忘却の姫子
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青の剣士 
 昼も間近に迫り、ミルフィとルシアスはレゼナの丘に到着する。

「ね。凄く綺麗でしょう?」

 ルシアスは無言で丘の光景を眺めていた。
 その端正な横顔からは、彼が何を思うのかは分からない。
 ミルフィは特に気には止めず、荷物からスコップを取り出した。

「今日はね、少しレゼナを貰って帰ろうと思うの。ジャムと押し花にするつもりよ」

 隣のルシアスにスコップを掲げて見せる。

「そうか」

 その時。かさり、と草の擦れる音がし、「みゃあ」と、か細い鳴き声が聞こえた。
 え? と思い首を傾げて見やる。

「まあ。猫ちゃん」

 草花の陰から、一匹の黒猫が顔を覗かせていた。まだ若い雌猫だ。
 チリン、と首輪に付いた鈴が可愛らしく鳴る。

「珍しいわね。首輪付けてるし、飼い猫ちゃんかな?」

 その場にしゃがみ、おいで、と手を差し出すと、みゃあと再び鳴き、手のひらに顔を擦りつけて来る。

「人懐っこいわ。可愛い、ふふ」

 ね? とルシアスを見上げると、彼は膝を軽く折り、小さく微笑んだように見えた。

「目がオッドアイだな」
「あ、本当だわ。綺麗」

 言われて改めて覗き見ると、右が青、左が金だった。
 毛並みも艶やかな漆黒で美しい。
 背中を撫でていると、黒猫は、突如その場に倒れ込んだ。

「え!? 嘘、え!?」

 ミルフィは仰天して、黒猫の体を抱き上げた。
 腕の中でくたりとしている猫は、弱々しく息をしているが、今は瞳を閉じてしまっている。

「ルシアス……どうしよう、猫ちゃんが!」

 どうしたら良いのか分からず、ルシアスに助けを求める。ルシアスもその場に片膝を付いた時、

「お腹……すいた……」

 黒猫が、そう言葉を発した。

忘却の姫子