好奇を燃して



「まずは、入隊おめでとう」


訓練場の中に入ると、まず嵐山が訓練生の皆に祝福の言葉を送った。
それに訓練生は男女関係無く惚れ惚れとしていて、名前の混乱に更に拍車をかける。
名前は一人混乱する中、説明はどんどん進んでいった。


「忍田本部長も言っていたが、君達は訓練生だ。B級に昇格して正隊員にならなければ、防衛任務に就けない」


真剣な面持ちで話し始めた嵐山の話を脳内で咀嚼し理解する。
強くならなければ上には上がれない、上に上がらなければ母に活躍を見せれない。
そう解釈した名前は闘志の心に燃えた。今まで何に頓着する事無く生きてきた名前を気味悪く思わずきちんと育ててくれ、愛情を注いでくれた母に少しでも恩返しがしたい。
そんな思いで入ったボーダーだ、意地でも結果を出して早く昇格せねば。

今にでも昇格してやる!と叫びそうになる身体を抑え、名前は話の続きを聞いた。


「じゃあどうすれば正隊員になれるのか。最初にそれを説明する。各自、自分の左手の甲を見てくれ」


促されるまま皆手の甲を見れば、そこには1000と四桁の数字が浮かび上がっていた。


「君達が今起動させているトリガーホルダーには、各自が選んだ戦闘用トリガーが一つだけ入っている。左手の数字は、君達がそのトリガーをどれだけ使いこなしているかを表す数字だ。その数字を4000まで上げる事。それがB級昇格の条件だ」


指を四本立てビシリと決める嵐山を前に、また訓練生達は惚れ惚れと聞き入る。しかし名前はまた一人ブツブツと脳内一人会議を繰り広げていた。


私の数字は1000……あと3000ポイント足りないから、後の3000ポイントをどこかで稼がなきゃならないって事かぁ……。
溜めるまでにどれくらいかかるんですかね……早くB級に昇格せねばお母さんに恩返しができないです……!


「ちなみに、ほとんどの人間は1000ポイントからのスタートだが、仮入隊の間に高い素質を認められた者はポイントが上乗せされてスタートする。当然その分即戦力としての期待がかかっている。そのつもりで励んでくれ」


と、辺りが少しザワつく。
名前もそのザワつきの中心に目を向けてみると、そこには四人組の男女がドヤ顔で手の甲をさりげなく見せつけ立っていた。
四人の手の甲にはいずれも全員1000を超えるポイントを持っていて、あぁこれが嵐山が言っていた期待がかかっている者達なのかと名前は納得する。

しかしやけに天狗になってはいないか、そんなに得意げにしていたらこの先が大変だぞと心ばかりのエールを送った。
もちろん声に出してなどいない。本心ではないから。

はい落ち着いて、と時枝の鶴の一声で場が一旦収まると、嵐山は時枝にありがとうと一言言い、また説明を続けた。


「ポイントを上げる方法は二つある。週二回の合同訓練で良い結果を残すか、ランク戦でポイントを奪い合うか」


ピクッ!と名前の肩が僅かに揺れる。今、嵐山は何と言ったか。


合同訓練で良い結果を残すか、ランク戦でポイントを奪い合うか……?


まずは訓練の方から体験してもらう。着いて来てくれ。との嵐山の声も聞こえず、皆が着いて行く中名前だけはその場で俯き拳を握る。
後ろにいた時枝が訝しげにこちらを見てきたが、名前の脳内はそれ所では無かった。


聞いてくださいよお母さん!!合同訓練かランク戦でがっぽり点稼げばB級になれるんですって!!やったね!!
要はあれでしょう!?戦って修行すれば自動的にお母さんに恩返しできるんだ!!良いね!!生前と変わらないよ難しい事しなくて済むね!!やったね!!


「大丈夫?移動するよ?」


脳内でお祭り騒ぎ状態だった名前を、体調が悪いのと勘違いした時枝が心配そうに覗き込んできた。
伏し目がちな優しい瞳がこちらをいたわるように見つめてきて、意味の分からない申し訳なさに包まれてしまう。


「あっ!ごめんなさい、大丈夫です、元気です!!」

「そう、なら良かった」


フッと優しく微笑まれたその笑顔に、罪悪感で名前のSAN値はピンチになったのは言うまでもない。



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