忘却の姫子
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レゼナが咲いた日 
 若い男だった。
 どうやら剣士らしい。腰に剣を履いていた。
 玄関の戸を開けて訪ねて来た青年を迎えて、ミルフィは暫し固まった。
 驚きを隠せなかった。これまでただの一度も、剣士が訪ねて来たことなどなかったからだ。
 青灰の短い髪に青い瞳。彼の整った風貌にも目を見張った。美形な青年だ。年の頃は二十代の前半から半ばくらいに見えた。
 ミルフィはしばらくの間、口を開くのも忘れてスラリとした長身の青年に魅入っていた。

(だ、誰……?)

「失礼。ユージン・ラガント・グレンディールの家はここか?」

 やがて青年がそう尋ねて来た。やや不躾で冷たい印象の物言いだ。これにも呆気に取られた。青年の表情は静かで動きがない。口調と同じく冷たい感じを受ける。
 ミルフィは、ユージンの知り合い? と首を傾げる。

「ど、どちら様ですか?」

 ようやくミルフィはそう聞いた。

「ルシアス・フォン・ヴァルダート」
「……はい。少々お待ち下さい」

 名前のみを簡潔に告げる青年に再び圧倒されつつ、ミルフィは踵を返しかけた。
 その時だ。
 ユージンが書斎から出てきた。

「ミルフィ。誰だ?」

 と言いながら顔を出したユージンは、来客者の青年を認めるや、ミルフィと同じく驚きの瞳を彼に向けた。

「……ルシィ? お前、ルシィじゃないのか!?」
「──グレン隊長。お久しぶりです」

 驚きに駆け寄って来たユージンに、青年は腰を折って頭を下げた。

「やはりそうか──!」

 ユージンと青年は固く抱擁した。久しぶりの再会らしい様子に、傍らのミルフィは黙って見守っていた。

 青年の言葉に一つ引っ掛かることがあった。

("グレン隊長"って……)

 初めて耳にした呼称だった。いったいどういう知り合いだろうか。

忘却の姫子