01.はじまり


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4月、それははじまりの月。
満開の桜が太陽の光を浴びながらキラキラと輝く様子は、学年がひとつ上がって新しい生活のはじまりを応援しているかのようだ。
今年から高校3年生になる仁兎なずなは、ひらひらと舞い落ちる花びらをみて微笑みながら夢ノ咲の門をくぐった。
クラス分けの紙を見た仁兎は去年までは普通科にいたはずの少女の名前を見て、はっとして小さく呟いた。

「あいつあれから連絡つかなくなっちゃったけどちゃんと来てるんだろ…?」

教室に入った彼はまずその名前の主を探したが、彼女が座るはずの席には荷物すら置かれていなかった。
自分の席についた仁兎は同じクラスになった鬼龍紅郎に話しかける。

「おはよう、紅郎ちん。
ねえ、クラスの名簿にあいつの名前あったの見た?」

「おう、仁兎おはよう。
なまえの嬢ちゃんのだろ?見たさ。ただ本人の姿は見てないがな。
誰も連絡つかないままここまで来ちまったがちゃんと学校来んのか…?」

そうこう話しているうちにSHRの時間になり、会話を終わらせた彼等は本来ならば埋まっているはずのなまえが座るべき席を心配そうな目で見ながら小さくため息を吐いた。





そして数日が過ぎ、学院に話題のプロデューサー転校生がやってきた日。
未だになまえが登校したことを確認した者はおらず、各々は近々行われるS1へ向けて準備をしたりと大わらわである。
そんなある日の放課後、仙石忍は所属する忍者同好会の修行の為に中庭にいた。
そこにはいつもと違う点がひとつ。
話題の転校生あんずとはまた違う髪色の、恐らくは仙石よりいくらか低いであろう身長の少女がプロデューサー科の女子制服を着て木の裏にもたれ掛かっていた。
なにやら紙袋を抱えて、地面を見つめている。顔は影になって見えない。
仙石は人見知りを発揮して、声をかけられずにいたがやがて、おどおどしながら近くの木に隠れ気味に声をかけた。

「あ、あの…どちらさまでござるか…?
ここはアイドル科で、その、プロデューサー殿以外の女の人は入ってはダメのはずで…」

声を掛けられたことに驚いた少女……なまえは、はっとして声のした方向、仙石の方を向いてぱちくりと瞬きをした。
対して仙石は上げられた顔を見てその雰囲気の美しさに目を奪われた。
丁寧に手入れがされているであろう長い髪が木漏れ日に照らされてキラキラと輝き、通り抜ける柔らかな風がその髪と制服のスカートの裾を揺らす。
一瞬息を呑んだ仙石をよそに彼女はその風貌に似つかわしい優しげで落ち着きのある声で仙石の言葉に応じた。

「私もプロデューサー科。3年生なの。あなたは仙石忍くん…かしら?」

仙石はプロデューサー科という事を聞いて、なるほどと思った矢先に所属ユニットと名前を言い当てられ、片方しか見えていない目を大きくして驚き、何故知っているのかと問おうとしたところ遮られた。

「千秋の、流星隊の子だから資料を見ていたのよ。
あの隊長、暑っ苦しいけどいい先輩だからユニット活動、頑張って。
それと、これをその人に…」

そう言って紙袋を押し付けた彼女は背を向けてその場を去ろうとした。
隊長の知り合いらしいことがわかった彼女から受け取った紙袋と本人を数回見比べて名前を聞かねば、と少し大きな声をあげた仙石。
振り返ったなまえは儚げな笑みを浮かべてそれじゃよろしくとだけ言い残して去っていった。
その表情の意図が分からない仙石はただその小さな背中を見つめることしか出来なかった。

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