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「何だ名字、今日はやけに機嫌が良いな?」

「え、そうですか……?」



今日も委員長と会議室で活動を行う。
今日は体育祭の応援仮装の予算案の原案作りだ。


名前にとっては初めてだらけの事なので、委員長に教わりながら電卓片手に奮闘する。
委員長からしたら初めてとは思えない程要領良くやっている名前に脱帽していた。



「何かあったのか?」

「ふふ、実は校内で自由にしても良いという場所を見つけたので、一人ガーデニングをしているのですよ。」




楽しいですよ、と名前が一層頬を緩ませて言うと委員長は顔を赤らめ、おう、と返した。
ガーデニングについては委員長はからっきしだったが、どれだけ楽しいものなのかは名前の顔を見れば明白だった。



「今日はそのガーデニングはやるのか?」

「えぇ、これが終わったらやろうかと。」

「そうだったのか!?そうなら早く言えよな、もう終わるから、急いで終わらそう!」

「え、えぇ。わざわざありがとうございます!」

「いや、良いよ。楽しい事なんだなって、名字の顔見れば分かるから。」




だから早く終わらそうぜ。とはにかむ委員長を見て、名前は自分の好きな物を理解してくれる人がいてくれる事は、こんなにも素晴らしい事なのだなと思った。







***





「よし、やりますよ……!」



あの後言った通り委員長と名前は仕事を終わらせ、生徒会と風紀委員長へ提出しに行った。
相変わらず真田にはたまらん!と判子を紙が滲むくらい押され、柳には不思議な笑みを浮かべながら大丈夫だ、問題ない。とお墨付きを貰った。



所変わり昨日のパーゴラ園。
名前が初めて見た時の寂れた様子は全くなく、今は花達が咲き誇りドームパーゴラは元の輝きを取り戻していた。

それもこれも昨日名前と兄が調子に乗って花壇やら井戸やらを杖で作ったのだが、全て魔法でやってしまうと怪しまれてしまうと思い、いくつかは手作業でする事にした。


じょうろと植木鉢、それから猫車にプランターにラティス。
その他諸々ガーデニングに必要な用品をピックアップしていき、それらを取りに名前は事務室へと向かった。





「ありがとうございましたー!」



無事園芸用品を借りられ、猫車にそれらを積んで満足気に名前はパーゴラの元へと向かった。


後の足りない物はテニスコート近くにある倉庫にあるから好きに使ってくれとも言ってくれた先生に、名前は心から感謝した。




先生……天使様です……!







***



「じゃあ、今日はここまで。皆、お疲れ様。」




相変わらずフェンス越しの女子の声にうんざりしつつも、立海テニス部のレギュラー達は部活に勤しむ。

しかし今日は夏休み丸々使って行われる合宿のミーティングのため、部活は早く切り上げられた。



部室でユニフォームから制服に着替えながら、ふと切原が騒ぎ始めた。



「あの女子達、本当に何とかならないんですかね。」

「切原君、それを彼女らに言ってはいけませんよ。」



切原は日頃の鬱憤を晴らすかのような文句に、柳生がすかさず制止を入れる。
と、そこに既に着替えを終えた仁王が、ベンチに腰掛け割って入ってきた。




「でも柳生先輩!さすがにうるさすぎやしませんかね!?」

「そこんとこどうなんじゃい、幸村。」

「ん?……まぁ、良い印象は持たないけれど、応援してくれてるから、強くは言えないよね。」



急に話を振られた幸村は少し驚きで目を見開くが、またすぐに普段の表情に戻った。

まぁ何か実害を出してきたら、その時は容赦しないけどね。と幸村は爽やかに微笑みこの話に無理矢理区切りをつけ、話を終わらせた。
周りの部員達の顔が青かったが、幸村はただ微笑むだけだった。








「……?何だか騒がしいですね……?」




猫車をパーゴラへと置いてきて、早速足りない物を見つけた名前は、テニスコートへと向かっている最中だった。
しかしテニスコートに近付いてみると、周りにはやはりあの女子の群れ。



何か凄い方々がいらっしゃるのでしょうか……何だか怖いですね……。



触らぬテニスコートに祟なし。名前はそう結論づけ、近くにある倉庫目指し一直線に進んだ。


途中女子達にぶつかったり足を引っ掛けられたりして転んで傷を作ってしまったりしたが、何とか群れからくぐり抜けられたのであった。




「こ、ここですか……!」



テニスコートにあるテニス部の部室の裏側。
ひっそりと薄暗く人気がないそこに、静かに名前が目指していた倉庫があった。

鍵を差し込み回してみると、手入れが行き届いているのか簡単に扉は開いた。



倉庫を管理しているあの先生のお陰だなと思いほっこりしつつ、名前は有難く中にある園芸用品達を借りていく。



足りなかった分のプランターに、スコップがなかったためそれも。
後は倉庫の中を探してみると、細かい装飾がなされた西洋もののガーデニングテーブルとチェアが出てきた。



これをあのドームパーゴラの下に置いたら良さそうですね……!




素晴らしいものに出会えた事に感動しながら、まず初めに大きなテーブルとチェアを外から出す。
見た目に反して軽かったので、持ち運ぶのに時間はかからなさそうだ。


チェアを四脚、テーブルを一つ、倉庫を少し出た所に置く。
丁度テニス部の部室の隣に置いてしまったので、邪魔になってはいけないと慌てて離れた所に置いた。



「ふぅー……、これで後はあちらに運ぶだけ……。」

「あぁーーー!!!」

「……?」




何やら驚いたような声が聞こえて、思わず後ろを振り返ると。

この世のものとは思えない程怖い顔をした黒髪の男子が名前を指さして震えていた。



「ぶ、部長!!」

「部長……?」



「女っス!!!!!」




確かに私は女ですが……?


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