピリしていた?爆豪くんも口を閉じる。

(スゴい、菊ちゃんまるで猛獣使いみたい)
私が爆豪くんには到底言えない事を心の中で思っていたら、三奈ちゃんがそっと私に耳打ちして来た。

「スゴいね、菊ちゃん猛獣使いだわ」
そう言って目線を合わせた私と三奈ちゃんは互いにくすりと笑った。

「遅かったなー、って爆豪!?」
「なんだよ!お前も結局行くのかよ!?」
「あれま…」
「………」

職員室に用があるから、と言って先に教室を出て行った切島くん達と下駄箱のとこで合流すると、瀬呂くんと黒井ちゃんもいた。

「昼に聞いたら興味ねぇって言ってたじゃねーかよー?」

上鳴くんがちょっと拗ねた顔してブーブー言っている。

「気ぃ変わったんだよ、悪ぃか?」
「別に悪かねーけどさ〜」
「まぁいーじゃねーか、折角だし一緒に行こうぜ!」

上鳴くんはやっぱりちょっと不満そうで切島くんに宥められていた。


「瀬呂くんと黒井ちゃんも一緒にアイス食べに行くの?」
隣にいた2人に菊ちゃんが声をかける。

「昼にさ、今日ちょっと暑いなって言ったら誘われたんだよ」
「だよね!ちょっと蒸し暑い、残暑かなー」

三奈ちゃんが元気よく返事を返す。

「職員室で声かけられた。アイス好き」
「そっか、黒井ちゃんもアイス好きなんだね、美味しいよねぇ」

ニッコリ笑顔で菊ちゃんが黒井ちゃんに声をかけた。
コクコクと菊ちゃんの返答に頷く黒井ちゃん。
なんだか姉妹みたいだな、と見ていて微笑ましく思う。

最初思っていたよりも大人数になってしまったがこうして私達は商店街に向かった。


……それから約20分、皆でワイワイガヤガヤと練り歩き商店街に差し掛かった時だった。


激しいブレーキ音と悲鳴、そして何か大きな物が連続でぶつかる音。
皆、一瞬怯んだが次の瞬間、爆豪くんが音のした方へ駆け出した。

「爆豪!?おいっ!待てよ!」

駆け出した爆豪くんの名前を叫ぶと切島くんまでもが爆豪くんの後を追って走り出した。
私達は皆一斉に目線を合わせ頷き合うとそんな彼等の後を追って駆け出していた。






現場は…大惨事…とまでは、言わなくて済むのかギリギリなラインの玉突き事故だった。

後、数メートルで横転しているトラックがガソリンスタンドに突っ込む所で…
そのトラックの周りにやはり横転している車が2台。
近くに縁石に乗り上げてしまっている車が1台あった。

切島くんはトラックの中の人に声をかけている。
爆豪くんがコチラを振り向いて菊ちゃんになにか叫んでいる。

瀬呂くんは携帯を取り出して電話をかけていた。
おそらく救急車を呼んでいるのだと思う。

上鳴くんと三奈ちゃん、黒井ちゃんもそれぞれ横転している車の中の様子を見に行っている。
黒井ちゃんは瞬時に猫の姿になると小さくしか開かなかった車の中に入って行った。

皆が皆、今出来ることをやっていた。

私は…目の前に広がる光景を見て…一瞬血の気が引くのを感じた。
この光景が数年前に起こった…お父さんの事故を思い出させて…思わず足が竦んだ。

「まいちゃん、大丈夫?」

心配そうな菊ちゃんの声で我に返るまでそんなに時間はかからなかったかもしれない。

「うん、大丈夫…ありがとう」

顔色は悪いかもしれないが笑顔でそう返すと菊ちゃんはホッとした表情を見せてくれた。

「トラックの中に怪我人が2人いるみたいで…1人は意識失っていて、助け出すのに人手がいるの…まいちゃんにも、手伝って貰えるかな?」
「…うん、もちろんだよ」


しっかりしろ、霧々まい!今できる事をやるんだ!

私は自分にそう言い聞かせると菊ちゃんと一緒に切島くんの方に駆け出した。



「勝己くん!」
「下がってろ!!!!」

ボンッ!!と音がして爆豪くんの爆破でトラックのドアが外された。
早速、切島くんが中に乗り込み意識を失っている人を運び出した。

…………その時だった。

切島くんの背中で意識を失っていた筈の男の人が急にキラキラと光だし…
あっという間に眩い光を放つと私達4人は光に包まれた。

「菊っっ!!!!」
「霧々!!!!」

爆発!?!!!?!!!!!!!!

一瞬、そう思って身構えた私を切島くんが引き寄せる。
スゴい力で引っ張られて思わず切島くんに思い切り抱き着いてしまった…。

(ひ、ひえーーーーー!!?ゴメンなさい切島くん!!!コレはその、不可抗力です!!??!)

不謹慎にもそんな事を考えながら、いたたまれない状況を打開すべく、うっすら目を開けると、目の前には同じく…爆豪くんに抱き寄せられた菊ちゃんの姿。

スゴいなぁ、あの爆豪くんが庇ってる。
本当に菊ちゃんが大事なんだなぁ、

………等と思わず見ていたら、瞬く間に光は消えていき。

「………なんだ?今の?」
「……分かんない…」

私と切島くんは互いに目を合わせるとそう呟いていた。



「怪我してねぇか?」
「うん…大丈夫、ありがとう、勝己くん」

菊ちゃん達も大丈夫そうだ。
本当になんだったんだろう……あの光……

そう思ってちょっと考えていたら、急に切島くんが叫ぶように私の名前を呼んだ。

「霧々!!!!!!!!!!!!!!」
「は、はい!!?!!!??」

「好きだ!!!!!!!!!!!!!!!!」
「………………ぇ………?」

(今何を言われたの…私?)

切島くんが照れながら、顔を真っ赤にして大声で私に好きだと言って来た。


















「つまりは…なんだ、個性事故だな」
ここは病院の一室、おそらく運び込まれた患者さん達の身内の人がお医者様から説明を受けたりする談話室…だと、思う。そして、目の前にはちょっと渋い顔をした相澤先生がいる。


あの後、好きだなんだと私に叫ぶ切島くんを『クソ髪!!!!んなこたぁ、後でやれ!!!!!!』と爆豪くんが一喝。
菊ちゃんが個性で怪我人の治療をしている間に到着した救急隊員さんに連れられて、あの場に居た皆で一緒に病院へ向かった。

事故の状況を警察の人や医師に詳しく説明していると、話を聞いて駆けつけてくれた相澤先生が到着。
あの時、謎の光を浴びた切島くん、菊ちゃん、爆豪くん、私を含む4人がまずは別室に呼ばれ軽い検査を受けた。
特に目に見えて態度のおかしい?切島くんがもう少し詳しく検査を受け治療している間に、然程問題が無さそうな私達は相澤先生から状況の確認と説明をされた。

「個性、事故…」

私がちょっと震えた声でそう呟くと、菊ちゃんが心配そうな表情で私の二の腕にそっと手を置いてくれた。
今日はなんだかそんな事ばっかりだな、と思いながら大丈夫と私は菊ちゃんに笑いかけた。

「被害者が目を覚まさない事には詳しくはまだ分からないが、家族によるとどうやら彼の個性は…恋愛循環。まぁ、簡単に言うと惚れ薬…みたいなもんだな」

「…んだ、そりゃ…」

爆豪くんが心底嫌そうな顔をして呟いた。

先生の説明によると。
『彼の個性を受けると近場にいる異性に恋をしてしまう(個性の拡散される範囲は限られている)』

らしい…………。

つまりは、切島くんの『あの』状態は…個性によるモノで……
(ですよね…うん、ええ……分かっていました……)
分かってはいたけれども、それはそれで何だかちょっと切ない気持ち……

私がちょっと遠い目をしていると、先生が話を続けた。

「お前等は特に変化はないのか?」
「ねぇな…」
「特に…」

私と爆豪くんがそう即答すると菊ちゃんが、ちょっと考えながら相澤先生に質問をした。

「先生、あの…」
「どうした?」
「その…特に思いっきり、変わったという程では無いのですが…ここの辺りが…」

そう言って自分の胸の上辺りに手を添える。

「なんだか、その…ホカホカ?します」
「ホカホカ…?」
「痛いんか?」

爆豪くんが、少し眉根を寄せて菊ちゃんに問いかける。

「ううん、痛いとかでは無くて…その、なんて表現して良いのか、上手く言えないのだけれど…」
「痛みとか不快感は全く無いの、無いのだけれども…その、いつもよりも、あの…なんだかちょっとホカホカして…」
ごめんなさい、上手く説明できない感じで…、そう言うとちょっと菊ちゃんは頬を赤らめて黙ってしまった。

(うわぁ、可愛らしい…照れている、みたい?)

こんな時に不謹慎かな、とは思ったのだがあまりにも可愛らしくて思わず見とれてしまった。
爆豪くんもちょっと驚いた顔をして菊ちゃんを見ていた。珍しく口が半開きだ。
うん、気持ち…分るよ。

私達が菊ちゃんを見つめていると、それまで黙って何かを考えていた相澤先生が言った。
「ちょっと薬我はもう一度しっかりと検査を受けた方が良いかもしれん、場合によっては治療も受けろ。痛みとかは本当に無いんだな?」
「はい、痛みは本当に大丈夫です」
「それならそこまで問題は無いとは思うが、まぁ念の為だ。親御さんには連絡しておくから今からまた診察されて来い」

相澤先生にそう言われ、頷いた菊ちゃんは傍にいた看護師さんに連れてられ部屋を出て行った。

「本当に問題ねぇのかよ?」
菊ちゃんが出て行った方を見ていた爆豪くんが、相澤先生に質問する。
爆豪くんの…こんな顔を初めて見た。

「絶対とは断言しきれんが…聞いた話では特に身体に被害が及ぶような個性では無い。かかった個性の治療も可能だそうだ。個性効果も治療せずとも自然に治る、もって中二日だ」
「効果って、…アイツも個性にかかってんのか!?」

爆豪くんが声を荒げる。
「落ち着け、爆豪…個性にかかっている、という意味ならお前等全員そうだ」
「…どういうこった?」

「被害者の個性、発動すると必ず…その時傍に居た者全員にかかるらしい。ただ、その効果の程は完全に個体差だ」
「個体差…ですか?」

よく分からないと言った顔をした私達に、相澤先生は軽く溜息を付くと話を続けた。
「要するに…傍に居る、異性に恋をする。という事が全員に起こるわけだが、普段からそういう状態なら効果が無いそうだ」
「つまり…」
「元々、その相手に恋をしているなら、意味は無い」

「はぁ!!??」
「えぇっ!!????!!」

綺麗に私と爆豪くんの声がハモった。


つまり、つまり……それって、私や爆豪くんは普段から切島くんや菊ちゃんに恋をしているから
効果が無かったって事………?????

(は、恥ずかしい!!!何これ、めちゃめちゃ恥ずかしい!!!こんな形で自分の気持ちを周りに知られるなんて、たまらない!!!???)

三奈ちゃんがこの場に居たら『いやいや、アンタの気持ちなんて普段から切島本人以外にはバレバレだって!爆豪にしたって、そうだからね!?』って突っ込まれそうだが……そういう問題では無い。

恥ずかしさに死にそうになって思わず隣に目線を向けると、ビックリ。
爆豪くんの顔が赤い……。初めて見た。照れるんだ、爆豪くんでも。

思わず時が止まったような顔で爆豪くんを見ていると目が合った。
「…何見とんだ…このクソ派手髪……」
死ぬかてめぇ、と言わんばかりに爆豪くんに地の底から這い出るような声を出された。

怖っっ…!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
私は慌てて爆豪くんから目をそらした。

「まぁ、そういう訳で…爆豪と霧々、お前等は特に問題無さそうだな。他の奴らはさっき帰えらせたし、お前等ももう帰って良いがどうしたい?」

相澤先生にそう問われて思わず押し黙る。
どうしよう、そりゃあ…切島くんや菊ちゃんの事も心配だけれど…と私が考えていると、

「…残っても、いーか?」
と、爆豪くんが言った。

「構わんが、もう少し時間かかるかもしれんぞ?」
「別に問題ねぇ」
「なら、ここ使って構わないから好きにしろ…霧々は?」
「私も!残ります!!」
「分かった、切島と薬我には検査と治療が終わったらここに来るように言っておく…」

そう言うと相澤先生は部屋を出て行った。
「心配だねぇ…後、どの位かかるんだろう??」

ウロウロウロ…

「本当に個性、治るのかなぁ?」

ウロウロウロ……

「やっぱりちょっと看護師さんに様子…」

「五月蠅ぇんだよ、さっきから!!!!!!!!!!!!!!!!」

爆豪くんが怒声を上げてバン!!!!!と、目の前の机を叩いた。

「ひっ!!!!!!!」

「なんなんだてめぇは!!??!!動物園のクマか!!??さっきから目の前ウロウロウロ…ちったぁ黙って待ってらんねーのか!!!??」

「だ、だって」

私が思わず涙目になると爆豪くんは思い切り舌打ちをして黙った。




どの位、時間が流れただろう…ほんの数分だったかもしれないけども、爆豪くんが座る場所から少し距離を置いて座っていたら声をかけられた。驚くべきことに、爆豪くんに。

「なぁ……お前はクソ髪の個性、治ってほしーんか?」
「え…?」
「え、じゃねぇわ…アイツが今、かかっとる個性。治って欲しいのかって聞いとんだ!」

さっさと答えろや!とイライラした口調で再度問われる。
(ひぃ、すぐ怒鳴る!)
うぅ、怖いよぉ…と思いながらも、これ以上爆豪くんに怒鳴られたくなくて口を開いた。

「そりゃぁ、勿論…治って欲しいよ…」
「なんで?」

たどたどしくそう答えるとまた質問された。
「なんでって」
「お前にとっては都合のいい個性じゃねーのか?」
「都合いいって」


それは…それは…勿論、切島くんに好きだと言われて、嬉しくなかった…と言ったら確かに嘘になる。
でも、だけど…それって、それって個性によるものだって…言われて。
切島くんの本心じゃないのなら……どんなに私が欲しかった言葉でも、

「…意味がないもの」
「あ?」
「嬉しくなかった、とは言えないけども…、」
「………」
「それが切島くんの、本当の気持ちじゃなかったら、意味ないよ…?」

違うかな?と、逆に私から爆豪くんに問いかけてみた。
爆豪くんは、少し驚いた顔をしたが…すぐにいつもの(緑谷くん曰く)意地の悪い顔をすると
へぇ…と声に出した。

「ハデ髪にとっては、これが万に一つのチャンスだとしても棒に振るってか?」
「チャンスだと思えないもの…」

確かに、爆豪くんの言う通り、もう二度と切島くんにあんな素敵な言葉を貰える機会が巡って来なかったとしても。
だとしても、ううん、だからこそ『切島くんの隣にいても恥じない人になりたい』そう誓ったから。


「それにもし切島くんだったら、絶対こんなの良くねぇよな!って言うもの」

私が少し明るく切島くんの口調を真似てそう言うと、爆豪くんはとても嫌そうな顔をした。
あ、分かる…この顔は彼が切島くんを見ている時の顔だ。

「まぁ言うだろうな、クソ髪は…」
「でしょ?」
「だからって億に一つのチャンスを自分で潰すのもバカだとは思うけどな」
「…爆豪くん、なんで一気に単位がそんなに増えているの…?」

万から億って…酷くない?そんなに見込みがない感じに言わなくても良くない???
人の切ない乙女心と恋心を…と、私が心底残念そうに溜息を吐いた。
それを見た爆豪くんは何とも満足げな笑顔だ。
うぅ…本当に酷い、菊ちゃんにはあんなに優しいのに…今は優しさの欠片も感じない。
その後もしばらくの間、私はここぞとばかり?に、爆豪くんにイジリ倒されていた。


爆豪くんの言葉に慌てさせられていた私が何度目か分からない溜息を吐いた時だった。

「悪ぃ、2人とも待たせたな!??」
「勝己くん、待たせてゴメンね、まいちゃんも…」

そう言って待合室のドアが開いて切島くんと菊ちゃんがやって来た。

「切島くん、…もう大丈夫なの?」
「おう!多分な!て、言うか悪ぃな、霧々」
「……え?」
「実は個性にかかってた、とは聞いたんだけどよ…あんまりハッキリ覚えてねぇんだわ…」
「お、覚えてないの?」
「んーー、正直言って…薄ら、ぼんやり…と?所々抜けちまった感じ。たださっき先生にも薬我にも霧々に迷惑かけたらしいって聞いてさ」
「覚えてない事謝られてもイヤかもしんねーけどさ、…本当、迷惑かけて悪かったな!」

明るく、ちょっと申し訳なさそうな笑顔でそう言われ、なんだか私は腰が砕けそうになった。
もし、切島くんが不快に思っていたらどうしよう…とか色々と考えていたからなおの事。

良かったのか、悪かったのか…
何だか本当に拍子抜けで……思わずハハ…と乾いた笑いが口から洩れる。

「残念だったなぁ、ハデ髪…まぁ兆に一つ頑張れや」

そんな私を見ていた爆豪くんは、ニヤニヤと、また例の嫌な笑顔でこんな事を言ってくる。
うぅ、酷い、ますます単位が増えている。思わず私は爆豪くんをジト目で睨んでしまった。

そんな私の目線など全く気にしない爆豪くんが菊ちゃんに問いかける。

「そっちはもう大丈夫なんか?」
「うん、…とりあえず治療はして貰って…多分もう問題はないって」
「胸んとこホカホカするってのもか?」
「うん…多分…今はもう…さっき程じゃないかな?」
「なんだそりゃ?本当に治っとんのか?」
「うん、お医者さんもね、聞いたらそれなら大丈夫って」
「んならいーけどよ…」
「心配かけちゃってゴメンね、勝己くん…ありがとう」

菊ちゃんはそう言うと、さっきの切島くんのように申し訳なさそうな笑顔を爆豪くんに向けた。
そんな菊ちゃんに爆豪くんは軽くタメ息を付くと、
「とっとと帰ぇんぞ…」
と、菊ちゃんのカバンと自身のカバンを両方抱えて部屋を出ていく。
「あ、うん…ゴメンね、まいちゃん、ありがとう!切島くんもまた明日ね!」
そう言って早々に菊ちゃんも部屋を出ていった。

「うん、バイバイ」
「あ、おぉ、じゃあな!」

「なんつーか、爆豪って本当…薬我と仲良いよなぁ」
「うん」
「そういやさ、霧々も爆豪とちょっと仲良くなったのか?」
「はひ?」

二人を見送っていた切島くんがとんでもない事を言い出した。
「なか、よく…?」
「違うのか?」
「違うっていうか…え?」

なにそれおいしいの?位には聞きなれない単語だなって。誰と爆豪くんが、仲良く???

「いやさっきさ、爆豪お前に話しかけてたじゃん?」
「いや、あれは…そーゆーのじゃ…」
「そうか?頑張れって言ってたから、なんか励ましてんのかなってさ。アイツ分かりやすい位に興味ない奴とかに話しかけたりしねぇからさ」
「………え?」
「あれ、知らねぇか?爆豪が自分から声かけるってかなりレアだぜ?」
「…………いやぁ……、でも…」

励ましとは……?
まぁ確かに切島くんの言う様に爆豪くんが自分から話題をふるのは珍しい事なのかもしれないけれど。
(どう考えてもアレが励ましの言葉には思えない、どちらかと言うと蔑み…?)
もしこの場に緑谷くんが居たなら激しく同意してくれたに違いないと思うの。

切島くんはそう言ってくれるけれども、正直、よく分からない…。
私が眉根を寄せてウンウン唸っていると切島くんが笑った。
「そんな悩むような事じゃないだろ?本当、霧々って変わってるよなぁ」

いつもの、私の大好きな…明るい切島くんの笑顔でそう言われた。
「そうかなぁ?」

なんだか、それがとても嬉しくて…私も思わず笑顔になる。
「そうだよ、良かったじゃねーか、だってあの爆豪だぜ?」
「あの爆豪って…」

私もなんだか本当にそれが楽しい事みたいな気持ちになって、涙が出るほど笑ってしまった。
切島くんと一緒に。



「にしてもさ…今日は、残念だったなぁ?」
ひとしきり切島くんと笑った後、二人で寮への帰り道。
切島くんがそう言った。

「え?」
「アイスだよ!31の新作!お前食いに行きたがってただろ?」
「あ、うん」
「だよなぁ、俺なんか上鳴達と昼にどれ食うかって話してて…食べる気満々だったからさ」
「食べる気満々…」
「なんだよ、そこで笑うのか?」
「ゴメン、だって…」
「まぁだからさ、また明日にでも行かね?皆誘ってさ!」
「うん!行きたい」

私がそう返すと切島くんが嬉しそうに言葉を続けた。
「だよな!したら霧々はなに食いたいか考えとけよ!」
「え?」
「いやほら、今日の詫びっていうか…俺奢るからさ」
「えぇ!?」
「お詫びにしたら、ちょっと安いかもしんねーけどさ…」
「そんな事ないよ!ありがとう…本当に嬉しい。何よりも嬉しいよ…!」
「何よりもって…霧々は大げさだよな、ほんと!」

そう言うと切島くんは、また私の大好きないつもの笑顔を見せてくれた。

爆豪くんの言う通り、万に一つ…いや、億に一つの可能性だったとしても…。
これからも地道に頑張ろう!!私は密かに握りこぶしを作るとそう、決意した。
明日もきっと良い1日になるなぁ、なんて現金な事を考えながら切島くんと並んで歩いた。







後日、三奈ちゃんから「あの個性事故って、かかっても元々ある程度は好意が無いと、有効じゃないんだってさ♪」って聞かされてめちゃめちゃ動揺してしまったのは…また、別のお話。



written by りんご茶

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