
酒は呑んでも呑まれるな
安室 side
「#name2#さん、とりあえずはこれを飲んでください」
「はーい」
まるで子どものような返事をして、素直に僕から水の入ったコップを受け取る#name2#を微笑ましげに見つめる。
小さな両手でコップを持ち水を飲む姿に少々いじらしさを覚えつつ、彼女の髪を一房掴み、口付ける。
「あなたの事…もっと知りたいです…教えてはくれませんか?」
大体の女はこうすれば簡単にこちら側に落ちて、情報をベラベラと話してくれる。
現に#name2#も酔っているからか分からないが頬を染め、こちらをまじまじと見つめてくる。
勝ったと確信しながら、優しい笑みを浮かべ髪を持っていた手を頬に滑らせ、顔を近づけた。
すると#name2#はあろう事かぷすっと笑い、僕の頬を軽くペチペチと叩いてきた。
「安室さん顔近いですよぉ?」
「#name2#さん……?」
「そうだねぇ、私の事知りたいのかあ」
間延びしたいっそ間抜けらしい声では、#name2#水が入ったコップを揺らし、僕から身を離す。
少々予定外だったが話してくれるのなら良い。そう思って耳を傾けると。
「コナン君が読んでた本で、大体の事は分かると思いますがぁねぇ」
「あなたは本当に、じゃああの本の中の#name2#さんという人なんですね…?」
「リーマスは優しい奴ですよぉー、自虐的なのがいけないけどさあー」
僕の問いには答えず、突然始まった昔話。
また作中の人物か。
そう思いつつ話を聞き始めると、#name2#の顔が段々と緩み、しかし悲壮感漂うものになっていった。
「ジェームズは……うん、リリーリリーうるさかったなぁー……シリウスはただの駄犬だし……あぁピーターは…………ピーターはなぁ……何であんなに心の弱い子になっちゃったんだろう……優しい子なのにね……」
ふふ、と優しく笑いながらも、顔にかかる影が気になって仕方が無い。
聞かせてくれと言ったのは自分なのに、もう答えなくて良いと言ってしまいそうになった。
しかし今回を逃せば、彼女はもう話さなくなってしまうだろうと。
本は既に読破していた。
内容も全て頭の中に入っていた。けれど彼女はどうしたって脇役だから、過去の事も彼女の動きも大まかにしか書かれていなくて。
だから僕は知りたかった。彼女の口から、彼女自身の事を。
「あなたは…闇陣営にスパイしていた騎士団の#name2#ですね…?」
#name2#の頬に両手をかけ顔を上げさせる。
真紅の瞳が、まるで泣きたいのに泣けない血涙が溜まったように見えて仕方がなかった。
「安室さんは鋭いですねえ……さすがトリプルフェイス……」
「……!」
彼女の口から、自分の立場を揺るがす言葉。
彼女は僕が安室透ではない事はやはり知っていたのか。
本名は降谷零で、組織ではバーボンでいる事も。
思わず眉間に皺が寄る。
幸い#name2#は酔っ払っていたためぼーとしており、こちらの険しい顔には気づいていないようだった。
「私も実は、トリプル程じゃないですけどダブルフェイスでした。あ、でも趣味の仕事とかも入れたら顔はいっぱいですねぇー」
「二つの顔、ですか……それはどういう顔ですか?」
核心に入った。本題はこれからだ。
彼女の今日は素晴らしく饒舌。
酒の効果に感謝しつつ、僕は距離を近づける。しかし何故が#name2#がそれを拒み距離を取ってしまった。
「えーとですね……私の所には良い人と悪い人がいまして」
「はい」
何故距離を取られたのか。少し疑問だったがまぁ良いだろう。別に不貞腐れてなんかない。
良い人と悪い人……良い人とはきっと騎士団の事だろう。そして悪い人とは闇陣営の事か。
依然#name2#は、コップを握りしめ、まだ酔いが冷めないのか口角が緩んでいる。が、目は悲しみで溺れそうだった。
正反対の態度と真意。
「私、良い人側だったんですよ。それで悪い人側になってスパイしろって任務が来て、私、悪い人になったんです。丁度今の安室さんみたいに」
えへへと緩く笑いながら、ソファの上で丸くなる。
危なっかしく思いコップを取り上げ話を促すと、素直に続きを話し始めた。
度数が多いものをたくさん飲ませて本当に良かった……。
それから#name2#はつっかえながらも口角をユルユルとだらしなく緩めながら話した。
闇陣営に完全に溶け込むため、自分も闇に染まった事。
幾人の人を傷つけたか、手にかけたか分からない程自分の手は罪に穢れている事。
大事な友人や恩師達は全て消え、今は一人ぼっちだという事。
おおよそ笑いながら話す内容ではなかったし、自分は聞いて良かったのか、聞き出した割に後悔に苛まれていた。
傷を抉ったりしなかったか、立場的には俺と全くと言っていい程同じじゃあないか。
酒の効果もあるからだが、何故こんなにもこの人はずっと笑っているのか。
「あなたは……強い人なんですね……」
ぽつりと呟いたその一言。
すると彼女はそれを聞いた途端、今までの笑いを止めた。
至極腹立たしいとばかりに僕を睨んだと思ったら、いきなり胸ぐらを掴んできた。
「っ……何で、何で……、あなたには言われたくありません……!」
「#name2#さん……?!」
「私は強くありません……本当に強いのはあなたです……!!」
真紅の目に涙を溜め、子どものように喚く#name2#。
自分の事ではなく他人の事になると感情的になった姿に僕は驚きで呆けた。
胸ぐらを掴んでいた手を離させ、彼女の両手首を掴む。#name2#は顔を下げてしまい、表情が伺えなくなってしまった。
「優しくて、頑張ってて……辛いのに……あなたは強いです……」
「……僕が強いと……そう言うんですか…?」
「あなたを見て私も頑張ろうって……同じ立場にいるって親近感を感じて……零さん……」
「……!」
「あなたは私の光です……頑張ってる姿……素敵な、方です……好き……いち……ばん……す……」
パタリ。電池切れのロボットのように#name2#は僕に倒れかかった。
すやすやと眠るその顔は全て話し切ったとばかりに清々しく。
あまりに無垢で、純粋で真っ白で。
一瞬自分が触るのを躊躇ってしまうくらい。
「何だかモヤモヤは残るが……まぁ良いか……」
一番俺の事が好き……?
俺は優しくて、頑張ってて光だと…?
「俺は聖人か何かか……」
自嘲の笑みを浮かべながら、#name2#を抱いてベッドに寝かせる。自分はソファで寝ようと思ったが、何となく彼女の傍にいたいと思ってしまった。
ベッドに入り込み、#name2#を軽く抱き締め目を閉じる。
今日の出来事だけで彼女の印象がガラリと変わってしまった。
強いのに弱く儚い。
この女性は一体何なのだろうか。
その日俺はよく眠れなかった。
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