恋するカメラ。
ねえ。あたしの胸。キモチワルイ? キモチイイ?
片胸を失くした娼婦の乳房に恋をしたタカラ。のカメラは、彼女の問いかけに答える。被写体の問いに答える。
それはなんて?
カメラは恋をする。被写体に。それがタカラ。の答えだ。
女性が自らの胸を失くしても尚娼婦として生きるのにはどんな理由がある?
彼女は何故娼婦として生きる?
被写体の“何故?”の真実を丸ごと写したかのような作品がミオウは好きだ。大好きだ。恋にも似た憧れだった。
タカラ。のカメラに娼婦の彼女もまた魅入られたひとりの女だった。
カメラと被写体が同時に心を通わせて、初めて、作品は生を迎える。
「先生」
「……なんだ」
結局、要らないと言いながらも冷蔵庫から持ち出して温め直し、フォークでつついているトマトのオニオン炒めに目を落としながら、無愛想な応えがあった。
それもまたいつものことだ。
「今年の夏に、カズミさん、こっちに来るそうですよ」
一拍を置いてから「げえっほ!」先生は食べていたトマトを喉に詰まらせて盛大に咳き込んだ。
「良かったですね。ほとんど三年ぶりだそうですね」
会ってみたいなあ。先生のご友人に。
本気だ。この先生の友人。快活で明るくて、そして先生を良く知る人物だ。興味が湧かない方が可笑しいでしょう?
げほげほっ、ぐ…! 先生は背中を丸めて本気で苦しそうに喘ぎながら、涙目で睨んで来た。笑いながらグラスに注いだ水を差し出すと無言でひったくり、無精髭の生やした顎と喉を反らして飲み干す。
ふうん。この人がこんなに取り乱す様子なんて珍しいな。かなり。一年にそう何度も拝めたもんじゃない。
「約束を果たしに行くからですって。ビンタをお見舞いするそうですよ。いったいどういう訳です?」
テーブルに身を乗り出して小首を傾げて先生を覗き込む。先生は見事な仏頂面だった。これはかなり機嫌が悪い。そしてばつが悪い気分の時の典型的なパターンだ。
先生は質問には応えようとはせずに苦虫を噛み潰したようなヘンな顔を張り付かせながら、煙草を取り出してフィルターを唇に挟んだ。カチリ。安物の使い捨てライターの火を灯す乾いた音が静かに響いた。