愛のみちびき



今日は期待に胸を膨らませまくった入隊式だ。

入隊式までまだうんと時間はあるが、その前に名前は考えなければならない事があった。


昨日生前の自分の能力が備わっている事に対して自分は有利だと思ったが、実は名前は相当の目立ち嫌いであった。
幼少の頃トラウマとまではいかないが、瞳の色が血のように赤いという理由で目立ち、何人もの園児に囲まれ石を投げられた記憶があるのだ。

名前自身そのような事は気にもとめなかったが、この世界の人間は人と少し違う所があるだけで目立たせたり仲間外れにしたりする輩ばかりだと学習した。

名前の生前の世界は皆生きるのに必死でそのような事にはならなかったし、目立つ容姿の人ばかりだった。
名前が関わった人も、白髪金髪から始まり、おどけた調子に話す無駄にイケメンなピエロに、目が死んでいる黒髪ロング。
そして喋る人外。
もうここまでくると何が来ても名前は大して驚きもしなかった。だからこの世界の人間は器が小さいなーくらいのレベルで事は終わったと同時に、目立つような事をすれば面倒臭い事になると覚えた。

そこから幼少の記憶から考えるに、まず目の能力や四大行をフルに使って入隊式に参加すればまず間違いなく大衆の見物になり、初日から目立つやらはやし立てられるやらで至極面倒臭い事になるだろう。
弾き出された結果、目の能力と四大行は公には晒さない。しかし使わない手は無い。それだから名前は、こっそり使う事に決めた。

周りの誰にも言わず、見つからぬようこっそり使えばバレないはずだ。
それこそ細心の注意は必要だが、そこは生前生きるか死ぬかの世界で生きてきた名前だ、きっと問題は無い筈である。
同じような境遇の人間がいたら別の話だが。


考えはまとまった。後はバレないように母の勧めてくれたボーダーを満喫するだけだ。


頑張ってきますね……お母さん……!











「ボーダー本部長忍田真史だ。君達の入隊を歓迎する」


黒髪の男性が壇上に立ち、挨拶をする。
三十路かそこらの印象を抱くものの、感じるオーラは相当なもので名前の肌が思わず粟立った。
周りにいる同じC級隊員達はオーラに気付かないのか、普通に忍田を見ている。彼のオーラに圧倒され粟立っているのは名前一人だけだ。

その後簡単な挨拶を済ませた後、忍田は敬礼をした。


「私からは以上だ。この先の説明は嵐山隊に一任する」


ザッ!と爽やかに登場した四人の男女。
すると名前以外の人達は途端にざわつき、女子達に至っては密かに黄色い声を上げ始めた。
何だ何だと名前は困惑していると、先頭の列の女子達は嵐山隊を見て何事かボソボソと囁き合っていた。
遥か後ろにいる名前からは何を言っているか聞き取れないが、顔のみは見えたので目の能力をフルに使い読唇術で読み取る。


"本物の嵐山隊だわ……あぁかっこいい……"

"後でサインか握手強請っちゃだめかしら……!"


サイン……?握手……?あの人らはアイドルなのですか……?



更に混乱する頭の中、希望するポジション。銃手、攻撃手、狙撃手に分かれて入隊指導をすると指示が出された。
銃手と攻撃手は嵐山、狙撃手は佐鳥が。

皆ゾロゾロとポジションごとに分かれる中、名前は一人オドオドとしていた。


だめだ、状況が飲み込めない。


アイドル的な正隊員に、無駄にキラキラとした訓練生達の群れ。
攻撃手的なものを生前やっていたから攻撃手を極めたら狙撃手に行けば良いか、と気楽な考えをしていた名前はぎこちない動きで嵐山が率いる団体の最後尾にちんまりと着いて行った。


みんな志高いですね……。



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