忘却の姫子
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ラスナーダ亭 
 確かに、ラスナーダ亭はもう、閉店して潰れていた。と言うよりも──入り口の鍵は閉まっておらず──入ってまず、埃臭さと軽いすえた匂いが鼻につく。

「これは……」

 店内に足を踏み入れ、ルシアスが低くつぶやく。薄暗い店内は、荒れ果てていた。
 明らかに、何らかの事件の痕跡があるのだ。テーブルや椅子はなぎ倒され、カウンター付近は元の状態をそれなりには保っているが、酒瓶やグラスが床に散乱し、カウンター内も同様だ。

「見て。あそこ」

 ソララが、ある一箇所を指さす。

「あれ、銃弾の痕よ」
「え……」

 ミルフィはざわりと背筋を震わせた。よく見れば柱の数箇所や壁にも、銃弾の痕らしき穴が抉られるようにして縦横無尽に走っている。
 ルシアスは、厳しい顔でその銃弾の痕を睨むように見つめていた。やがて、柱のそばへと、床の散乱を避けながら歩み寄り、軽く痕に指で触れる。

「最近のものではないな」

 しばらく検分した後、そう教えてくれた。ミルフィは、ほっと安堵の吐息をもらした。少なくとも、それはユージンとは無関係を意味しているからだ。

忘却の姫子