忘却の姫子
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ラスナーダ亭 
 ミルフィは唇を噛む。やはりユージンは自ら失踪した。それは確信した。喉が乾き、出されたお茶をひと口飲んで喉を潤す。ルシアスをチラリと横目で伺う。右隣に座る彼の端正な横顔からは、何も読み取れない。
 私はどうしたら良いのだろう。俯き、テーブルの木目を見つめながら、何度目か分からない問いを繰り返した。
 この女性が偶然にユージンと接触をしていたのは幸いだった。ユージンが何処に向かったのかは分からないが、自ら失踪した、とだけは分かったのだから。
 さわり、と、開け放した窓からやや冷たい裏路地の風が入り込む。
 出されたお茶を飲み終えた三人は、やがて女性の家を出た。
 帰り際に、早く見つかるといいね、と言ってくれたことが暖かく胸に沁みた。お礼を告げて後にする。

 私、頑張るから。絶対に諦めない。

「ルシアス。私……反対されることは分かってる。ユージンを探したい」

 外に出て、ミルフィはそう言った。物言わないルシアスの静かな瞳を毅然と見つめる。しばらく、ルシアスからは返事がなかった。
 確信していた。何故かは分からないが、ルシアスは了承してくれる、と。
 カチャリ、と金具の擦れる音がする。見ると、ルシアスは何かを堪えるように、腰に下げた剣柄を握りしめていた。

「ルシアス?」

 長いこと黙っているので流石に不安になり問いかける。

「あなたをお連れしたい場所があります」

 やがてルシアスは、そう言った。

忘却の姫子