猫茶日和 > MY HERO ACADEMIA > 1年A組七不思議
雄英高校1年A組には、いつの頃からか七不思議…?と呼ばれる逸話が存在する。
『青山優雅のビームは星形』ビームで貫いた穴が星形だった事からそう言われていたり、
『黒井猫は本当に猫である』長年生きた黒猫が猫又になった姿が彼女である…とか、
『尾白猿尾の本体?は尻尾』尾白の長い尻尾には体とは別の意思が存在している。
実は尾白の体を動かしているのは彼の尻尾だ…等、etcetc……。
どの内容も何だよ、それ?と言いたくなるような話ばかりで、本当に誰が言い出したのか…
皆目見当は付かないけれど。
正直な話、七不思議と言われてはいるが俺だって七つ全部を知っているわけではない。
まぁ…全部の話を詳しく知りたいわけでもないから別に構わないけれど。
そう思っていた、最近耳に入って来た新しい七不思議の内容を聞くまでは。
「危ない!!!!!!」
ドンッッ!!!! と、大きな音と共に俺の体は宙に放り出された。
次の瞬間、耳に入って来たのは皆のザワつく声と小さな悲鳴。
そして…やけに重たい左腕。
左腕に走る鈍痛に顔を歪めて地面に横たわる俺へと、走り寄る上鳴と切島の姿が見えた。
「おい、瀬呂!大丈夫か!??」
「いやいや、これどー見たってぜってー大丈夫じゃねぇっしょ??!!うわぁ、痛そ…」
そう言うと上鳴はケガをした俺よりも痛そうな顔をして左腕を見て来た。
「折れてんじゃねぇ!?」
「マジかよ!!?」
「……どーりで、痛いと思ったわ」
近くで騒ぐ切島と上鳴のおかげで、さっきまで何処か他人事のように感じていた俺の意識も
ハッキリして来た。
そうだった、俺…上から落ちたんだよな。
2チームに別れての対抗演習中に空中で爆豪に吹っ飛ばされた緑谷を俺のテープで助けたんだっけ。
爆豪の爆破の威力の想定内で動きを読んで…そこまでは良かった。
けれど…緑谷を受け止めた拍子にバランス崩して……
そのまま、ドスン…。まぁ緑谷を巻き添えに落ちなかったのは良かったけれども。
(最後まで決めらんなかったの…カッコ悪ぃな…)
そんな風に考えながら顔をあげると…目の前には相澤先生がいた。
「大丈夫か瀬呂、 立てるか?」
「あ、はい…」
そう言って俺が立ち上がると頭上からは心配そうな緑谷の大きな声。
「瀬呂くん!!瀬呂くん、ありがとう助けてくれて!!!!そして本当にゴメン!!!
大丈夫!!??」
俺のテープで体を固定されているせいで、ユラユラとまるでテルテル坊主のように揺れながら緑谷は泣き出しそうな顔をした。
「おー!そっちは大丈夫かぁ〜??」
「もちろん!!動けないけど…瀬呂くんのおかげで僕はケガしてないよ!!」
「なら良かったわー」
そんな俺達のやり取りを見て、周りの皆もホッと息をついた。
自分が思っていた以上に、どうやら心配かけてたみたいだ。
「とりあえず、動けるなら瀬呂は保健室へ行け。緑谷!降ろしてやるからお前は少しそこで待ってろ」
相澤先生の声を合図に皆が動き出した。
上鳴や切島に一緒に保健室に行くか?と聞かれたが、歩けなくは無かったので断った。
(まぁ、どっちかに付いて来て貰っても良かったんだが…あんまり大袈裟な感じにすると……
もっと気にするだろうしなぁ…)
と、先程も泣き出しそうな顔をしていた緑谷を思い出す。
アイツはほら、なんて言うか…良くも悪くもある意味では誰よりもヒーローっぽい。
そう。自己犠牲精神が強すぎんだよな。……言うて、こんなのは演習中によくある事故だ。
なのに、もし俺が大怪我をした…なんて事になったら…緑谷は自分のせいだと思いかねない。
……それに……。
そう考えながら俺は保健室のドアを開けて…、固まった。
いつもなら、ソコに居るはずのリカバリーガールが居ない。
「参ったね、どーも…」
「瀬呂くん、大丈夫?」
さて、どうしようか…と思案していた所に天の助け。『治癒』の個性持ち、薬我が来てくれた。
「お、ナイスタイミング!」
「リカバリーガール、居ないんだよね?」
「あれ、知ってた?」
「うん、今朝リカバリーガールと校長先生に直接頼まれたの。今日の午後どうしても治癒ヶ崎総合病院へ行かなきゃならないから…何かあったらその時は代わりを頼むよって。」
「なるほどなぁ…そりゃ、薬我が適任だよな」
「かなぁ?お役に立てるなら良いんだけど…」
そう言うと薬我は微笑んだ。
(薬我以上の適任なんて…今の雄英には居ないだろ?)
そう考えながらも、薬我に促されるように椅子に座らされ左腕を取られる。
ちょっと動かしただけでも痛みが走る。こりゃあ…ソコソコにヤバい感じがする。
「んー…骨折、とはハッキリ言えないけれど…骨にまではダメージいってる…と、思うよ」
「あ、やっぱり?」
「結構痛むでしょう?」
「まぁ…ちょっとキツい」
「そうだよねぇ…うん、本当は最終手段にしろって言われてるんだけれど…個性使うね。瀬呂くん、そのまま動かないでいてね?」
「分かった。」
そう言うと薬我は俺の腕を掴んだまま…目を閉じた、おそらく意識を集中しているんだろう。
ふわり…と風も無いのに薬我の髪が緩やかに舞う。
それと同時にうっすらと俺の左腕を掴んでいる彼女の手が柔らかな光に包まれた。
その光が徐々に薬我の全身に広がって…俺の腕にも不思議な暖かさを感じる。
なんていうか、そっと抱きしめられている感じっていうのか…これは?
(へぇ…薬我が個性を使うとこ初めて間近で見たけれど…)
「綺麗なもんだな…」
俺がそう呟くと同時に、薬我はそっと閉じていた目を開く。
「これで、大丈夫だと思うんだけれど…どうかなぁ?まだ、痛い?」
試しに左腕を回してみる。ブンブン、と勢いよく回しても先程の痛みは嘘のように消えていた。
「すげぇ…痛くねー…いや、本当。話には聞いてたけど凄げぇな、薬我の個性。」
「ありがとう。でもほら、私の個性は…傷が治せるだけで…それ以外は特にできないよ?戦いには不向きだし…」
「いやいや、じゅーぶんでしょ?その個性だけで、お釣りがでるって。それに初めて見たけど、
綺麗なもんなんだな」
「え?」
「ん?結構言われたりしねぇ?個性発動してる時の薬我。ふわっ…て光って、柔らかい感じで…何かこう…綺麗だなって」
「そ、そうかな…あ、ありがとう。まだあまり人前で個性使った事少ないから…そんなには無いかなぁ…」
だから、そんなに褒められた事も無いから…そう言われると、ちょっと恥ずかしいね。
と、薬我に照れ笑いされた。
(あれま、可愛らしい…)
普段あまり二人で話す事もないし(だいたい爆豪が隣にいる)珍しくも照れている薬我に
(そして今タイミング良く爆豪が居ない) 俺は興味本位で突っ込んでみた。
「そんなにって、事は無くはない…て事だろ?」
「え、…うん、その…前にも、言ってもらった事は…あるけど…」
「へぇー…誰に?」
「その…初めて個性を使った時に…勝己くんに…」
「アイツ人を褒める事、あるのか…」
そんな俺の呟きに薬我は一瞬、ビックリしたような顔をすると苦笑い。
「…瀬呂くん、勝己くんだって褒めたりするよ?」
「俺は聞いた事ねーけど…?」
「雄英に入ってからもあったし」
「ウソだろ…おい」
「もう…本当だよ、瀬呂くんや切島くんや…上鳴くんの事だって褒めてたよ?」
「………マジで?」
「うん」
「ちなみに、爆豪は…俺等の事は…なんつってたの?」
「アイツ等、使えるな」
「薬我さん…それは褒め言葉ですかね?」
「うん。皆の事、頼りになるし、頼りにしてるって事だもん。ね、褒めているでしょう?」
(何それ、どういう意思疎通???超翻訳???そういう事なの???)
正直…どうすれば爆豪の言葉がそう結びつくのか分からず、怪訝な顔をしている俺に薬我は
笑顔で語りかける。
「だから勝己くんはきっと皆の事、認めているんだと思うの」
「そーですかねぇ…?」
「もう、瀬呂くん、信じてないでしょう?」
「いや…まぁ…」
「分かりにくいかなぁ、勝己くん結構分かりやすいと思うんだけど…」
そう言うと薬我はちょっと困った顔をした。
いや、うん、確かに爆豪は分かりやすいよ、特に薬我に関しては…
「瀬呂くんは、皆の中でも勝己くんの事…理解している方だと思うんだけどなぁ」
そんな思考を薬我の言葉で遮られる。
「そっかな?」
「うん、さっきも…切島くん達の申し出断って、瀬呂くん一人で保健室に来たでしょう?
勝己くんや出久くんの事、気遣ってくれたのかなって思ってたんだけど…違った?」
「あぁ…、いや、まぁ…」
ビックリした。
緑谷の事ならまだ分るが…俺が爆豪の事まで気にしていた事を薬我に気付かれたのは正直驚いた。
(に、しても…何でココまで俺の事読めるのに、爆豪の自分への好意には気付かないんだ…??)
鈍いのか鋭いのかは分からない、が…ちょっと納得。
薬我は人の気持ちに敏感なんだ。んで、周りの人の思考を汲み取るのにとても長けている。
(爆豪も言わないだけで結構鋭いしな…そういう所が似てるんだな、此奴ら)
「だからね、瀬呂くん…ありがとう」
「え…?」
そんな事を考えて会話を中断していた俺に薬我は突然礼を言った。
「勝己くんや出久くんの事、気遣ってくれてありがとう。出久くんは絶対気にしちゃってると思うし…勝己くんも言わないとは思うケド…結果的にきっかけを作ってしまった事…多分気にしてはいると思うから…」
「マジか…」
「うん、瀬呂くんが二人に心配かけないように振舞ってくれたのが…凄いなぁって思って…本当にありがとう」
「おぉ…、うん。どう…いたしまして。」
「瀬呂くんって前から思ってはいたけれど…勝己くんが言ってた通りで、優しいし気が効くし頼りになる人だよね」
(爆豪がどんな言葉を羅列して薬我にそう言ったか、皆目見当がつかない…つかなさ過ぎて実感もわかねぇな…だけど、)
そんな風に笑顔で純粋に俺を褒めてくれた薬我につられて…思わず、俺も照れてしまった。
そう考えながら、俺はふと…最近聞いたばかりの1A七不思議を思い出した。
『爆豪勝己と薬我菊は幼馴染。付き合っていない』(あれでも)
なるほど…これは確かに七不思議にもなる訳だ。
この後、皆が待つ校庭に薬我と一緒に戻った俺に緑谷が謝り倒して来るのも…爆豪が妙に俺を気にして来たのも……また別のお話。
written by りんご茶
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