褒め褒め



「さぁ到着だ。まず最初の訓練は……対近界民戦闘訓練だ」


大きなフロアに着き、訓練生達が騒然とする。
そこのフロアは部屋が何個かに分かれていて、その部屋の一つに何やら大きな怪物がいた。


「いきなり戦闘訓練……!?」

「まじかよ……」


恐れたように顔を青くする者、驚きで汗を垂らす者、余裕気に笑みを浮かべている者など反応は様々。
名前はと言うと、母のため母のためと嵐山の説明を一語一句逃さぬよう般若の形相で説明を聞いていた。


「仮想戦闘モードの部屋の中で、ボーダーの集積データから再現された近界民と戦ってもらう。仮入隊の間に体験した者もいると思うが、仮想戦闘モードではトリオン切れは無い。怪我も無いから思いっ切り戦ってくれ」


爽やか過ぎる微笑みを浮かべながら着々と説明を続けていく嵐山と、説明を聞いていく内に段々と焦りや恐怖の表情を浮かべていく訓練生達。
その反応が後ろからまざまざと見て取れて、何だかまるで反比例のグラフだなぁと名前は呑気に考えていた。


「……君は、あの訓練生達みたいに怖くないの?」

「え……」


後ろから聞き覚えのありすぎる声が聞こえ、それは自分に投げられたものだと理解して振り向く。
その声の主は先程申し訳ないくらい自分を労わってくれた時枝だった。

あまり内容が理解出来ず怖くない……ですか?と時枝に聞かれた事を鸚鵡返ししてしまい、嫌何でおれに聞くの……?と突っ込みを入れられる。


「あっ、ごめんなさい……怖いって言うのならば、さきほどの本部長の方の方が圧倒されて少しだけ肌が粟立ちました。それを見た後だとあの怪物はあんまり怖くないですね。それに偽物でしょう?怪我の心配も無いようですしそれなら余裕ですね!」

「……そうなんだ、訓練生の子でそう言った子は初めてだよ」

「そうなのですか?」


眠たそうな伏し目を優しげに細め、名前を見つめる時枝。
その視線が何だかむず痒くて堪らなかったが逸らす訳にもいかず、名前は微笑んでみた。


「そうだね、普通なら驚いたりとかするんだけどね」

「それじゃあ私は普通じゃないって事ですね。後は私、越してきたってのもあるんだと思います」

「あぁ、越してきたんだ。それじゃあ近界民とかに詳しくなくても仕方ないか」

「私が詳しくないの、何故分かったんですか……?」

「君さっき、近界民の事怪物って言ってただろう。三門市の人は皆近界民って呼ぶからね、だからあんまり知らないのかなって」

「お目が高い……!」


とボケれば、そこは鋭いとかでしょうとまた突っ込みを貰う。物静かな人だか何だかんだ会話のテンポが楽しく、名前もついつい楽しくなって夢中になってしまった。



back



- 8 -