忘却の姫子
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レゼナが咲いた日 
 ミルフィはレゼナ花が大好きだった。三人はそれから口をつぐみ、春の柔らかな風に揺れる草花達を眺めた。
 そうして不意に、オスガが滔々と歌い出した。

 
  女神の坐す 尊い大地
  東にミネルバ山 南にサンカルナ湖を抱き
  我らは謡う

  天よ山よ大地よ 美しきセレスティアの民よ
  雨よ海よ河よ
  地に降り立ち 女神の大地の豊穣よ
  そら 笑え 詠え 青のレゼナを冠し
  恵みを讃えよ


 ミルフィとハウエルは顔を見合わせて、オスガを見つめた。

("青のレゼナを冠し"……?)

「オスガさん今の歌はなぁに? 綺麗な調歌ね。どこかの民族の歌なの?」

 ミルフィは身を乗り出して訊いてみた。オスガは丘の草原を見つめたままだった。瞳は深い皺に埋もれてしまっているが、曲がった背中と腰を精一杯に伸ばして、遠い何処かに思いを馳せているようでもあった。

「セレスティアじゃ。今は亡きセレスティア王国の古い謡じゃよ」

 ミルフィは首を傾げる。

「今は亡き……って?」

忘却の姫子