ご愁傷さまお月さま



「あ、説明終わったみたいだね」

「え、終わってしまったのですか……!?」

「聞いてなかった?」

「ごめんなさい……貴方とのお話が楽しくてつい……」


そう苦笑いを浮かべれば、時枝はおれも話しかけてたから悪かったね、と眉を少し下げ僅かに口角を上げる。


「説明は以上!各部屋始めてくれ!」


嵐山の一声で、訓練が始まってしまった。名前はそれを呆然と見て、時枝に至ってはしまった……と一言呟くと表情を変えぬまま片手で額を抑えていた。


「どうしましょう……」

「少し遅れちゃうけど、今から急いでやろう。あの部屋が空いてる」

「は、はい……!」


大丈夫、おれも着いてるから。と頭にポンと掌を置かれ、一瞬頭の中がフリーズした。


イ、イケメンさんがいます……!何ですかスパダリですか……!


悶えたくなる身体を無理矢理収め、時枝と名前は部屋の中に入る。
名前は両手に急いで弧月を構えると、目の前に近界民が現れた。

目の能力をフルに使い近界民を見る。


名前はバムスター……、弱点は口の中のコア……っと。
早くしないと遅れて目立ってしまいます……!折角着いてきてくださった時枝さんにも迷惑をかけてしまうし目立つのは嫌です……!


早く終わらせなければ。名前の頭の中は遅れた分目立つ事を避けたいがために、ひたすら早く早くと焦った。
そして時枝が始めと声をかけようと思ったのも束の間、時枝が口を開けた瞬間近界民は口の中のコアを一刀両断され倒れていた。


「え……」

「大丈夫でしたか!?皆さん終わっちゃってたりしませんか!?」


てとてとと弧月片手にこちらに走り寄ってくる名前を、時枝は呆然と見つめるしかなかった。

部屋の中に入り、彼女が弧月を構える所までは確認できた。しかしそこから自分が始めと言おうとした瞬間から目が仕事をしなくなった。
否、仕事をしなくなったのでは無い。時枝は、名前の動きを視認できなかったのだ。

生前念能力だの、超能力者だのがゴロゴロいるような所で生きてきた名前も念能力者なだけあり、やはり常人離れした動きができた。なので名前は他の皆も自分と同じ動きができるものなのだと思っていたのだ。
けれど名前は辺りを見回してみると、自分以外の訓練生達は未だ近界民と戦っていた。

タラ……と嫌な汗が伝う。これは違う意味で目立ってしまったのではないか、と胃痛がしてきた。
名前の部屋のタイマーには2秒59としっかりと刻んであった。


「……すごいね」

「え、あの、えと、これは……その、」


目を僅かに見開いて驚き感心している時枝を必死に誤魔化すように、名前は両手を時枝の前で振るがあまり意味は無かったようですごいね、とまた言われてしまう。


不味いです。これは非常に不味いです。入隊直後から早速ピンチです。


ダラダラと冷や汗が伝いそうになりつつも、まぐれですかねー?と苦笑いしてみるが時枝は何言ってるの?と言わんばかりの顔ですごいね、としか言ってくれない。

入隊初日からピンチな名前であった。



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