忘却の姫子
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青の剣士 
 *

 卵に砂糖、そして塩を少し──。

 キッチンを忙しく立ち回りながらミルフィはぶつぶつと呟く。
 今朝はラッシュサラダに、ルト鳥の玉子焼き、そしてミルーム(シチューのようなもの)だ。
 鍋からは美味しそうな香りが漂っている。
 あと五分程度煮込んだら完成だった。

 玉子焼きを作り終えて火を止めた時、ユージンがキッチンに顔を出した。

「ああ、美味そうな匂いだな」
「ユージン! もう出来るわ」

 皿に盛りつけながらにこにこと微笑む。

「すまんが、ミルフィ。朝食は俺の分は要らない」
「え!? どうして?」

 体調でも悪いのかと目を丸くして聞き返す。

「これから、アスタまで出かけて来る」
「アスタに?」

 アスタはレゼリュウスの隣町だった。レゼリュウスと似たような規模の長閑な町である。
 アスタには有名な風車丘があり、ユージンと一緒に何度も行った事はある。
 だが、急に何しに? と首を傾げる。

「心配するな。俺の友人が経営している酒場を訪ねるだけだ」
「ふうん?」
「悪いがルシアスの話し相手にでもなってやっててくれ。夕方までには帰る」
「ええ、分かったわ」

 あのルシアスの話し相手。中々に難しい大役だったが、ミルフィは素直に頷いた。

忘却の姫子